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FATAL ERROR ―HP1の代償に神を屠るバグを得た俺、復讐の果てに世界を書き換える―  作者: くるまえび
バルモンド魔剣術学校

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第24話 訣別の門出と復讐の決意

 意識が暗闇の底から浮上する感覚は、酷く緩慢で、不快な熱を帯びていた。

 全身を支配する泥のような疲労感。一呼吸置くたびに、肺の奥が焼けるように痛む。遥斗は重い瞼をゆっくりと押し上げた。視界に飛び込んできたのは、学園の石造りの天井ではない。精緻な彫刻が施された石造りの高い天井と、柔らかな光を放つ魔導灯。バルモンド王国の城内にある、最高級の治療室だった。


(……ここは、どこだ……?)


 遥斗は上半身を起こそうとしたが、左頭部に走った鋭い激痛に「う、ぐっ……!」と呻き声を漏らし、再び枕に沈み込んだ。その瞬間、世界の違和感に気づく。この治療室からは会話する声が聞こえるのに左側からは、不気味なほどの無音が支配していた。


「……気づいたのですね、遥斗さん!」


 右側のカーテンが開かれ、フィオナが顔を見せるた。彼女の瞳は真っ赤に腫れ、何度も涙を拭った跡がある。


フィオナ「三日……三日も眠り続けていたんですよ。……あの後、フェリクス校長の領域が崩壊して、騎士団の方があなたをここまで運んでくれたんです。レンさんも無事ですよ。……ああ、本当に、本当に良かった……!」


 遥斗は、ズキズキと痛む左頭部に手を伸ばした。

 指先が触れたのは、分厚く巻かれた清潔な包帯の感触。そして、その奥にあるはずの「左耳」の起伏が、跡形もなく失われているという、冷徹な現実だった。


遥斗「……耳は、ダメだったんだな」


 問いかけた遥斗の声は、自分でも驚くほど乾いていた。フィオナは唇を噛み締め、視線を落とした。


フィオナ「……ごめんなさい。この国の最高位の聖導術師様たちも、あらゆる手を尽くしてくれました。……でも、この世界には、傷を塞ぎ、回復を早める薬草や魔術は数多く存在します。ですが……失われた部位そのものを元通りに再生させる魔術は、この世界には存在しないのです。……私の力が足りないばかりに、あなたに一生消えない傷を……っ!」


 遥斗は、静かに目を閉じた。左側から聞こえる音が、膜を張ったように遠い。


遥斗「……いいさ。耳一つで、あの怪物を屠れたなら安いもんだ」


◇◇◇


 数日後、遥斗はまだふらつく身体をレンに支えられ、封鎖された魔剣術学校へと向かった。

 学園の敷地内には重苦しい空気が停滞していた。首謀者フェリクスは討たれたが、彼が学園という聖域を拠点に行っていた「魔王崇拝」の全容は、想像を絶する広がりを見せていた。


 三人は、騎士団の立ち入り許可を得て、校長室の隠し書庫へと足を踏み入れた。

 レンが苛立ちを隠さずに古い羊皮紙を放り投げる。魔王に関する直接的な記述……居場所や正体についての核心的な情報は、周到に隠滅されていた。しかし、棚の奥に隠されていた一冊の「通信記録」が、三人の顔を強張らせた。


遥斗「……やっぱりか。あの無人島の研究所は、孤立した場所じゃなかったんだ」


 資料によれば、あの「魔物を凶暴化させる薬」の研究は、大陸全土の主要国家付近すべてに設置された秘密研究所で、同時並行的に行われていた。どの拠点も研究は最終段階に入っており、フェリクスはその「実験成果」を学園という閉鎖環境で、生徒たちの将来を餌にして試そうとしていたのだ。


レン「魔王の情報はねえが、一つだけはっきりした。……俺たちの村を焼いたあの薬が、今、この瞬間にどこの国でも量産体制に入ってるってことだ。……冗談じゃねえぞ」


 魔王は、姿を見せぬまま、世界中に「凶暴化」という名の時限爆弾をばら撒いている。主要国家の影で蠢く巨大な組織、そしてそれを黙認、あるいは協力している闇の勢力。フェリクスですら、その巨大な歯車の一つに過ぎなかった。


◇◇◇


 更なる情報を求め、俺達は王国の軍船を借りて再び「あの無人島」へと向かった。

 かつて遥斗たちが死闘を繰り広げた場所。島にたどり着いて、研究所の隠し扉がある場所まで移動すると、研究所の重厚な金属扉は既に抉じ開けられていた。


フィオナ「……既に、騎士団が調査を終えた後のようですね」


 冷たい空気の流れる研究施設内には、既に生者の気配はなかった。

 施設内のいたるところに返り血が飛び散り、研究されていた魔物たちの残骸が転がっている。騎士団の手によって、凶暴化した検体はすべて処分された後のようだった。そして俺達はこの研究所でも魔王についての情報を探したが。


遥斗「……ここにも、魔王の直接的な足跡はなしか」


 広大な研究所をくまなく探したが、魔王の所在に繋がる記録はことごとく破棄されていた。残されていたのは、ただ機械的に生成され続ける「凶暴化させる薬」の予備と、狂った魔物たちが最期に上げた悲鳴の残響だけ。

 魔王は、自らを崇拝する人間たちすら使い捨ての道具として扱い、証拠を一つも残さぬまま闇へと消えていた。


遥斗(……徹底してやがる。だが、だからこそ見つけてやりたくなるな。あんたの隠している『計画』を、俺のERRORでぶち壊すのが楽しみだ)


◇◇◇


 王城に戻った遥斗は、自らの荷物の中から、あの無人島のダンジョンで手に入れた一本の長剣を手に取った。

 無人島サバイバルの時に遺跡ダンジョンの攻略時、その最奥部に鎮座していた伝説の遺産。鞘から抜けば、鋭い刃は青い魔力で青く輝いている。俺が持っている短剣と同じように、手に持った瞬間に、魔力を感じる不思議な圧力を放つ一品だ。


遥斗「……短剣じゃ、届かない場所がある。……耳を失い、死角が増えた俺には、このリーチが必要だ。まあ使わない気がするが、最悪資金調達に使えるだろう」


 遥斗は、その長剣を背中に背負った。


 翌朝、バルモンド王都の巨大な正門の前。

 朝日が石畳を黄金色に染め上げる中、三人の影が長く伸びていた。

 遥斗の隣には、同じく復讐を誓い、封印魔術の精度を極限まで高めた相棒、レン。

 そして、俺達の後ろを、強い決意を秘めた瞳でついてくるフィオナ。彼女はもう、凶暴化した魔物を見て震えるだけの少女ではない。二度と大切な人を欠損させない、二度と誰かを失わせないための「究極の盾」となることを誓っていた。


 三人は、王都のギルドへ立ち寄った。

 学園での「生徒」という身分を捨て、正式な「冒険者」として、世界の深淵へと足を踏み出すための手続き。


ギルドの受付嬢「……お三方ですね。バルモンドからの出国許可、および冒険者登録の更新、完了いたしました。……失礼ですが、左側のお怪我は?」


遥斗「……ちょっと事件に巻き込まれまして……。気にしないでください」


 遥斗は、欠損した左側を隠すことなく、堂々と受付嬢を見据えた。


◇◇◇


 ギルドを出た三人の前には、バルモンドの国境へと続く道が広がっていた。

 遥斗は背後の長剣の重みを感じながら、一歩を踏み出した。左耳が聞こえない不自由さは、歩くたびに身体を揺さぶる。右耳だけで周囲の音を拾うため、首を少し右に傾ける癖がついた。だが、この欠損こそが、自分が強大な敵と正面から戦い、生き抜いた証だ。


レン「……ようやく、出発か。死んじまった奴らに顔向けできるように、派手に暴れてやろうぜ」


フィオナ「はい。……遥斗さんとレンさんを、今度こそ守り抜きます。……それが、攻撃を捨てた私の、新しい誇りですから」


 遥斗は二人に頷き、視線を前方の地平線へと向けた。


 魔王という名の、この世界の最深部に居座る悪の根源。

 それを引きずり出し、『DELETE』するための旅路は、ここから本番を迎える。

 主要国家に潜む研究所の破壊。そして、遥斗と同じように、この世界に絶望し、あるいは魔王に復讐心を抱く同士を見つけて、共に魔王を打ち倒す仲間を増やす。


 遥斗は、左側の不自由さを補うように、右耳で風の音を聞いた。

 遠くで響く、軍靴の音。人々の悲鳴。そして、自分を呼ぶ「運命」の音。


「魔王――待ってろよ。あんたの作ろうとしている『最悪な世界』なんか、俺達の力で全部ぶっ壊してやる」


 朝日を背に、三人の影が果てしない道の先へと消えていった。

 バグ使いの少年と、その復讐と救済を誓う仲間たちの物語は、今、広大な大陸全土へとその舞台を移す。


 バルモンド王国の景色が遠ざかっていく。

 失われた左耳が捉えることのできない「左側」を、レンとフィオナが埋めるように歩く。

 三位一体の「盾」と「刃」が、魔王という悪を打ち倒し、復讐を終えるため『決意』を抱き、新しい冒険が始まった。


第25話に続く――。

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