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FATAL ERROR ―HP1の代償に神を屠るバグを得た俺、復讐の果てに世界を書き換える―  作者: くるまえび
破壊の女王と王国の王女

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第36話 亡霊の峠と漂う死の香

 レスタリア王都を壊滅に追い込んだ「凶暴化」の嵐は去った。しかし、その元凶である「研究所」を叩き潰さない限り、この悲劇は形を変えて繰り返されるだろう。

 地下避難所の入り口付近、太陽の光が瓦礫を白く照らす中、俺たちは次なる一手を決めるための軍議を開いていた。


遥斗「さて、この後なんだが……。どうやって研究所を探す? 闇雲に歩き回るには、この辺り一帯は広すぎるだろ」


 俺が問いかけると、レンは腕を組み、険しい表情で地図を脳内に描いているようだった。エルナ王女は、まだ慣れない旅装に身を包み、不安そうに俺たちの顔を見つめる。


王女「その……研究所の場所を特定できるような、探知魔術とかは無いのですか?」


レン「残念だが、エルナ王女。ここにいる全員、そんな都合のいい魔術は持っていないんだ。探知魔術は通常、対象の魔力残滓を追うものだが、奴らは隠蔽工作に長けている。広範囲を一度にスキャンできるような魔術師はこのパーティーには居ないんだ」


フィオナ「困りましたね……。この国の周囲を歩いて探すとなると、かなりの時間と体力を消耗する骨の折れる作業になりますよ。魔物が徘徊する荒野で、それは命取りです」


 俺は思考を巡らせる。かつて無人島で研究所を見つけた時は、運良く研究員の出入りを目撃できたからだった。だが、そんな幸運が二度も続くはずがない。


レン「何か、物理的な足跡などが見つかればいいのだが……。流石に、研究所の連中がそんな馬鹿なヘマをするとは思えん」


遥斗(足跡……。跡……。……そうだ、匂いだ!!)


 俺の脳内にある「前世の知識」が、一つの有効な手段を弾き出した。俺はすぐ隣で、退屈そうに自分の白い尻尾を追いかけてくるくる回っている白猫に視線を向けた。


遥斗「おい、白猫。お前、鼻はいいか?」


白猫「ん? 鼻? 我の鼻は最高なのだぞ! どこに何があるか、誰が隠れているか、匂いだけで大体わかるのだぞ!」


遥斗「それは距離に限界があったりするか? 例えば、ここから数キロ先の匂いとか」


白猫「限界はあるのだぞ。でも、この辺り一体に漂っている匂いなら、目を瞑っていても辿り着けるのだぞ!」


 これだ。元の世界で言うところの警察犬。目の前にいるのは「猫」だが、獣人としての身体能力、そしてATK 2500を支える五感の鋭さは警察犬の比ではないはずだ。


遥斗「フィオナ、前に俺とレンが無人島の研究所で拾ってきた『あの薬』。まだ持ってるか? 確か一本くらいは残しておいたよな」


フィオナ「はい。ほとんどはバルモンド王国に提出しましたが、解析用に一保存しておいたものが一本だけ、鞄にあります」


 フィオナが丁寧な手つきで鞄から取り出したのは、禍々しく赤色に光る液体が入った注射器だった。

 俺はそのキャップを外し、中身の数滴を自分の手のひらに垂らした。


遥斗「白猫。ちょっとこの液体の匂いを嗅いでみてくれ。お前はこの匂いを……絶対に知っているはずだ」


 白猫は俺に近づき、俺の手のひらに鼻を近づけて「フンフン」と匂いを嗅いだ。

 刹那、彼女の細い肩がビクッと震え、瞳が鋭く細められた。


白猫「……! 嗅いだことあるのだぞ! 我、この匂いを嗅いだら、すごく嫌な気分になって……意識が無くなったのを覚えてるのだぞ!」


遥斗「安心しろ。匂いを嗅ぐだけなら、意識を失ったりはしないはずだ。……どうだ、この匂いの『元』がどこにあるか、わかるか?」


白猫「えーとね……。……あ、さっきまで居た場所からもするのだぞ!」


 白猫が指差したのは、俺たちが戦っていた王都の中心部だった。


レン「それはこの国を襲った魔物たちからだろう。あいつらも同じ薬を打たれていたからな」


遥斗「だよな。……じゃあ、それ以外だ。あっち以外の方向で、この匂いがする場所はないか?」


 白猫は再び精神を集中させ、空気を大きく吸い込んだ。白い尻尾がピンと立ち、アンテナのように揺れる。


白猫「……あ! こっち! 遠いけど、あっちからも同じ匂いが微かにするのだぞ!」


 白猫が真っ直ぐに指差した先。

 そこには、俺たちがこのレスタリア王国へ入るために、命懸けで越えてきた巨大な山がそびえ立っていた。標高3000メートルを超える難所、「亡霊の峠」だ。


遥斗「亡霊の峠……。あんな険しい場所に研究所を作ったのか? 確かに、人の目からは逃れられるが」


レン「……あり得るな。あそこなら人跡未踏だ。行くぞ」


◇◇◇


 俺たちは白猫の先導に従い、亡霊の峠の手前までやってきた。

 急峻な斜面が空を突き刺すように伸び、不気味な風の音が「亡霊の囁き」のように響いている。レンは足を止め、エルナ王女に向き直った。


レン「エルナ王女。ここからは野生の魔物が、街中とは比べ物にならない密度で出現します。引き返すなら今のうちです。王族を死なせては、我々も面目が立たない」


 それはレンなりの、不器用な気遣いだった。だが、エルナ王女は腰に携えた実戦用の長剣の柄を握り、真っ直ぐにレンを見つめ返した。


王女「私は、国を統治する者として、民を守るために訓練を絶やしたことはありません。……レンさん、私をただの飾り物だと思わないでください。私は覚悟の上で、ここに来たのです」


レン「……わかりました。ですが気を抜かないでください。よし、行くぞ」


 登攀が始まった。

 俺は元々の体力が少ないため、フィオナの「身体強化」がなければ早々に脱落していただろう。

 「亡霊の峠」という名の通り、道中は霧が深く、足元は常に不安定だった。標高が1000メートルを超えたあたりで、周囲の空気が一変した。


 「グルルルル……」


 霧の向こうから、複数の赤い瞳が浮かび上がった。

 白い毛並み、鋭い牙。雪山に適応した魔物「スノー・ウルフ」の群れだ。その数は十匹を超えている。


遥斗「来たか……。みんな構えろ!」


 戦闘の火蓋が切られた。

 魔物たちが一斉に、俺たちを包囲するように飛びかかってくる。


遥斗「悪いな、俺は短剣一本で十分なんだよ!」


 俺は風魔術の「ウィンド・カッター」を使い、腕を振り下げた。そこから見えない刃が真空の斬撃が放たれ、正面から襲いかかってきた二匹を、空中で真っ二つに両断する。

 だが、左側からさらに二匹。


レン「お前の左側は任せろ!」


 レンが指を鳴らすと、空中から漆黒の鎖が飛び出し、空中の魔物をがんじがらめにする。そこにフィオナが展開した防御魔術が衝撃を跳ね返し、魔物たちは姿勢を崩した。

 俺はその隙を見逃さず、喉元に短剣を突き立てる。


 一方で、エルナ王女の戦いは華麗だった。

 彼女は長剣を抜き放つと、魔物の突進を最小限の動きで回避し、その勢いを利用して横一文字に切り裂く。


王女「はあっ!」


 訓練されている、というのは嘘ではなかったらしい。彼女の剣筋には迷いがなく、魔力の乗せ方も洗練されていた。

 そして、それとは対照的に白猫の戦いは「暴力」そのものだった。


白猫「邪魔なのだぞ! 吹っ飛べ!」


 彼女は武器を使わない。その素手の一撃が、魔物の頭蓋を粉々に砕き、鋭い爪が一振りで胴体を引き裂く。ATK 2500の暴力は、野生の魔物程度では相手にならない圧倒的な破壊力だった。


遥斗「……ふぅ。みんな、大丈夫か?」


 数分の乱戦の後、周囲には魔物の死骸だけが残った。


レン「問題ない」


王女「私も問題ありません。ありがとうございます。……でも、遥斗さんの戦い方、なんだか不思議ですね。魔力の使い方が、この世界の理から外れているような……」


遥斗「あー……それはまぁ、色々な事情があるんだよ。先を急ごうぜ」


◇◇◇


 それから俺たちは、魔物との遭遇を最小限に抑えながら標高を上げ続けた。

 2000メートルを超え、山頂がすぐそこに見えてきた頃、景色は一変した。

 気温は氷点下を遥かに下回り、空気は薄く、呼吸をするたびに肺が凍りつくような感覚に襲われる。周囲は一面の白い世界だ。


白猫「……リーダー。匂い、強くなってきたのだぞ! もうすぐそこなのだぞ!」


 白猫が興奮気味に声を上げる。彼女の嗅覚は、雪の冷気の中でも確実に「死の薬」の香りを捉えていた。

 俺たちは慎重に、山頂付近の切り立った崖の影を進む。


遥斗「……おい、止まれ」


 俺は全員を制止した。

 吹雪の合間、視界の先。

 そこには、何もないはずの雪原に不自然なほど平坦な「入り口」のようなものが崖に掘られていた。そして、その前に立つ人影が二つ。


レン「……人影か。こんな極寒の場所に、護衛を置いているのか」


フィオナ「あの人たち……何だか、普通じゃありません。魔力の波長が、すごく歪んでいます」


 遥斗は目を細め、その影を注視する。

 二人の影は、全身を真っ白な防寒服で包んでいたが、その立ち姿からは人間らしい生気が一切感じられなかった。

 

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