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FATAL ERROR ―HP1の代償に神を屠るバグを得た俺、復讐の果てに世界を書き換える―  作者: くるまえび
破壊の女王と王国の王女

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第26話 狂った獣と王国の王女

 レスタリア王国の正門をくぐり抜けた瞬間、俺たちの視界を支配したのは、青空を塗りつぶすような「どす黒い煙」と、肺を焼くような熱風だった。

 二週間の旅路。その終着点に待ち受けていたのは、かつて「鉄壁の騎士国」と謳われた栄華の残骸だった。


遥斗「……なんだよ、これ。何が起きたんだ……」


 俺の目の前に広がっていたのは、文字通りの地獄絵図だった。

 大通りに並んでいたはずの美しい石造りの建物は、爆風を浴びたかのように無残に破壊され、瓦礫が道を埋め尽くしている。何より異様だったのは、街のいたるところに転がっている「死」の数だ。


 レスタリアの誇り高き兵士たち、買い物袋を持ったまま倒れている市民。そして、彼らに襲いかかったはずの魔物たち。

 驚くべきことに、その場にいるすべての生命が、平等に、徹底的に殺し尽くされていた。


レン「どうゆう事だ?遥斗……これを見ろ。魔物まで全滅してやがる。しかも……」


 レンは疑問符を浮かべ、瓦礫の陰で横たわる巨大な「オーク」の死体を指差した。

 俺は歩み寄り、その死体を観察する。オークの強靭な皮膚、魔力のこもった鎧が、まるで紙細工のように無惨に引き裂かれていた。


遥斗「……爪跡、か?」


 それは、剣による切断でも、魔術による傷跡でもない。

 鋭利な、しかし凶暴なまでの力強さを持った「五本の爪」が、肉を抉り、骨を砕いた跡だ。


フィオナ「ひどい……。魔物同士の仲間割れでしょうか? でも、それにしては一方的すぎます……」


 フィオナが震える声で呟く。

 俺は周囲を見渡した。レスタリア兵の剣は抜かれた形跡はあるが、相手に届いた様子がない。魔物の群れも、誰かに立ち向かった結果ではなく、背後から一瞬で、あるいは正面から蹂躙されて果てていた。


遥斗(……仲間割れ? いや、違うか。これは一匹の、圧倒的な化け物がやったことだろう。魔王の軍勢とレスタリアの兵士、その両方を相手に無双した何かがいる)


 その瞬間、王城の方向から激しい暴走した魔力と殺気の揺らぎを感じた。あの校長までは行かないが、それでもかなりの魔力を放っていた。

レン「立ち止まっていても解決しない。生存者が集まっているとしたら王城だ。止まっている暇はない、行くぞ!」


◇◇◇


 俺たちは煙が立ち込める大通りを、城へと向かって駆け出した。

 瓦礫を飛び越え、崩落しそうな建物の脇をすり抜ける。左耳が聞こえないせいで、反響音が掴みづらく、平衡感覚が狂って転けそうになるも何とかバランスを取って耐える。


「……助けて、誰か……!」


 路地裏の瓦礫の下から、か細い声が聞こえた。

 見れば、数体のゴブリンが、瓦礫に足が挟まったままの若い女性に、錆びた短剣で切りかかろうとしている。


遥斗「レン! フィオナ!」


レン「分かってる! 『トリプル・チェーン』!」


 レンがそう呪文を言うと、上空に展開された魔法陣から鎖が放たれ、ゴブリンたちの手足を縛り上げた。


 俺は攻撃が当たる距離まで走り、背負った長剣を抜いて一振りで三体のゴブリンをその鎖ごと一刀両断にした。


遥斗「大丈夫か。……立てるな?」


 俺が手を差し伸べると、女性はガタガタと震えながら俺たちの腕にしがみついた。


住民「……あ、ありがとうございます……! お願いです、王城へ……王女様が……王女様が一人で、あの恐ろしい『獣』を食い止めているんです!」


遥斗「王女が? レスタリアの騎士団はどうしたんだ」


住民「……分かりません。全てが一瞬で、あの獣が門を破ってからは、もう……! 皆、あいつに……」


 俺達は女性を近くの地下シェルターまで付き添って、避難を完了させた。再び王城へと視線を戻した。

 このシェルターに来るまでの道中にも死体の山が続いていた。そこにあるのは、憎悪ではなく、純粋な破壊。

 この国レスタリアは不気味なほどの静寂に包まれていた。兵士たちの遺体の傍らに、首をねじ切られた魔物たちが累々と重なっている。そのほとんどが、やはり「爪」で抉り抜かれていた。


遥斗(剣も、魔術も使わず、ただその手だけでこれをやったのか? ……魔王の新しい配下か?あるいは、俺たちが追っている研究所の被検体か……)


◇◇◇


 王城の正面広場に辿り着いた瞬間、鼓膜を揺らすような巨大な爆発音が響いた。

 爆風で巻き上がった煙が晴れると、そこには異様な光景が広がっていた。


 豪華な装飾が施された鎧を纏い、神聖な魔力を秘めた剣を構える一人の女性。彼女こそがレスタリアの王女だろう。この国の最高戦力のはずだ。だが、その彼女が、今は見るも無惨に圧倒されていた。


王女「……ハァ、ハァ……っ! なぜ、なぜ当たらないのですか……!?」


 彼女が対峙しているのは、人間ではなかった。

 ボロボロに引き裂かれた布切れのような衣服を纏い、乱れた髪の間からピンと立った獣の耳。そして臀部からは、意志を持っているかのように激しく揺れる尻尾。


 ――獣人。

この世界には俺達人間とは違う亜人と呼ばれる人種が居る。獣人はその一つだ。

 そして、その獣人の女から放たれる気配は、これまで見てきたどの人や魔物とも違っていた。

 瞳は濁った赤色に染まり、口の端からは絶えずよだれが垂れている。理性を完全に失い、ただ破壊衝動だけを形にしたような「ナニカ」。


レン「おい、マジかよ……あの王女、バルモンドでも有名だった天才王女だぞ。それが……あんなボロを着た獣人に防戦一方だと?」


 レンの声は驚愕に震えていた。

 俺はその獣人の動きを観察した。

 獣人は四足歩行に近い低空姿勢で地面を舐めるように滑り、王女の死角へと瞬時に回り込む。


王女「『ディヴァイン・クロス・スラッシュ』!」


 王女が神聖な魔力を込めた十文字の斬撃を放つ。だが、獣人はそれを空中で不自然なまでに身体を捻り、紙一重で回避した。

 回避しただけではない。

 彼女は、その長い尻尾に、オークが持っていたであろう一本の「錆びた長剣」を器用に巻き付けていた。


遥斗「……尻尾で剣を振ってやがる」


 空中。獣人は尻尾をしならせ、その錆びた刃で王女の側頭部を狙い撃つ。

 王女がそれを剣の腹で防ぐが、獣人は着地と同時に、自身の「爪」で地面をえぐり、その反動で王女の腹部へと爪で攻撃するのかと思ったが、王女は重厚な鎧では無意味と感じたのか、拳を固め腹に強烈なパンチを繰り出した。


王女「――っ!? ぐあっ!!」


 攻撃手段が多すぎる。

 鋭い手の爪、牙、そして第五の腕としての尻尾。獣人特有の圧倒的な身体能力に加え、本能に裏打ちされた変幻自在の攻撃パターン。重厚な鎧を纏う王女は、そのスピードと手数の前に、なすすべなく削られていく。


◇◇◇


 戦いは、すでに終盤だった。

 獣人が一瞬、低い唸り声を上げた。その瞬間、彼の身体の節々から真っ赤な魔力が噴き出し、筋肉が異常に隆起する。


獣人「……ア、アァ……アガァッ……ヴァァ!!」


 獣人が放った強烈なパンチが、王女の構えていた剣を真っ向から粉砕し、彼女の胸当てを捉えた。

 凄まじい衝撃音と共に、王女の身体が数十メートル後方へと吹き飛び、石造りの巨大な噴水に激突した。


王女「……カハッ……あ、あぁ……」


 王女は剣を杖代わりにして立ち上がろうとするが、足がガタガタと震え、そのまま膝を折った。鎧の隙間からは鮮血が流れ落ち、彼女の誇りと共に地面を赤く染めていく。

 獣人は、そんな彼女を見逃さなかった。


 獣人は低い姿勢で身を構えた。尻尾の毛が逆立ち、拳が、魔力の励起を利用して、拳は真っ赤な魔力に包まれていた。

 殺意の塊。

 理性を失った獣にとって、眼前の弱った獲物を仕留めること以上に優先されるものはない。


レン「遥斗、あいつ殺る気だぞ!」


フィオナ「止めてください、遥斗さん! あのままでは王女様が……!」


 獣人が地面を蹴った。

 爆音のような踏み込み。その姿が残像となり、動けない王女の喉元へと肉薄する。

 振り上げられるのは、あの重厚な鎧すら貫通するほどの威力の攻撃。


遥斗(……クソッ、使うしかないか!)


 俺はシステムの「ERROR」を使うことにした。

 HP 1。一撃食らえば俺も終わる。だが、ここで動かなければ、俺たちはレスタリアの国民を守るために戦っていたあいつが殺されてしまう。


遥斗「起動!!」


 俺は自分の肉体のリミッターをバグで解除し、銀色の長剣を構え、獣人のパンチの軌道へと割って入った。


◇◇◇


 ガギィィィィィィィン!!


 鼓膜が破れるような金属音が、静まり返った広場に響き渡った。

 俺は長剣で獣人の強烈なパンチを、何とか受けきった。


遥斗「……重い、な。……お前、本当に獣人かよ」


獣人「……ガァアアアアッ!!」


 獣人の瞳が、目前の俺を捉えた。

 至近距離で見るその瞳に、知性のかけらはないように見える。あるのは、ただ純粋な、煮え繰り返るような「狂気」だけ。

 だが、その瞳の奥底に、俺は不思議な既視感を覚えた。


遥斗(……この眼……あの魔物を凶暴化させる薬を打った時の校長に……もしかしてあの薬の実験体なのか?)


 拳から伝わってくる力は、俺の腕をへし折ろうとするほど強大だった。

 俺は「ERROR」の能力を再び使い、ATK(アタック)のステータスを限界まで上げた。


遥斗「レン、王女を連れて下がれ! フィオナも王女を防御魔術で守れ!」


レン「無茶言うな、一人でやる気か!」


遥斗「一人じゃないだろ。俺を『守れ』。……いいから行け!」


 レンが王女を担ぎ上げ、フィオナが黄金の多層障壁をレンたちの周囲に展開する。

 目の前の「獣」は、新しい獲物――俺の存在をやっと認識したのか、低く、喉を鳴らした。


遥斗「そうだ、次のお前の相手は俺だ。」


 燃え盛るレスタリアの王城前。

 バグを操る俺と、狂気に支配された最強の獣人。

 

 地獄の中で始まったこの最悪の衝突が、俺たちの運命を大きく変えていくことになる。


第27話に続く――。

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