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FATAL ERROR ―HP1の代償に神を屠るバグを得た俺、復讐の果てに世界を書き換える―  作者: くるまえび
破壊の女王と王国の王女

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第32話 魔力の喪失と白き猫

 死の宣告が振り下ろされるはずだった。

 月光を反射して冷たく輝く銀色の刃が、動けない俺の首筋を断つその瞬間を、俺は確かに覚悟していた。

 だが、訪れたのは鋭い痛みではなく、硬質な金属が激しく擦れ合い、空気を締め上げるような重厚な響きだった。


 「――ジャリィィィィィィィィィィンッ!!!」


 俺の目の前で、殺戮の権化と化していた獣人の少女が、まるで見えない巨大な大蛇に捕らえられたかのように、宙で静止している。彼女の四肢、そして俺の短剣が深く突き刺さったままの胴体を、紫色に光るの魔力を帯びた「鎖」が体を縛り上げていた。

 その鎖から放たれる、冷徹でいて揺るぎない魔力の波動。俺はこの感覚を、魂の奥底でよく知っていた。


???「……すまねえな。俺が思っていたよりギリギリだったようだな、遥斗」


遥斗「……レン。……はは、本当、に……死ぬところだったぞ……」


 絞り出した俺の声に応えるように、立ち上がっている砂埃を切り裂いて、一人の少年が姿を現した。

 冷静沈着な瞳をした、封印魔術を使いこなす少年――レンだ。

 そしてその背後からはフィオナが、崩れ落ちそうな足取りで俺の元へ駆け寄ってくる。


レン「やれやれ。お前が負ける姿など想像していなかったんだけどな……」


 レンはいつものどおりの口調だ。だが、その視線は俺の全身に刻まれた無数の傷、その奥にある憤りを隠しきれていなかった。俺はそれを少し嬉しく思った。

 レンは拘束の魔力を維持したまま俺の側に歩み寄り、静かに、だが力強く右手を差し伸べた。

 俺はその手を、迷わず、全力で掴み返した。


◇◇◇


 レンの手は冷たかった。

 引き上げられる感覚。膝の力が抜け、視界が一度大きく白濁したが、レンの肩を借りることで、俺は何とかふらつきながらも自分の足で立つことができた。

 すぐさまフィオナが俺の反対側に回り込み、そして支援魔術が俺の身体を包み込む。


フィオナ「遥斗さん……! すぐに応急処置を……。ああ、なんて無茶を……! 私たちの補助魔術がなければ、今度こそ本当に死んでしまっていましたよ……」


 彼女の浄化の光が、俺の肉体を焼く激痛を少しずつ和らげていく。

 俺は荒い呼吸を整えながら、最も優先すべき情報を求めた。


遥斗「……王女はどうなった。無事なのか」


 俺の問いに、レンは一度、遠くに見える燃え盛る王都の街並みへと視線を向け、それから重い口調で答えた。


レン「……ああ。王女は無事だ。俺たちが抱えて避難所へ到着する頃には意識を取り戻していた」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の胸に溜まっていた熱い吐息が、安堵と共にすべて吐き出された。

 俺がここで命を懸けて時間を稼いだ意味は、確かにあったのだ。だが、レンが続けて告げたこの国の現状は、俺の安堵を瞬時に凍りつかせるに十分なものだった。


レン「だが、被害は壊滅的だ。このレスタリア王国という国家は、今夜一度死んだ。建物の約70%が物理的に破壊され、王都の機能は完全に停止している。そして……」


 レンは一度、拳をきつく握りしめた。


レン「人口の約65%が殺害されたとの報告が入っていた。……まさに、地獄だ」


 俺は引き続き話を聞いた。どうやら俺が獣人と死闘を繰り広げている間、レンとフィオナは王女の救出のみならず、逃げ場を失った民衆を一人でも多く生かすため、崩壊する街の中を走り回っていたのだ。フィオナの防御魔術がなければ、死者数はさらに跳ね上がっていただろう。


遥斗「そうか……。俺たちが戦っている間に、そこまで……」


 俺は視線を、レンの鎖に縛られ、いまだに獣のような唸り声を上げている少女へと向けた。

 左腕を失い、腹部に短剣が刺さったまま、それでもなお殺意の波動を放ち続けるその「異物」。


遥斗「さて……。この獣人、どうする?」


◇◇◇


 俺の問いに、レンは冷徹な眼差しを少女に向けた。彼の封印魔術の魔力密度が、わずかに増す。


レン「……まあ、殺しておくのが一番の得策ではあるがな。これほどの戦闘能力を維持したまま、再び暴走を許せば、今度こそこの国に生存者はいなくなるだろう」


 レンの判断は極めて合理的だった。彼は自分の故郷が「凶暴化」によって滅ぼされた過去を持つ。目の前の脅威を確実に排除したいと願うのは、彼の復讐心というよりは、生存本能に近い。

 レンはそう言いながら、隣のフィオナを見た。

 フィオナは、きつく唇を噛み締め、震える手を握りしめている。彼女にとって、意思を奪われ、呪いに翻弄された挙句にボロボロになった少女をそのまま殺すことは、何よりも耐え難い自己矛盾だった。


フィオナ「……遥斗さん。この子は……この子もまた、あの実験の被害者なのではありませんか?」


 彼女の「救いたい」という無言の訴えが、廃墟となった広場に虚しく響く。

 殺すべきか、生かすべきか。

 俺はなにか解決できる案がないか探してみた。


遥斗「レン。……こいつが凶暴化している根本的な原因は、魔力暴走なんだよな?」


レン「……そのはずだ。異常な密度の魔力が体内で飽和し、精神の制御領域を完全に焼き切っている。それがこの異常な身体能力の源泉であり、同時に呪いでもある。……それがどうした」


遥斗「じゃあさ、こいつの魔力を……1回、根こそぎ『全部』無くしたら、どうなると思う?」


 俺の提案に、レンは目を見開いた。


レン「魔力の全排出か。……確かに、理論上は暴走のエネルギー源を断てば、過負荷状態は解消され、正気に戻る、あるいは暴走状態が解除される可能性はある。だが……」


 レンは否定的に首を振る。


レン「そんなことは不可能だ。魔力を枯渇させるには、本人が魔術を使い果たすまで待つか、吸魔の特殊な魔導具が必要だ。今のこいつに自由に魔術を使わせれば、その瞬間に俺たちは消し飛ばされる。危険すぎる賭けだ」


遥斗「了解。……それなら問題ない。ここは、俺に任せろ」


◇◇◇


 俺はレンの肩から手を離し、ふらつく足取りで一歩、鎖に繋がれた少女の前へと進み出た。

 俺には、普通の魔術師には持ち得ない「アレ」がある。

 『ERROR』能力の1つ、魂に刻まれたシステムに直接干渉するための能力。


遥斗「――『糸』、起動」


 俺が右手をかざすと、手のひらから数本の、不気味に紫色に発光する「糸」のような魔力が伸びていった。

 それは物理的な物質ではなく、この世界のプログラムの隙間を縫って走る、概念的な触手だ。

 紫の糸は空中でしなやかに踊り、獣人の少女の胸元――魂が位置する領域へと吸い込まれ、それは魂に巻き付いていった。


遥斗「……よし、繋がった。……ステータス、強制的開示」


 俺の脳内に、彼女の隠蔽されていたレジストリが流れ込んでくる。


Status: ???

Level:50S-Rank

MP:125 / 1000

ATK (Physical): 2500

DEF (Physical): 500


 ATK 2500。

 『ERROR』によるステータス書き換えを行っていない時の俺なら、指一本触れる前に塵にされていたであろう数値だ。

 俺は『糸』を介して、彼女の魔力を0にする。


遥斗「悪いな、少しの間だけ『空っぽ』になってもらうぜ」


 俺は脳内で、彼女のMP値を強引に「0」へと書き換えた。

 ステータスの直接書き換え――実行。


 その瞬間だった。

 少女の全身から噴き出していた禍々しい漆黒の魔力が、シュウ、と音を立てて急速に霧散していった。

 「ガ、……ぁ……、……」

 彼女は短く、か細い声を漏らすと、糸の切れた人形のようにガクリと力なく項垂れた。レンの鎖がジャラリと鳴り、彼女の身体を地面へとそっと下ろす。


 同時に、彼女の姿に劇的な変化が起きた。

 漆黒だった髪、闇を写したような長いまつ毛、そして尻尾の毛先。それらが、まるで雪が降り積もるかのように、根元から純白へと変化していく。

 黒猫を擬人化したような夜の色から、月光のように美しい白猫の姿へ。

 凶暴な殺気は完全に消え去り、そこにはただ、傷ついた一人の少女が横たわっていた。


レン「……魔力暴走が、収まった、だと!? 馬鹿な……、外部からの干渉で魔力を根こそぎ奪うなど、この世界の理ではあり得ないはずだぞ……!」


 驚愕するレンを横目に、俺は『糸』を消し、安堵と共に深く息を吐いた。

 

遥斗「……これが、俺のやり方だよ。……さて、あとは……」


 俺はそのまま、極限の疲労から意識が遠のきそうになるのを、フィオナに支えられながら、何とか耐え抜いた。


第33話に続く――。

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