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FATAL ERROR 〜あらゆるプログラムを書き換える代わりに、激重デバフを背負わされる俺の復讐譚〜  作者: くるまえび
魔剣術学校編

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第15話 権能解放 : プログラム変更コード

 死の刃が、俺の胸元に触れる。

 研ぎ澄まされた鋼の冷たさが皮膚越しに伝わり、死の予感が全身の細胞を総毛立たせる。ドクン、ドクンと、鼓膜のすぐ裏側で心臓が早鐘を打っていた。


 だが、俺の脳はかつてない速度で回転していた。

 俺はずっと考えていた。

 この『ERROR』という力、自分のステータスを書き換えられる理外の権能。もし、これが「自分自身」というデータの書き換えであるならば――その対象を「他者」にまで拡張することはできないのか。


 ステータスを書き換える条件。それは、データの根源……『魂』への干渉だ。

 脳裏に、俺自身の記憶ではない「何か」が濁流のように流れ込んでくる。それは、この異世界に放り出された時から俺の中に根付いている、あの「謎の声」から共有された断片的な記録だった。


 魂とは本来、実体がなく触れられないものだ。物理的な攻撃も、通常の魔術も、魂そのものを傷つけることはできない。だが、俺はかつて、それを見たことがある。

 あの時だ。ルミナの魂が回収される瞬間。謎の声が空間の裂け目から放っていた、あの「糸」のようなもの。

 その時は状況に圧倒されて気にも留めなかったが、今ならわかる。あの糸こそが、実体のない魂を捉え、物理法則を超えてシステム的に干渉するための「介入コード」そのものだったのだ。


遥斗(イメージしろ。魔術はイメージだ。体内の魔素を練り上げ、特定の現象として出力する。ステータス書き換えも同じだ。自分を変えるイメージを、今度は……外へ! 相手の魂の深層へ!)


 男のナイフが、俺の制服を切り裂く。

 心臓を貫かれるまで、あと1秒もない。回避は不可能。防御も間に合わない。

 俺は右手に全神経を集中させた。手の中から、魂を絡め取るための無数の糸を出し、仮面男の魂に巻き付けるイメージを脳内で爆発させる。

 

 男の油断は明白だった。今の俺は、隙を晒した獲物に過ぎない。彼は勝利を確信し、その瞳には冷酷な愉悦さえ浮かんでいた。


 その時、視界の中で、システムメッセージが狂ったように明滅し、電子ノイズが脳を焼いた。


Critical Alert: System structure modification detected...

Accessing Root Authority via Fragmented Memory...

Success.

You got a new authority: [Program changes code]


 脳内に直接、情報の奔流が流れ込む。

 この糸の正体。魂の構造を直接的に操作するための、外部介入用プログラム――『プログラム変更コード』。

 名前が長い。俺はそれを直感的に「糸」と定義し、唇を震わせながら言葉を解き放った。


遥斗「……『USE(使用)』!!」


◇◇◇


 刹那。

 俺の手の平から、目も眩むような禍々しい紫色の光を放つ「糸」が噴出した。

 それは物理的な速さを超越した概念的な速度で、眼前まで迫っていた仮面男の身体を突き抜け、その奥に潜む「黒く淀んだ魂」を瞬時に捉えた。


仮面男「……っ!? な、なんだこれは……!?」


 男が驚愕の声を上げ、動きを止める。

 ナイフの先端は、俺の肌を僅かにかすめ、一筋の血を滲ませたところで凍りついたように静止していた。

 

 糸を介して、俺の視界に仮面男の「生データ」が流れ込んでくる。それは通常の魔力探知では決して見ることのできない、この世界の裏側の数字だった。


Target: Unknown Fragment (Masked Man)

HP: 265 / 300

MP: 0 / 350 (ALL CONSUMED)

ATK: 1000 (Physical Boost: Max Output)

Condition: Soul Linked


 思わず息を呑んだ。ATK1000。身体能力強化を乗せているとはいえ、俺の倍以上の数値だ。S級パーティーを容易く屠ったのも納得できる。そしてMPがゼロなのは、やはり全魔力を使い切って、あの異常な身体強化を維持していたからだろう。

 だが、もう無駄だ。俺はこの糸を通じて、奴のシステムそのものを掌握した。


遥斗(……俺のMP、1500から1000を分離。残存500は維持。分離した1000を――ターゲットの書き換えに転用!)


 指先に力を込め、魂を締め上げるようにイメージする。糸を通じて、俺の魔力が濁流となって男の魂へと侵入し、その根幹データを上書きしていく。

 

遥斗「書き換えろ……! お前のATK、ゼロだ!!」


 男の身体を包んでいた漆黒のオーラが、ガラスが砕けるような音と共に霧散した。

 それと同時に、男を支えていた超人的なエネルギーが、根こそぎ奪い去られる。


仮面男「な、なに……!? 体に……力が……入らない……。なぜだ、貴様、何をした!!」


 男の魂に巻きついた糸を引きちぎろうともがくが、ATK0となった身体は、もはや何も出来ない。彼は糸に操られる人形のように、その場に膝をついた。

 俺はその無防備な胸ぐらへと、ATK500の爆発的な脚力を乗せた蹴りを叩き込んだ。


 ドゴォォォォンッ!!


 凄まじい衝撃音と共に、男は軽々と吹き飛び、十数メートル後方の巨木に激突して止まった。木々が激しく揺れ、枯れ葉が舞い散る。

 あれほどの絶望を振りまいた殺戮者が、今はただの、指一本動かせない哀れな男として転がっている。


03. 仮面の下の狂信


 俺は、激しい息切れと共に、よろめきながら男へと歩み寄った。

 HP1の反動。全身の皮膚が裂けるような激痛が走り、視界がチカチカと紫色のノイズで点滅する。だが、ここで意識を手放すわけにはいかない。まだ聞かなければならないことが山ほどある。


遥斗「……答えろ。誰の命令だ。なぜS級パーティーを殺し、俺たちを執拗に狙った」


 俺は動けない男の胸ぐらを掴み上げ、地面に叩きつけた。

 男は力なく呻くだけで、何も答えない。その赤い瞳は、依然として濁った光を宿している。俺は迷いを断ち切るように、その顔面に渾身の蹴りを叩き込んだ。


 パキィィン、と乾いた音が響き、男がつけていた無機質な仮面が真っ二つに割れて地面に落ちる。

 

 現れたのは、赤い瞳が特徴的な、どこか幼さの残る大学生くらいの見た目をした男だった。

 整った顔立ち。だが、その表情にはこの世の者とは思えないほどの、どす黒い狂気の色が張り付いていた。


遥斗「……もう一度聞く。答えろ、誰からの命令だ? 誰に操られている!」


 俺は短剣を男の喉元に突きつけ、肌が薄く切れるほどに押し当てた。

 すると、男は恐怖に震えるどころか、喉の奥からヒタヒタとした、不気味な笑い声を漏らし始めた。


仮面男「……く、ククク……クハハハハハ!!」


 その様子に、俺は生理的な恐怖を覚えた。死を目前にしているはずの男の顔には、この上ない悦びが満ち溢れていたからだ。男は血に染まった歯を見せ、歓喜に濡れた瞳で俺を射抜いた。


仮面男「……魔王様に、栄光あれ」


遥斗「……魔王……?」


 聞き慣れない、しかし魂を凍りつかせるような響き。

 その言葉を放った瞬間、男は隠し持っていた予備のナイフを取り出すと、自らの胸へと一気に突き立てた。


遥斗「なっ、やめろ――!?」


 あまりに迷いのない自殺行為。

 俺は驚愕し、慌てて男の手を止めようとしたが、既に刃は心臓を貫いていた。男の赤い瞳から光が消え、焦点の定まらないまま虚空を見つめる死体へと変わる。脈を測るまでもなく、彼は息を引き取っていた。


遥斗「くそっ、自殺するなんて……。魔王、だと……?」


 手の中にある死体の重みが、現実感を伴って押し寄せる。だが、今は謎を解明する時間はない。俺はレンがナイフで深く斬られたのを思い出し、慌てて彼の元へ駆け寄った。


◇◇◇


 レンは地面に横たわり、肩の傷から絶え間なく血を流していた。

 幸いにも致命傷は受けていなかったが、失血の速度が速い。俺は自分のローブの下に着ていたシャツの裾を力任せに引き破り、包帯代わりにして彼の傷口をきつく縛り上げた。


遥斗「レン、しっかりしろ……死ぬなよ、相棒」


 レンは微かに苦悶の声を漏らすだけで、意識は戻らない。フィオナもまた、木に激突した衝撃で気を失ったままだ。

 

遥斗(……まずい。HP1の限界が、もうすぐ来る。身体が……動かなくなる)


 ERROR能力の極大デメリットであるHP1状態。それは、かすり傷一つで死に至るだけでなく、維持するだけで魂を削られるような激痛を伴う。

 俺は気絶しそうになりながらも、フィオナを背負い、負傷したレンの腕を自分の肩に回して強引に担ぎ上げた。


 自分の体重さえ支えるのがやっとの身体に、二人分の重みが加わる。一歩踏み出すごとに膝がガクガクと震え、喉の奥から鉄の味が込み上げた。だが、ここで立ち止まれば全員が死ぬ。血の匂いに誘われて、さらなる魔物や仮面男の仲間が来ないとも限らないのだ。


 「一歩。あと一歩だ」と自分に言い聞かせ、俺は意識を失いそうになるのを、舌を噛んで繋ぎ止めた。

 どれほどの時間が経っただろうか。辺りは完全に薄暗くなり、森の影が怪物のように伸びていた。


 ようやく、俺は今日出発した地点に到着した。

 近くの大きな木を背もたれにするようにして、レンとフィオナを慎重に座らせる。そして俺も、その場にバタリと崩れ落ちるように座り込んだ。

 戦闘の極限状態、撤退の疲労、そして『ERROR』の反動がドンと一度に乗っかって来て、もはや視界を保つことすら不可能だった。


 すると、衝撃で気絶していたフィオナが、微かに身じろぎをして目を覚ました。


フィオナ「……ん……。……あれ? ここは、どこですか……?」


 彼女はぼんやりとした様子で辺りを見回し、疑問符を上げていた。

 その無事な声を聞いた瞬間、俺を繋ぎ止めていた緊張の糸が、音を立ててぷつりと切れた。


遥斗「……よかった。二人とも、無事か……」


 俺は安堵の声を漏らすと同時に、力尽きて横倒しになった。急激に目の前が真っ暗になっていく。


フィオナ「遥斗さん!? 遥斗さん、しっかりしてください!! 嫌です、目を開けてください!!」


 遠くの方でフィオナの悲鳴のような叫びがうっすらと聞こえたが、俺の意識はそのまま底なしの闇の中へと吸い込まれていった。


◇◇◇


 ……次に目を覚ました時、あたりは完全に夜の闇に包まれていた。

 どこか遠くで夜鳥が鳴く声と、パチパチと乾いた薪が爆ぜる音が聞こえる。

 顔に当たる心地よい熱を頼りに周りを見回すと、そこには小さな焚き火があり、レンとフィオナが不安そうな表情で寄り添うように座っていた。


遥斗「……う、あ……」


 俺が立ち上がろうと身を起こすと、全身に鈍い痛みが走った。その物音に気づき、レンが勢いよくこちらを振り向いた。


レン「……起きたか。おい、無理はするな。お前は今、死人みたいな顔をしてるぞ」


 レンの声には、いつもの皮肉めいた調子の中に、隠しきれない心配の念が混じっていた。

 彼の肩には、フィオナが改めて処置したであろう綺麗な包帯が巻かれていた。俺はふらつきながらも、膝を突きながら焚き火の近くまで這うように歩き、二人の隣に腰を下ろした。


フィオナ「遥斗さん、お水です。少しずつ飲んでください。……本当に、本当によかったです……」


 フィオナは瞳に涙を溜めながら、竹の筒に入った水を差し出してくれた。それを一口飲むと、乾ききった喉が潤い、ようやく思考が回り始める。

 フィオナは少し俯きながら、震える声で気になっていたことを口にした。


フィオナ「……あの、戦いの後……あの仮面の男の人は、どうなったんですか? 遥斗さんが、私たちを運んでくれたんですよね……?」


 俺は爆ぜる火の粉を見つめながら、少しの間をおいて、戦いの結末をありのままに話した。そして――。


遥斗「……奴は自害したよ。俺が尋問しようとした瞬間にだ。死ぬ間際、奴はこう言い放った。『魔王様に栄光あれ』とな」


 「魔王」という言葉が出た瞬間、焚き火を囲む空気が一気に凍りついた。

 レンが火を睨みつけ、拳を強く握りしめながら重々しく口を開く。


レン「魔王……魔族と人間の戦争は前に終わっただろ。だが、これでパズルが繋がった。俺の故郷を襲った魔物の凶暴化、そしてS級パーティーまで無残に屠るあの仮面男の存在。……これらは全部、独立した事故なんかじゃない」


遥斗「ああ。単なる実力試験のトラブルにしちゃあ、規模がデカすぎるし組織立ってる。……恐らく、これらは『魔王』の仕業だ」


 俺とレンは、これまでの不可解な出来事の裏に、世界を揺るがすような巨大な悪意が存在していることを確信した。

 魔王。その存在が、この試験の真の目的を、そして俺たちの運命を大きく変えようとしている。


遥斗「……最後の一つ、アーティファクトを手に入れて、さっさとこんな島おさらばしようぜ。そのためには、もっと強くならなきゃいけない。……『魔王』とかいう奴に、好き勝手させるわけにはいかないからな」


 俺は自分の右手をじっと見つめた。

 『プログラム変更コード』。この禍々しくも強力な力が、これからの戦いの鍵になるのは間違いなかった。


第16話に続く――。

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