表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FATAL ERROR ―HP1の代償に神を屠るバグを得た俺、復讐の果てに世界を書き換える―  作者: くるまえび
バルモンド魔剣術学校

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/37

第20話 作戦と牙を剥く学園

 血の海と化した洞窟を後にした俺とレンは、くらい夜に紛れてバルモンドの街を駆け抜けていた。

 背後には、冷たい海の音と、無惨に殺された作業員たちの死臭が漂っているような気がしてならない。一刻も早く、この情報を共有し、次の手を打たなければならなかった。俺の心臓は激しく鼓動し、アドレナリンが引いた後の疲労が重くのしかかるが、止まっている暇はない。


 俺たちが向かったのは、集合場所であるあの冒険者ギルドだ。

 深夜に近い時間帯、薄暗い魔石ランプの火が揺れている。その片隅にある半個室の椅子に、一人の少女が背筋を伸ばして座っていた。


フィオナ「……遥斗さん! レンさん!」


 俺たちの姿を見るなり、フィオナが弾かれたように立ち上がった。その瞳には、仲間を待つ不安と、再会できた安堵が入り混じっている。

 だが、彼女の表情はすぐに凍りついた。俺とレンの作業服にこびりついた返り血。フィオナは即座に事態が最悪の方向に進んでいることを悟った。


遥斗「……待たせたな、フィオナ。学校の方はどうだった?」


レン「……挨拶は後だ。洞窟の連中を仕留めたが、いつ追っ手が来てもおかしくねえ。場所を変えるぞ」


 俺たちはフィオナを連れ、ギルドを後にした。向かったのは、バルモンドの外にあるルミナの家だ。入り組んだ路地を通り、気配を完全に遮断しながら移動する。街の平穏な灯りが、今の俺たちにはひどく遠い世界の出来事のように感じられた。


◇◇◇


 ルミナの家のリビングに集まった俺たちは、ようやく一息ついた。だが、空気は凍りついたままだ。俺は懐から、あの研究所で回収した「不気味な赤色の液体が入った注射器」を取り出し、テーブルの上に置いた。


遥斗「……これを見てくれ。これが、あの無人島の地下研究所で見つけたものだ」


 俺は、無人島行きの魔導船への潜入から、地下に隠された巨大な研究所の様子、魔物を人工的に「凶暴化」させる実験の内容、そして船長が語っていた「魔王の計画」と「生徒の間引き」について、包み隠さずすべてを話した。最後に、口封じのために行われた作業員たちの惨殺についても。


フィオナ「……そんな……。そんなことが、あの無人島の地下で……」


 フィオナは震える手で口を覆った。彼女自身、学校に残って調査を進めていたが、その結果も絶望的なものだった。


フィオナ「……私も、皆さんがいない間、古びた資料室や校長の動向を必死に追いました。補助魔術で聴覚を強化し、密談を盗み聞き、帳簿の不自然な流れを突き止めたんです。……遥斗さん、発覚しました。あの地下研究所の設立、そして一連の凶暴化実験に莫大な資金を投じ、裏で糸を引いていた張本人は……間違いなく、フェリクス校長です」


 やはりそうか。聖人君子のような面構えで生徒を慈しむふりをしていたあいつが、すべての元凶だった。

 レンは力強くテーブルを叩いた。その拳からは、怒りのあまり血が滲んでいる。彼の村を滅ぼし、フィオナの家族を奪った「凶暴化」の波。それは天災ではなく、一人の男の歪んだ野望によって引き起こされた人災だったのだ。


遥斗「……状況はすべて繋がった。今すぐこの証拠を持って国に報告し、学校を制圧してもらう。だが、ここには大きな問題がある」


レン「……国が俺たちを信じるかどうか、だろ?」


遥斗「ああ。俺たちは所詮、この学校の一生徒に過ぎない。いわゆる『ガキ』が、フェリクス校長という巨悪を訴えたところで、まともに取り合ってもらえる保証はない。証拠の注射器だって、身元不明の学生が持ってきたと言われれば、偽物扱いされて握り潰されるのがオチだ。学校程の巨大な組織を動かすには、俺たちはあまりにも無力すぎる」


 重苦しい沈黙が部屋を支配した。俺の「ERROR」能力は個人の戦闘ではかなりの力を発揮するが、社会的な「権力」という壁を壊す力はない。

 その時、これまで俯いていたフィオナが、静かに、しかし凛とした声を上げた。


フィオナ「……それについては、私に任せていただけませんか?」


遥斗「フィオナ? 何か策があるのか?」


フィオナ「……今まで隠していて、本当にごめんなさい。……実は、私の生家であるリズ家は、この国でも指折りの名家……古い歴史を持つ貴族の家系なんです」


 俺とレンは驚きに目を見開いた。彼女が育ちが良いのは感じていたが、まさか上級貴族の令嬢だったとは。


フィオナ「私の両親はあの事件で亡くなりましたが、リズ家は代々、王室や軍の上層部と非常に深い繋がりを持っていました。親が死んだ後も、私がその事業の一部や領地の管理を継承する形で、その関係は今も継続しています。……リズ家の名代として緊急の謁見を申し入れれば、国の上層部を直接動かすことができます。彼らも、リズ家の娘の言葉なら、決して無視はできません」


 フィオナの瞳には、かつてないほどの強い決意が宿っていた。攻撃魔術を拒絶し、守ることに特化した彼女が、今、政治という戦場で俺たちの矛になろうとしている。


◇◇◇


 フィオナの正体という強力な切り札を得たことで、作戦は現実的なものとなった。


遥斗「わかった、フィオナ。お前はリズ家のコネをすべて使い、国にこの証拠を届けてくれ。学校への強制捜査令状を勝ち取ってほしい。……だが、それでも懸念はある。国という巨大な組織が動くには、どうしても時間がかかる。会議、承認、騎士団の動員……その間に、フェリクスや船長たちが異変を察知して逃げてしまう可能性が極めて高い」


レン「……つまり、国を動かすのと並行して、俺たちが直接乗り込む必要があるってことだな?」


遥斗「ああ。フィオナが国を動かしている間に、俺とレンで学校を強襲する。フェリクス校長を拘束し、さらなる証拠を現場で押さえるんだ。国が到着するまで、あいつを逃がさないために俺達が『楔』になる必要がある」


フィオナ「……わかりました。明日の朝一番で、私は王宮へ向かいます。捜査の決定が出次第、騎士団を率いて学校へ向かわせますので……。それまでは遥斗さん、レンさん。絶対、絶対に死なないでください」


◇◇◇


 次の日。

 フィオナが王宮へと旅立った後、俺とレンはバルモンド魔剣術学校の正門前に立っていた。

 いつもなら学生たちの活気に溢れ、訓練の掛け声が響いているはずの校内は、驚くほど静まり返っていた。太陽は高く昇っているというのに、冷たい風が吹き抜け、鼻腔を突くのは心地よい潮風ではなく、重苦しくこびりつくような「鉄の匂い」だった。


レン「……おい、遥斗。この匂い、洞窟の時と同じだぜ。嫌な予感しかしねえ」


遥斗「……ああ。ついに、隠す気もなくなったってわけか」


 俺たちは警戒を最大限に高め、校舎の中へと踏み込んだ。

 エントランスを抜けてすぐ、異様な光景が広がっていた。廊下の至る所に、俺たちと同じ制服を着た生徒たちが倒れていた。いや、倒れているのではない。殺されているのだ。

 抵抗した形跡がある者、背後から一突きにされた者。学園はもはや学び舎ではなく、凄惨な「屠殺場」へと変貌を遂げていた。


「……見つけたぞ。無人島から這い出てきた、害獣共が」


 天井の梁から、数人の人影が音もなく飛び降りてきた。不気味な仮面をつけ、黒装束を纏い、鈍く光る短剣を構えた「清掃員クリーナー」たち。無人島で俺たちを追い詰めた仮面男の同類だ。


レン「……待ち構えてやがったか。だがよ、今の俺たちは昨日までの俺たちじゃねえんだわ」


 仮面男たちが、一斉に俺たちに襲いかかる。その動きは常人からすれば目にも止まらぬ速さだろう。だが、無人島で魔王の残滓や凶暴化個体と死闘を繰り広げ、システムの隙間(ERROR)を覗き見続けてきた俺たちの瞳には、彼らの動きはあまりにも緩慢で、隙だらけに見えた。


遥斗「……悪いが、もうお前たちのスピードには飽きてるんだよ」


 俺は最短の動きで最初の一人の突きを紙一重でかわすと、相手の腕を掴んで捻り上げた。

 そのまま、短剣の柄の部分を全力で相手の側頭部へと叩きつける。


「ガハッ……!?」


 仮面男は白目を剥き、脳震盪を起こして地面に崩れ落ちた。

 レンもまた、指先から最小限の魔力で構築された封印の鎖を放ち、二人の男の自由を奪うと、無造作にその首筋を打ち抜いて気絶させている。


レン「……弱すぎる。無人島の連中と比べても、明らかに質が落ちてやがるな。こいつら、ただの時間稼ぎだ」


遥斗「ああ。……それにしても、ここまでやるか」


 俺は足元に転がっている、名前も知らない同級生の遺体を見つめた。フェリクス校長は、自分の正体がバレることを予見し、証拠となる生徒たち、そして自分に逆らう可能性のある芽をすべて摘み取ろうとしているのだ。


遥斗「レン、雑魚は無視だ。一秒でも早く校長室へ行くぞ。これ以上、被害を広げさせるわけにはいかない」


◇◇◇


 俺たちは血に染まった廊下を駆け抜けた。

 道中、何度も仮面をつけた刺客たちが立ち塞がる。その数は数十人に及んだ。

 だが、今の俺は「ERROR」能力による大規模な書き換えすら必要としなかった。純粋な身体能力、そしてバグによって強化されたステータスの暴力だけで、彼らを次々と無力化していく。


「死ねッ!!」


 横の教室から飛び出してきた男を、走り抜ける勢いのまま肘打ちで沈める。

 背後から放たれた闇の魔弾を、振り返りもせず首を僅かに傾けて回避し、壁を蹴った反動で相手の懐に潜り込む。


遥斗「……邪魔だと言っている!!」


 渾身の掌底が男の胸板を打ち抜き、背後の壁まで吹き飛ばした。

 レンもまた、封印魔術の応用で通路に「見えない壁」を作り出し、追っ手たちを次々と自滅させていく。


レン「遥斗、キレキレだな! 無人島を抜けてから、お前の魔力の質が変わった気がするぜ!」


遥斗「……ただ、腹が立ってるだけだよ。こんな身勝手な理由で、みんなの未来を奪いやがって……!」


 刺客たちは次第に俺たちの気迫に圧され、後退りし始めた。彼らもプロだ。自分たちが相手にしているのが、もはや「学生」という枠を遥かに超越した怪物であることを本能で理解したのだろう。


 俺たちは返り血一滴浴びることなく、最上階にある、巨大な黒檀の扉の前に辿り着いた。校長室。この学園の、そしてすべての悲劇の中心地だ。


◇◇◇


 扉の向こうからは、一切の気配が感じられない。

 呼吸を整え、俺はレンと頷き合った。


遥斗「……行くぞ」


 俺は迷うことなく、両手でその重厚な扉を力任せに押し開いた。


 ギィィィィィィィ……!!


 広々とした部屋。

 床には最高級の絨毯が敷かれ、壁一面の本棚には禁忌の魔導書が並んでいる。その中央、豪華なデスクの後ろにある大きな椅子に、一人の男が深く腰掛けていた。

 フェリクス校長だ。

 彼は、まるで俺たちが来るのを予見していたかのように、優雅に紅茶を啜っていた。窓の外からは、ようやく到着したのか、フィオナが連れてきた騎士団の叫び声と、学園を取り囲む軍靴の音が微かに聞こえ始めている。だが、この部屋の中だけは、不気味なほどに時間が止まっていた。


フェリクス「……やあ。無人島という『選別』を勝ち抜いた、私の誇らしい生徒諸君。わざわざ私の元へ挨拶に来てくれるとは、教師冥利に尽きるね」


 校長は、かつて俺たちを騙し続けたあの慈愛に満ちた微笑を浮かべた。だが、今の俺にはそれが、ドロドロに腐った死肉のような醜悪な笑みに見えた。

 部屋の空気は、これまで出会ったどの魔物よりも重く、淀んでいた。空間そのものが、あいつの魔力によって歪められている。


遥斗「……しらじらしいな。下の惨状を見たか? お前の『生徒』たちが、お前の部下に殺されているんだぞ。これが、お前の言う『教育』か?」


フェリクス「ああ、あれかい? ただの害虫駆除だよ。……すべては、魔王様の計画を順調に遂行するための、清らかな儀式だよ」


 この男は、本物の狂気だ。理性的な言葉を使いながら、その根底にあるのは底なしの闇。


遥斗「ほんで……どういう気の変わりようだ?」


 俺は一歩前に出て、鋭い眼光で校長を射抜いた。


遥斗「お前はもっと慎重に動くタイプだと思ってたが、なぜ騎士団が来る直前にこんな強引で、杜撰な『掃除』を始めた? なぜスマートに逃げなかったんだ?」


 俺の問いに、フェリクスはカップをゆっくりと置き、音もなく立ち上がった。

 その影が、壁一面に不気味な、人間ではない怪物の形となって伸びる。


フェリクス「……気の変わりよう? 違いますね、遥斗くん。……私は魔王様のために最善を尽くし、働いているだけですよ。……さて、騎士団がこの扉を破るまで、おそらくあと2時間程度といったところかな。それまでに、最後の『特別授業』を始めようじゃないか」


 フェリクス校長の膨大な魔力が膨れ上がり、部屋全体が異界のように歪み、壁が脈打ち始めた。

 俺は短剣を抜き放ち、レンもまた封印の術式を全開にする。


遥斗「……ああ、望むところだ」


 システムのバグ(ERROR)と、狂気の深淵が、今ここに激突する。


第21話に続く――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ