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FATAL ERROR 〜あらゆるプログラムを書き換える代わりに、激重デバフを背負わされる俺の復讐譚〜  作者: くるまえび
魔剣術学校編

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第9話 開校と魔法陣

 復讐を誓い、新たな相棒レンとの約束を胸に迎えた朝。遥斗は、ルミナから教わったシンプルな料理を作りながら、今日から始まる学園生活に意識を集中させていた。


 朝食は、昨日も作った魔獣肉と野菜の炒め物。ルミナが「冒険者は常に身体を最高の状態に保つ必要がある」と言って教えてくれた、栄養価が高く、魔力回復を促す香草を多めに使ったレシピだ。その味は、ルミナの温かい笑顔と共に、遥斗の心に力を与えてくれる。


遥斗(ルミナの教えを無駄にはしない。この学校で得られる知識と経験、そしてレンとの協力で、必ず『あの方』の正体を暴き、ルミナの仇を討つ)


 食事を終えると、遥斗は短剣をローブに忍ばせ、学校へ向かう前に軽く身体を慣らすため、裏山に近い森林地帯へ向かった。彼は低ランクのモンスターを数匹、風魔術の連射と剣術を組み合わせて狩り、身体の動きと魔力の流れを確認した。


 30分ほどの狩りを終え、遥斗は学校へと向かう途中、街の中央にある冒険者ギルドの前を通り過ぎる。


「おい、ハルト!」


 ギルドの入口の影から、親しみやすい声と共にレン・アスターが現れた。彼は既に真新しいローブを身にまとい、背筋を伸ばしていた。


レン「待ちくたびれたぞ、相棒。てっきり、あんたはもう学校で勉強に励んでいると思ったんだが」


遥斗「おはよう、レン。少し体を動かしてから来た。あんたも早いな」


レン「ああ。昨日の試験で身体の芯から魔力を絞り尽くされたせいか、昨日はぐっすり眠れて、朝から調子がいい。今日は、この学校の本当の姿を探るための最初の一歩だ」


 二人は並んで歩き始めた。レンは道中、冒険者ギルドでの昇級試験の話や、彼の故郷の村での祭りについてなど、軽い雑談を交わし、遥斗の緊張を解きほぐそうとしてくれた。


レン「それにしても、昨日の校長の言葉が引っかかる。『優しく甘い場所ではない』か。一体、どんな地獄が待っているのやら」


遥斗「歓迎会と見せかけて、早速何かを仕掛けてくるかもしれない。警戒を怠るな」


◇◇◇


 バルモンド魔剣術学校の正門をくぐると、昨日にも増して多くの生徒で賑わっていた。全員が、今日から始まる学園生活に期待と不安を抱いている。


 二人は、クラス分けの掲示板で改めて自分たちの名前を確認した。


 この学校のクラスは、実力に応じてS、A、B、C、Dの5段階に分かれている。B級クラスは、入学試験で一定以上の実力を見せた中堅どころが集まるクラスだ。


そして遥斗とレンの名前はBクラスの表の中に書かれていた。


 遥斗とレンが掲示板の前で立ち止まっていると、周りの生徒たちがひそひそと話し始めた。


「あの二人がハルトとレンだろ? 試験の最後の集団戦を生き残った」

「特にハルトは、全身を炎に包んで突っ込んでいったらしいぞ。魔術士なのに、剣士以上の戦い方だったって」

「レンの光の魔術も凄まじかったって話だ。B級クラスは、今年は粒揃いみたいだな」


 昨日、命がけで戦った結果、遥斗とレンは図らずも学校内で注目の的となっていた。彼らはその視線を気にせず、指定されたB級クラスの教室へと向かった。


 教室に入ると、そこには30人ほどの席があり、既に何十人かの生徒が着席していた。席に着いている生徒たちは様々だ。魔力のこもった短剣を熱心に研いでいる者。魔術書を開き、真剣な表情で議論を交わしている者。誰もが、ただの学生ではなく、実戦経験を持つ冒険者や、将来の剣士、魔術師として名を上げようと野心を抱く者ばかりだった。


 各席には、名前と番号が書かれた胸につける名札が置かれている。遥斗は自分の名前が書かれた席に静かに座り、名札を胸につけた。レンは遥斗の斜め後ろの席に座り、周囲の生徒を観察していた。


◇◇◇


 しばらくして、教室の扉が開き、担任のライル先生が入ってきた。ライル先生は明るく、それでいて威厳のある声で、生徒たちを迎えた。


ライル先生「おはよう! B級クラスへようこそ。私はライル。君たちの担任だ。まずは、この過酷な試験を生き抜き、入学を勝ち取った君たちを、心から祝福する!」


 祝いの言葉は短く簡潔に終わり、ライル先生はすぐにこの学校の核心的なルールについて語り始めた。


ライル先生「さて、この学校の基本システムは非常にシンプルだ。それは、常に実戦を重視するということ」


ライル先生「ついては、一つ目の重要な告知だ。入学から一ヶ月後に、最初の実技テストを行う。これは、君たちがこの学校に留まるに値するかを問う、生き残りテストだ」

 

教室の空気が張り詰める。


ライル先生「このテストで、合格基準に達しなかった者、または脱落した者は、その時点で即座に退学となる。遠慮はしない。この学校は、時間とリソースを無駄にしない。テストのルールは、当日の朝に発表される」


 遥斗は、ルミナが殺された事件の情報を集めるためには、この学校に留まり続ける必要がある。この一ヶ月後のテストは、彼にとって最初の関門となるだろう。


ライル先生「そして二つ目。君たちは冒険者であると同時に、魔剣術の未来を担う者たちだ。座学だけでは真の力は得られない。よって、この学校は必ずしも毎日登校する必要はない」


ライル先生「君たちが街に出て、冒険者として魔物討伐や危険な探索を行い、実戦経験を積む方が、はるかに重要だ。登校は自由。ただし、実技テストに参加し、合格すること。これだけは厳守してもらう」


 この「登校自由」のルールは、遥斗にとって非常にありがたかった。ルミナの死の謎や、『あの方』の情報を探るための時間が十分に確保できる。


ライル先生「さて、今日は特別に4限目まで授業を行う。君たちの実力は知っているが、基礎の再確認は重要だ。1限目は魔術の基本から始める」


◇◇◇


 1限目の授業が始まり、ライル先生は魔力の制御と、魔術の基本的な構造について講義した。その内容は、遥斗がルミナから受けたマンツーマントレーニングと重複する部分も多かったが、彼の耳が捉えたのは、一つの重要な情報だった。


ライル先生「……そして、魔術の威力を高めるための最も確実な手段の一つが、魔法陣マジックサークルの展開だ」


 ライル先生は黒板に、複雑な幾何学模様を丁寧に描き始めた。


ライル先生「魔法陣は、魔術師が詠唱を終えた後、魔力を注ぎ込むことで発動する。これは、魔力を一時的に凝縮し、魔術の構造を固定・補強する効果がある。これによって、魔術の威力は通常の数倍から数十倍に跳ね上がる」


 教室の生徒たちから、小さなざわめきが起こった。


ライル先生「しかし、この魔法陣展開には極めて大きなデメリットがある。一つは、展開に時間がかかること。複雑な幾何学と、魔力の精密な流れを完全に構築するには、熟練した魔術師でも数秒を要する」


ライル先生「二つ目は、習得難易度が非常に高いことだ。魔力の精密な制御に加え、高度な空間認識能力と魔術理論が求められるため、魔法陣を完全に使いこなせる者は、魔術師の中でも一握りの天才に限られる」


 遥斗は、その言葉を聞きながら、心臓が高鳴るのを感じていた。


遥斗(ERROR能力による魔術の威力増加と、魔法陣による威力増大。この二つを組み合わせれば、誰も対処できない、超火力の魔術が完成する……! ルミナの仇を討つために、これは必須の技術だ)


 授業中、他の生徒たちが「難しすぎる」「実戦向きではない」と諦めの表情を浮かべる中、遥斗の脳内では、ライル先生が説明した魔法陣の幾何学模様と、魔力の流れのイメージが、すでに完璧に再現されつつあった。


◇◇◇


 授業はそのまま4限目まで続き、午後の日差しが教室に差し込む頃、この日の授業は終了した。


ライル先生「今日はこれで終わりだ。登校は自由だが、一ヶ月後の実技テストは命取りになるぞ。しっかり実戦経験を積んでおけ」


 生徒たちが席を立ち、退室していく中、遥斗はレンと合流した。


遥斗「レン。少し聞きたい。今日の授業で出た魔法陣。あんたは、あれを展開できるか?」

レン「もちろんできるさ。あれは俺の封印魔術の核心だからな」


 レンは、教室に残っていた生徒が少なくなったのを見計らい、声をひそめた。

レン「昨日の試験で、俺の光の鎖が上空から飛んできていたのを覚えてるか? あれは、俺が魔法陣を空中に展開して、そこから鎖を射出させたんだ。俺の封印魔術は、魔法陣を展開することで、術の精度を高められる。」


 遥斗は、レンに魔法陣の展開方法を教えてほしいと頼んだ。レンは快く承諾し、簡単な展開のコツと、魔力のイメージの仕方を教え始めた。


レン「まずは、魔力で円を描くイメージだ。それを地面に固定する。俺は、光魔術だから光のイメージでやってる」


 レンの説明は、ライル先生の理論的な講義よりも、遥かに実戦的でわかりやすかった。


遥斗(空間座標への魔力の固定。幾何学模様の展開。魔力回路の形成……)


 レンが説明を終えるや否や、遥斗は無意識に魔力を放出した。


遥斗「……ッ!」


 次の瞬間、彼の足元に、淡い青い光の魔法陣が、ほとんど時間差なく、一瞬で展開された。


レン「は?ふざけるな!? 今、教えて5秒だぞ!? あんた、本当に初めてなのか!?」  レンは絶叫し、その場に崩れ落ちそうになった。


遥斗「俺にもよくわからないが……できた」 遥斗(これもERROR能力の一部なのか?)


 しかし、遥斗の才能にも限界があった。彼は一度に一つの魔法陣しか展開できない。


レン「くそ、恐ろしい才能だ。だが、今のあんたは俺に及ばない。俺は最大で三つの魔法陣を同時に、しかも空中に展開できる。一つ展開できただけでも驚異的だが、複数の魔法陣を操るには、さらなる魔力の精密制御が必要だ」

遥斗「そうか。レンはさすがに封印魔術の使い手だ。じゃあ、俺はまず一つを完璧に、そしてその上で、火魔術や風魔術を魔法陣に乗せる練習をする」


 遥斗は、この日得た新たな能力に、興奮と希望を感じていた。


◇◇◇


 二人は学校を後にし、街へ戻る道すがら、昨夜からの懸念について話し合った。


遥斗「レン。あんたの村の事件と、俺の『あの方』の関係性について、今日の授業で何か気づきはあったか?」

レン「具体的な情報は何も得られなかった。ただ、この学校が、何らかの理由で特殊な魔術を使う人間を集めている可能性は高まった」


 レンは、改めて自分の意見をまとめた。

レン「俺の村の事件は**『人為的な魔物の凶暴化』、あんたの事件は『あの方によるルミナ殺害と模倣魔物の使用』だ。両者は今のところ直接的な関連は見つからない**。だが、どちらの事件も、裏で強大な力を持つ何者かが糸を引いている可能性が高い」


遥斗「そうだな。結論を急いでも仕方がない。今は、お互いの目的のために、この学校という『闇の巣窟』の中で力をつけるべきだ」


 遥斗は、レンとの相棒関係を再確認した。 遥斗「レン、一ヶ月後の実技テストまで、登校は最低限に抑え、俺は『魔法陣』の練習と情報収集に専念する。あんたも、三つの魔法陣の精度を上げろ。」 レン「ああ、わかった。俺たち相棒の目的は一つ。この世界に潜む闇を暴き、それぞれの復讐を果たすことだ」


 互いの目的が完全に一致しないとしても、彼らは互いの背中を預け合える、唯一の存在となっていた。

 遥斗はルミナの家へ戻り、レンは冒険者ギルドで仕事をこなすため、二人はそこで別れた。


第10話に続く――。

こんにちは、くるまえびです。第9話はどうでしょうか?

これからもFATAL ERRORをよろしくお願いします

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