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FATAL ERROR ―HP1の代償に神を屠るバグを得た俺、復讐の果てに世界を書き換える―  作者: くるまえび
破壊の女王と王国の王女

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第29話 静かな時間と決死の突撃

 激しい鋼の打ち合いの末、俺と獣の少女は再び距離を空けた。

 瓦礫が足元に積もり、かつての栄華を粉々に砕かれた王城の広場。燻り続ける煙がカーテンのように視界を遮り、焼け落ちた巨大な石材が時折「カラッ」と乾いた音を立てて崩落し、静寂を不気味に強調する。


 俺の呼吸は、まるで肺の中に灼熱の砂を直接流し込まれたように熱く、そして浅い。

 全身を蝕む火傷が心臓の鼓動と連動して脈打つたびに、鋭い痛みが電気信号となって脳を激しく揺さぶる。先ほどの魔法陣崩壊の爆圧を至近距離で浴びたダメージは、想像以上に俺の肉体を内側から破壊していた。指先一つ動かすたびに、皮膚が引き千切られるような錯覚に陥り、意識の端々が白く霞む。


遥斗(……クソ。俺の方はもう、立っているのが奇跡だっていうのに)


 視線の先、十数メートル先に着地した少女の様子を、血の混じった視界で凝視する。

 彼女の肩も確かに上下しており、額からは大粒の汗が、煤汚れた肌を伝って流れ落ちている。だが、その濁った赤い瞳に宿る殺意の光は、依然として暗く、深く、そして鋭い。

 爆発の衝撃波をまともに食らった俺に比べ、放った側である彼女には、まだ残酷なほどの「戦闘継続の余力」が残っているように見えた。


遥斗(このままじりじりと時間をかければ、間違いなく俺の体力が先に底を突く。……長期戦はこの「HP 0.1」の命にとって、確定した死だ。次の一撃、あるいは二撃。短期決戦で、すべての勝敗を終わらすしかない)


◇◇◇


 俺が焦りにも似た決意を固めた、その刹那だった。

 大気が悲鳴を上げるように激しく震え、周囲の魔力密度が異常な数値まで跳ね上がる。

 少女の細い体躯から、どす黒く、粘り気のあるような魔力が噴水のように噴き上がった。彼女の周囲で空間がガラスのように歪み、あの不吉な幾何学模様が、再び空中に編み上げられていく。


遥斗(また来る……! あの、すべてを蒸発させる崩壊する魔法陣だ!)


 俺は咄嗟に身構え、先程よりも大きい防御魔術を前方に展開をしようとした。だが、目の前に展開される魔法陣は一つ――という俺の予測は、無慈悲に打ち砕かれた。

 彼女の正面だけではない。右、左、そしてさらにその外側。

 魔法陣は細胞が増殖するようにして空中に連なり、横一列にズラりと、逃げ場を塞ぐように展開されたのだ。その数、五つ、いや、さらに増えている。


遥斗「……っ、絨毯爆撃かよ!俺の 防御魔術じゃ、衝撃の回り込みを物理的に防ぎきれねぇ……!」


 正面に展開する盾では、広範囲を包み込むように押し寄せる爆圧の連鎖を遮断できない。防壁の外側から熱風に焼かれ、そのまま瓦礫の下敷きになる未来が、容易に想像できた。

 俺の脳が、極限の緊迫感の中で一つの最適解を弾き出した。

 今までの戦闘では、彼女の攻撃に対して常に「横」あるいは「後ろ」へ跳んで回避してきた。だが、この広域殲滅魔法の射程圏内から、重力の束縛を受けたままの平面移動で逃げ切るのは、論理的に不可能だ。


遥斗「『エアロスピン』――上へ……飛べぇぇぇッ!!」


 俺は自身の足元に風魔術を放ち、竜巻を発生させた。

 ビュン!! という耳を劈くような音と共に、俺の身体は上空へと射出された。


 その直後。

 地上の広場を埋め尽くした魔法陣が、連鎖的に、そして暴力的に崩壊を開始した。


 「ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァァァァァァァン!!!」


 連続する大爆発。もはや音という概念を超え、振動そのものが世界を粉砕しにかかっている。

 爆風が猛り狂う巨人のように天を突き、激しい超高温の熱風が、上空へ逃げた俺の背中を容赦なく追いかけてくる。

 巻き上がった火の粉と、粉砕された石材の砂塵。そして衝撃によって超高温へと加熱された空気が、俺の火傷した肌に、無数の火箸を押し付けるようにして叩きつけられた。


遥斗「ぐっ、あ、あぁぁぁぁぁ……っ!!」


 意識が白濁し、そのまま失神して墜落しそうになるのを、奥歯が砕けるほどに噛み締めて繋ぎ止める。俺は空中で、慣性に逆らうように不自然に体勢を反転させ、もう一度、自身の胸元へ向けて風魔術を炸裂させた。

 爆発に伴って発生した上昇気流を逆に推進力として利用し、俺は王城の外壁――その無残に崩落した断崖を飛び越え、より開けた外郭へと大きく、弾丸のように移動した。


◇◇◇


 ズシン、と骨に響く重い衝撃と共に、俺は王城外の荒れ果てた地面へと着地した。

 即座に、肺に溜まった煤を吐き出しながら背後を振り返る。案の定、爆炎のカーテンを獣の如き動きで切り裂き、少女がこちらを追って空を駆けてくるのが見えた。やはり、彼女も俺をこの場で仕留めるまで、俺はその呪縛から逃ることは出来なさそうだ。


 だが、着地の瞬間の、あの爆風の「重さ」を反芻していた俺の脳裏に、ある確かな違和感、否、確信がよぎった。


遥斗(……さっきの魔法陣。音と光の演出こそ凄まじかったが、衝撃の『密度』は、一番最初に王城を半分吹き飛ばしたあの一発に比べて、明らかに低下していた?)


 もし、並列展開されたすべての魔法陣が最初の威力そのままを維持していたなら、俺はたとえ上空に逃げたとしても、爆発に巻き込まれてしまっていたかもしれない。

 魔法陣の数を増やせば増やすほど、供給される魔力が分散され、一発あたりの破壊係数が反比例して低下するシステムなのか。あるいは、あいつ自身の魔力総量(MP)が、あの大魔術の行使によって、既にデッドラインを越え、枯渇し始めているのか。


遥斗(理由はどっちでもいい。……とにかく、あいつの絶対的な出力が落ちている今こそが、この絶望の中で唯一手繰り寄せた勝機だ)


 俺は、これまで右手に握りしめ、数多の刃を受け止めてきた、バルモンドで手に入れた重厚な長剣を、迷いなく地面に突き刺した。

 レンやフィオナと共に戦い抜いてきたこの剣は、確かに強力で、信頼に値する武器だ。だが、これから始まる、一瞬の速度がすべてを決定づける超肉薄戦においては、このリーチの長さと重さは、俺の動作を鈍らせる「ノイズ」にしかならない。


 俺は腰の横にしまっていた。短剣を抜き放った。


遥斗「最後は、やっぱりこいつだ。俺の恩人であり、師匠のルミナが殺されたあの日から、一番長く握ってきた。これじゃなきゃ……あの獣人に攻撃は届かない気がする」


 手に伝わる、冷たく、それでいてどこか体温のように温かい短剣の感触。

 これまでの孤独、これまでの死線、そして仲間たちと積み上げてきたすべての想い。そのすべてを吸収し、研ぎ澄まされてきたこの短い刃が、今の俺には何よりも強固な盾であり、矛だった。


◇◇◇


 少女が、地を裂くような咆哮と共に宙を舞い、俺の懐へと飛び込んできた。

 彼女の爪が、どす黒い魔力を物理的な物質へと固定化させ、空間そのものを切り裂きながら膨張していく。

 俺は風魔術を自分に使い前方にいる獣人へと突進した。


遥斗「『エアロスピン』身体が壊れても構わねぇ、最大速で駆け抜けろ!!」


 この攻防ですべての勝負を、そしてどちらかの生を終わらせようとしているのか。

 彼女は前傾姿勢のまま、全体重と全魔力を乗せた、魂を削り出すような渾身の引っ掻きを繰り出してくる。


 「――う、おおおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 俺の喉が裂けるような絶叫と、彼女の獣じみた、悲痛な咆哮が空中で重なり合い、大気を震わせる。

 音が消えた世界の中で、俺の短剣の先端と、彼女の漆黒の爪が、狂おしいほどの精度で正面から激突した。


 ガギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!!!!


 凄まじい反動が腕を伝わり、肩を、背骨を、全身の細胞を、今度こそ粉々に砕かんとする勢いで激しくきしませる。

 ぶつかり合った点から、爆発的な、太陽のような輝きを放つ火花が弾け飛び、俺たちの顔を白く焼き、周囲の瓦礫を吹き飛ばした。


遥斗(まだだ……まだ、止まってたまるか……!)


 この激しい火花の向こう側に見える、彼女の瞳。

 そこにあるのは、ただの狂気ではない。深い深い孤独、誰にも届かなかった絶望、そして……誰かにこの悪夢を止めてほしいと願う、あまりにも痛切な救いの祈り。

 俺は、その祈りに応えるように、砕けそうな腕にさらなる「ERROR」で魔力を流し込み、短剣を、あと一ミリ、その先へと押し込んだ。


第30話に続く――。

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