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FATAL ERROR ―HP1の代償に神を屠るバグを得た俺、復讐の果てに世界を書き換える―  作者: くるまえび
破壊の女王と王国の王女

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第38話 これまでの代償と限界

 亡霊の峠、標高2800メートル。

 吹き荒れる雪はもはや視界を奪うだけのカーテンではなく、鋭利な氷の粒となって露出した肌を削り、体温を無慈悲に奪っていく。肺に吸い込む空気は、吸い込むたびに気道を凍てつかせ、肺胞を内側から切り裂く刃のようだった。


 その極限の白銀の世界で、赤き獣人――セレスの放った爪が、白猫の細い喉を貫こうと空を駆けた。

 死を予感し、絶望に瞳を閉じた白猫。その刹那、重厚な金属音が雪原の静寂を暴力的に引き裂いた。


 「ガギィィィン!!」


 王女が放った一本の鉄剣が、致命的なダメージになる一撃を紙一重で受け流していた。火花が散り、熱を帯びた鉄の粉が雪に落ちてジュッと音を立てる。


王女「……何をしているんですか? 戦闘に集中してください。」


遥斗(……クソッ、なんて言い草だ。だが、こいつの言うことは今の戦場においては正論すぎるのが腹立たしいぜ)


 俺は内心の激しい動揺を押し殺し、痺れる右腕を無理やり動かして短剣を構え直した。


◇◇◇


 崖の上、研究所の鉄扉の前で、白装束の男が不敵な笑みを浮かべた。彼は手にした端末に何かを打ち込み、俺たちを嘲笑うように背を向ける。


レン「まずい、さっきの男が逃げるぞ! この猛吹雪の中で奴を捕らえるのは不可能だ!」


 レンの声に焦燥が混じる。この亡霊の峠を攻略し、ようやく辿り着いた元凶の尻尾。ここで逃せば、レスタリア王国で流された血の報復は永遠に果たされない。


遥斗「ここは俺と白猫でやる! レン、フィオナ、それに王女様! お前らはあいつを追ってくれ!」


 セレスの戦闘能力は異常だ。全員で戦えば足止めを食らい、その間に黒幕を逃す。ならば、二手に別れて行動する必要がある。


レン「……分かった。だが遥斗、無理はするな! 」


フィオナ「遥斗さん、この加護を……そして『ヘイスト・アクセル』! 必ず、必ず生きて戻ってください!」


 フィオナは俺に補助魔術をかける。王女もまた、複雑な表情を浮かべながらも、決意を固めて走り出した。


王女「遥斗さん、白猫さん。……必ず、後に続きます。死なないでください!」


 三人の影が吹雪の向こうへと消えていく。セレスは即座にその追撃を阻止しようとしたが、先にその進路に白い毛並みが立ち塞がった。


白猫「……行かせない。セレスの相手は、我がやるのだぞ。我たちの『約束』を思い出させるまで、我は一歩も引かないのだ!」


 白猫は震える腕で、腰に携えていた長剣を、尻尾に巻き付ける。悲しみと闘志が混ざり合った、歪な咆哮が雪山に響き渡った。


◇◇◇


 激しい攻防が始まった。

 白猫は、欠損した左腕のハンデを、異常に発達した尻尾と、そこに巻き付けた長剣で補うという、独自の戦闘スタイルを確立させていた。右手の爪による刺突と、尻尾の旋回による長距離斬撃。その連動は、野生の直感でやっていた。


 対するセレスは、純粋な身体能力と魔術の融合体だった。

 もとの身体能力と身体強化魔術によって、彼女が地を蹴るたびに、雪原が爆発したように舞い上がる。そして白猫とは違い、魔術も戦闘に入れ込むことで攻めと守り、どちらにも対応できる用になっている


 「ガギィィィン!! ギチギチギチッ……!」


 互いの爪と剣がぶつかり合い、耳を劈くような高音が連続して響く。白猫の尻尾の一撃を、セレスは左腕の爪で受け流しつつ、右手の爪で白猫の腹部を狙う。白猫はそれを間一髪、バックフリップで回避するが、セレスの追撃の風魔術が彼女の肩を掠める。


白猫「ぐっ……ぁぁ!」


 白猫が徐々に押され始める。

 以前、遥斗が白猫と対峙した時よりも、目の前のセレスは「洗練」されていた。無駄な動きが削ぎ落とされ、最適化された殺戮のアルゴリズムに従っている。何より、白猫は先ほどまでの道中での魔物戦、そして俺との全力戦闘で、体力も魔力も回復仕切っておらず、底を突きかけていた。


◇◇◇


遥斗「……させるかよッ!!」


 俺はセレスの意識が白猫に完全に固定された瞬間、雪煙に紛れてその死角へと肉薄した。気配を消し、雪を踏む音すら最小限に抑える。

 だが、セレスの獣人特有の耳が、吹雪の音をかき分けて俺の接近を捉える。

 彼女は白猫への攻撃を中断することなく、首をわずかに傾けるだけで、俺の放った渾身の刺突を回避した。


遥斗(……チッ、やっぱり音を聞かれてるか)


 俺は即座に白猫へとアイコンタクトを送る。長年の相棒というわけではないが、死線を共にしてきた二人には言葉は不要だった。

 白猫が正面から捨て身の突進を仕掛け、セレスをその場に固定しようとする。その隙に俺が側面から防御を突き破る一撃を叩き込む――という挟撃作戦だ。


 白猫の爪がセレスの喉元に迫る。セレスは咄嗟に多重展開の防御魔術を張った。

 そこに遥斗の短剣が突き刺さる。


遥斗「突き抜けろッ!!」


 だが、セレスは俺の刃が防御魔術に触れる寸前、自らその防御魔術を破壊し、カウンターを仕掛けてきた。

俺はそのカウンターを何とか回避する。


◇◇◇


 戦闘開始から十分。

 標高2800メートルの酸素の薄さと、氷点下の冷気が、遥斗の肉体に限界を突きつけていた。


遥斗(……ハァ、ハァ……っ。肺が焼けるみてぇだ……)


 呼吸をするたびに口の中から鉄の味がする。全身の筋肉が痙攣し、意識が遠のきそうになるのを、精神力だけで繋ぎ止める。だが、そのわずかな鈍りを、セレスは見逃さなかった。


 「ドンッ!」という爆発音と共に、セレスが加速した。

 それはもはや生物の動きではなかった。雪原を滑るような高速の突進。俺が反応するよりも早く、セレスの鋭利な爪が彼の右腕を深く切り裂いた。


遥斗「ぐっ……!!」


 激痛が脳を突き抜ける。傷口からは熱い血が流れる。

 俺はたまらず後方に下がり、白猫が慌てて俺の前に割って入った。


白猫「リーダー!! 大丈夫なのか!? 血が止まらないのだぞ!」


遥斗「……っ、問題ねぇ……。ただの、かすり傷だ……」


 そう言いながらも、俺は出血によるショックと、極限の疲労。自身の肉体を内側から削り始めていた。


◇◇◇


遥斗(……やるしか、ねぇ……。このままじゃ、死ぬ。……『ERROR』、解放しろ……。俺のステータスを……書き換……)


MP: 95 / 500 → ERROR: 1000

ATK (Physical): 350 → ERROR: 2000


 俺は最後の手札を切ろうとした。自身のHP上限を燃料に世界の理を書き換える禁忌の能力。

 だが、そのコードが脳内で完成する前に、彼の肉体が悲鳴を上げた。


遥斗「ガッ……ゴハァッ!!」


 内臓が裏返るような衝撃。喉の奥からせり上がってきたのは、鮮明な血ではなかった。魔力の暴走によってドロドロに溶かされ、赤黒く変色した血だった。それが雪原に吐き出され、不気味な模様を描く。


白猫「……リーダー? リーダー!! 嫌だ、死なないでほしいのだぞ!」


 俺は膝をつき、手をついた雪が自分の血と吐瀉物で赤黒く染まっていくのを見ていた。

 耳鳴りがひどい。白猫の叫び声も、ほとんど聞こえない。意識が、沼の中に沈んでいくような感覚。


セレス「…………」


 セレスは、動かなくなった遥斗を冷淡に見下ろしていた。

 彼女にとって、目の前の光景は「標的の自己崩壊」という状況に過ぎない。悲しみも同情も、そこには存在しなかった。


 セレスは静かに、だが確実に殺意を込めて腰を落とした。

 彼女の爪に、周囲の空気が渦を巻いて収束していく。一撃で俺の心臓を抉り出し、その命を完全に断つための、最速かつ最大の突進。


 「――さよなら」


 赤い閃光が、無防備な俺の胸元へと突き進む。


第39話に続く――。

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