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10.五人の転生者 4

 魔王城は外見より狭い。


 一階の内部構造は時計を意識するとわかりやすい。玄関から円形にぐるりと廊下が一周回っていて、時計の点の位置に食堂がある。


 玄関を六時に見立てるのならば、三時の位置に数多の調理器具が置いてある料理室、十二時の位置に古着屋のように無数のマネキンが乱立している衣装室。九時の位置に、勇者の剣や魔王の遺品が飾られた展示室。


 玄関の横に二階へ登る階段があり、上も同じような構造だ。客室用の部屋が五つ、主人の部屋が一つの計六つ。


 一般的な城にしては狭いが、魔王城の存在意義を考えれば妥当な大きさだ。天国の魔王が城を浮かばせたのは上空から一方的に攻撃できるから。空島に上陸されてからの戦闘は想定していない。


 つまり、天国の魔王がこの城を設計したのは、住まいとして生活をするため。迷宮のように罠を敷いたり、階層を増やして防御力を増す必要が無い、と考えたに違いない。


 食堂、料理室には目ぼしいものは何もなかった。清潔感の保たれた部屋で、金がかけられているという印象だ。調理用の魔道具も一級品のものばかりで、流石はルーゼン家が所有しているだけある。


 衣装室は和服からどこかで見たことのある民族衣装まで、異世界の文化が飾られている。これは天国の魔王が残したものだろう。


 続いて展示室。部屋の前に立った瞬間、扉の向こうから冷たい言葉が飛んできた。


「この部屋は、王子が調査中となっています。別を当たってください」


 扉が開かれ、質素な格好をした金髪の女が顔を出す。カオルと名乗った彼女は、僕らの入室を拒絶した。扉の隙間から、『王子』と呼ばれた男が見える。


 テラス達に次ぐ、二組目の招待客。

 西国ダルフ、第三王子アラン・ミルター。招待客として隣に立つのが恐れ多い、歴とした王族だ。

 富豪のルーゼン家とは異なり、ミルター家の影響力は僕らの住むパラスまでは届いていない。逆に言えば、ミルター家と敵対することは、国そのものを相手にすることとなる。


 アラン・ミルターは僕らを一瞥し、「良い」と続けた。


「学生達も萎縮するでない。我々は同じ招待客として難問に挑む同士だ。協力する必要はないが、あえて邪魔をすることもなかろう」


「しかし、王子」


「カオル。我々の方こそ引くぞ。展示室に異世界の門が無いことは分かったからな」


 僕らの返事を待つことなく、王子と召使は展示室を出て行った。

 随分と厄介な連中だ。一般常識は人並み以上に抑えているつもりだが、隣国の王子の顔までは追えていない。

 カオルという召使の女。彼女の素性を調べるのは骨が折れそうだ。もちろん、警戒度は高ランクで設定した。


「展示室には何も無いらしいね」


「他の部屋もそれらしいものはなかったな。まあ、城を一周した程度で解ける問題なら、難問に値しない。異世界の門が何なのか、見当をつける所から始めた方がいいかもな。実在する物なのか、概念的な話なのか。科学的な物なのか、魔法学的な物なのか……」


 こういう手掛かりが何もない時は、問題文を読み直したり、事前情報の整理をすることが重要だ。


 出題者はオルタ・ルーゼン。

 魔法使いと転生者の二人一組、計四組による知恵比べ。勝者には異世界の門の使用権が与えられる。

 用意した難問は『異世界の門はどのようにして開くのか』。これを解くために、第一、第二の難問が用意された。

 第一の難問は、『異世界の門は何か』。


「そもそも、なんでオルタちゃんは晩餐会を開いたのかしら」


 ソクラの疑問に、思わず笑みがこぼれた。

 いい疑問だ。潜入捜査の目的の一つ、『主催者の裏の目的を暴く』を、ソクラは自発的に考え始めたのだ。

 僕は上機嫌に、「表の目的は退屈凌ぎだろうな」と先輩に教えてもらったことを言った。


「僕達みたいな常人じゃ考えられない物の見方をしている。転生者を呼んで前世の話を聞きたいだけかもしれない。だけど、それにしてはリスクが高すぎる」


「何か危険なことあったっけ?」


「……。転生者が四人も集まったら、魔王が紛れていないと考える人間はいない。オルタは自らの命が危険に晒される可能性を許容して、晩餐会を開いた」


「なるほど?」


 いまいち理解していないようで、ソクラは曖昧に頷いた。

 

「転生者と魔王は外見では区別はつかない。魔王は魔法使いを殺す手段を持っている。それなのに、オルタは護衛をつけていない。これで分かるか?」


「ちょっと待ってよ。その考え方だと、あたしを含めた魔法使い全員が危ないんじゃない?」


「承知の上で来たんじゃないのかよ……。だが、その考えであってる。転生者を集めるのは魔王と対面するようなものだ。危険すぎる。招待客の僕たちは、『異世界の門』という明確なリターンがある。だが、オルタは他人に『異世界の門』を譲っている。彼女にとって、晩餐会はリスクしかない……、ように見えるって話だ」



 そして、退屈凌ぎだけではリターンが見合っていない。

 オルタ・ルーゼンは何か良からぬことを考えている。晩餐会は何か別の目的を成し遂げるための呼び水に過ぎないような気がする。


 招待客の素性を明らかにする必要もあるが、それよりも先にこちらを片付けなければならない。

 ソクラも僕の考えがわかってくれたのか、足先は二階のとある部屋に向けられた。一階をもう一周回るよりも、異世界の門がありそうな場所がある。


 二階の十二時に位置する、城内唯一の両開きの金で装飾された高貴な扉。恐らく、十年前は天国の魔王の自室だったここは、オルタ・ルーゼンの自室だった。


 魔王討伐戦線としてではなく、招待客の一人として。直談判させてもらおう。

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