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FATAL ERROR 〜あらゆるプログラムを書き換える代わりに、激重デバフを背負わされる俺の復讐譚〜  作者: くるまえび
魔剣術学校編

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第12話 牙を剥く無法地帯

 フェリクス校長の冷徹な宣戦布告と共に、俺たちを運んできた船は、白い航跡を残して水平線の彼方へと消えていった。

 後に残されたのは、潮騒の音と、それ以上に耳障りな「人間の欲望」が漏れ出す喧騒。

 俺、遥斗は、隣に立つレンとフィオナに短く視線で合図を送った。


遥斗「……ここにいてもろくなことにならない。まずは島の深部、あの中へ入るぞ」


 俺が指差したのは、海岸線から数キロにわたって広がる、緑の壁のような巨大な原生林だった。

 入り口付近から既に、アーティファクトの所有権を巡る小競り合いが始まっている。魔術の爆鳴、怒号、そして誰かの悲鳴。俺たちはそれらを背に受けながら、湿り気を帯びたシダ植物の群生をかき分け、森の内部へと足を踏み入れた。


 森の中は、外の世界の喧騒が嘘のように静まり返っていた。

 しかし、それは「平和」を意味する静寂ではない。捕食者が獲物を待つような、刺すような緊張感が空間に満ちている。見上げるほどの巨木は天を覆い隠し、差し込むわずかな木漏れ日は不気味な紫や赤を帯びているように見えた。


遥斗(……ああ、やっぱり、この感覚は苦手だな)


 ふと、記憶の底からどろりとした嫌な感覚が這い上がってくる。

この世界に来てまもない頃だ。門番に入国を拒否されて、行き場所が無かった俺は、食べ物を求めて森の中に入った。そして食べれそうなものはない上魔物に襲われ殺されかける始末だ。


レン「おい、ハルト。顔色が悪いぞ。いきなり立ち止まってどうした?」


 レンの声で、俺は現実に引き戻された。

 慌てて首を振り、額に浮かんだ汗を拭う。


遥斗「……いや、ちょっと思い出したくない昔のことを考えてた。なんでもない。……よし、話を戻そう。一週間の長期戦だ。この『無法地帯』で生き残るために、まずは互いの持ち札を確認しておきたい。……二人とも、サバイバル経験はあるか?」


レン「経験ならあるが、条件付きだ。俺が生まれ育ったのは海に近い村だ。潜って魚を獲ったり、岩場の貝を剥いたり、潮流の速さから天候を読んだりするのは得意だが……この蒸し暑い森は専門外だな。どの植物に毒があり、どれが食えるか、サッパリ検討がつかん」


 レンが「海の男」だったのは意外な事実だが、この島の内陸部ではその知識は無力。

 次に俺は、足元の妙に艶やかな、どぎつい紫色のキノコを凝視しているフィオナに視線を向けた。


フィオナ「サバイバルという言葉が適切かは分かりませんが……修道院での修行時代、山奥の村へ派遣されて薬草採集を任されていたことがあります。ある程度なら、食用に適した木の実や植物の判別はつくと思います。例えば……ハルトさん、今あなたが踏もうとしているその赤い花。それは触れるだけで毛穴から毒素が入り込み、一晩中激しい痒みと発熱に襲われる『吸血草』の幼体です」


遥斗「うおっ、マジか!」


 俺は慌てて飛び退いた。フィオナがいなければ、探索開始五分でリタイアの危機だった。


遥斗「助かった、フィオナ。食糧の選定と鑑定は、全面的にお前に任せる。レン、あんたは周囲の警戒と、余裕があれば仕留められそうな小動物の確保を。……水に関しては、俺に考えがある」


レン「水か? 湧き水が見つかればいいが、この辺りは湿気こそ凄いが飲み水に適した場所は見当たらんぞ。まさか、海水をそのまま飲むわけにもいかなし、魔術で出した水は飲めんでも意味無いからな」


遥斗「水問題に関しては、俺たちの知識と魔術を合わせれば作れる。(理科の実験でやった『蒸留』だ)」


 海水を熱して蒸発させ、その蒸気を冷やして純粋な水を得る。

 魔術師であれば、熱源と、冷却用の土台さえあれば、理屈の上では無限に真水を作り出せる。熱源は火の魔術、土台は木に生えているでかい葉っぱでいいだろう。


遥斗「役割分担は決まった。食糧はフィオナ、警戒はレン、水と拠点の設営は俺。……よし、まずはアーティファクトの手がかりを求めて、このクソ高い木の壁を突き進むぞ」


フィオナ「ふふ、大丈夫ですよ、ハルトさん。私たちがついていますから。……あ、ハルトさん、その横にある黄金色のキノコ。非常に美味しそうに見えますが、食べると一生笑いが止まらなくなる呪いの触媒ですので、絶対に採らないでくださいね」


遥斗「……この森、キノコの殺意高くない?」


◇◇◇


 探索を開始してから数時間。

 俺たちは「アーティファクト」の残滓……微かに漏れ出す魔力を感知しながら、森のさらに深い領域へと踏み入っていた。

 しかし、その静寂を切り裂いたのは、原生生物の声ではなかった。


フィオナ「――ハルトさん、後ろです!!」


 フィオナの警告と同時に、彼女の腕が空を描いた。


フィオナ「《アイギスの盾》、三重展開・衝撃分散モード!」


 キンッ! キンッ! キンッ!


 背後の茂みから超高速で飛来した三本の光の矢が、フィオナが空中に作り出した幾何学模様の黄金結界に激突した。

 衝撃波が周囲の木の葉を散らすが、結界は微動だにしない。


???「チッ、B級の分際で反応がいいじゃないか。無駄な手間をかけさせやがって。……まあいい、炙り出しとしては上出来だ」


 カサリ、と音を立てて茂みから姿を現したのは、四人の男女だった。

 彼らの胸元に輝く《A級》の金バッジ。魔術師二人に、大剣を背負った重戦士と、二振りの短剣を構えたスカウト風の剣士。

 バランス、練度、装備。どれをとってもこの学校における「エリート」そのものの構成だ。


遥斗「おい。ランクが上のA級様が、後ろから不意打ちか? バルモンド魔導士養成学校の教育も落ちたもんだな」


 俺が鼻で笑いながら挑発すると、リーダー格の男は不快そうに唇を歪めた。


A級リーダー「卑怯だと? 笑わせるな。これは『実戦形式』の試験だ。校長も言ったはずだ、『奪い合い、欺け』とな。B級風情がこのサバイバルで生き残れるわけないだろ、武器を捨てろ。楽に気絶させてやる」


遥斗「……話し合いで解決する気は、最初からないってことだな」


 俺は腰の「魔術無効化の短剣」に手をかけた。

 ERRORシステム。HPを1に固定する代償として、あらゆる法則を歪める力。

 だがこの戦闘では使わないことにした。


A級リーダー「雑談はこれぐらいにしようぜ、野郎ども! 全員まとめて地面に叩きつけろ!」


 リーダーの合図と共に、前衛の二人が地を蹴った。同時に、後方の魔術師二人が広範囲制圧用の術式を展開し始める。


遥斗「レン、フィオナ! 迎撃開始!」


 敵リーダーの杖から、三つの巨大な火球が、計算された軌道で俺たちを包囲するように放たれる。

 俺は即座に右手を前に突き出した。


遥斗「《インフェルノ・ブラスト》――最大圧縮!」


 俺の魔術は、通常の魔術師のものとは魔法陣を通しているので密度が違う。

 極限まで圧縮された青い炎の奔流が、リーダーの放った三つの火球を正面から飲み込んだ。

 爆音。熱風。周囲の空気が一瞬で真空に近い状態まで膨張し、リーダーの顔に驚愕の色が浮かぶ。


A級リーダー「なっ、魔力出力で押し負けるだと!? どこの馬の骨かも分からんB級に……!?」


遥斗「ランクなんてただの飾りだってことを教えてやるよ」


 俺は爆風の中を突っ切った。

 リーダーは慌てて、自分の周囲に全方位型の物理・魔術の防御魔術を展開する。

 通常の魔術師であれば、この結界に接触した瞬間に衝撃で吹き飛ばされ、後衛からの追撃の餌食になるだろう。


A級リーダー「馬鹿め、自爆しに来たか!」


 だが、俺が構えたのは魔術そのものの魔素を吸収し、防御魔術としての効果を無効化する短剣だ。


 パリンッ!!


 耳を劈くような、硬質なガラスが粉々に砕け散る音がした。

 リーダーが絶対の信頼を寄せていたA級術式の結界が、俺の短剣が触れた瞬間に防御魔術はただの魔力の塊となった。


A級リーダー「……は? 結界が、消え――」


遥斗「もらった!」


 俺はリーダーの懐に飛び込み、あえて首元は狙わず、その腕に短剣の刃を浅く這わせた。

 そして、動揺で防御の意識が散漫になった彼の顔面へ、全体重を乗せた回し蹴りを叩き込んだ。


 ゴッ!!


 鼻骨が砕ける重い音が響き、リーダーの身体は数メートル後方まで吹き飛んだ。

 俺はすぐさま魔法陣を空中に固定し、追撃の術式を編む。


遥斗「《スタン・ボルト》」


 バチバチと紫電が走り、気絶寸前のリーダーを貫いた。

 彼は白目を剥き、完全に意識を失って崩れ落ちた。


 一方、レンとフィオナの方も熾烈な攻防を繰り広げていた。


レン「《トリプル・チェーン・レステインド》、捕らえろ!」


 レンの手から伸びた三本の光の鎖が、敵の重戦士の大剣を絡め取り、その剛腕を封じる。

 そこへ、片手剣のスカウトが影のようにレンの死角へ回り込むが。


フィオナ「させません! 《アイギスの壁》!」


 フィオナが瞬時に展開した黄金の壁が、スカウトの刺突を完璧に防ぎ止めた。

 敵の攻撃を一切許さない、鉄壁のサポート。

 レンはその隙に、魔法陣から実体化させた鉄鎖を……ヌンチャクのように激しく回転させ始めた。


レン「これでも喰らえ、エリート様が!」


 ゴンッ!!


 容赦ない金属音が響き、頭部を鎖の塊で強打されたスカウトは、一声も上げられずに沈黙した。


遥斗「……おーい、レン。それ、絶対に殺しちゃダメな試験だって忘れてないか?」


レン「安心しろ、峰打ちだ。……鎖に峰があるかどうかは知らんがな」


遥斗(絶対死んでるだろ、これ……)


 俺たちは残りの二人も迅速に無力化し、気絶したリーダーの懐から「アーティファクト」を回収した。

 これで一つ目。合格へのカウントダウンは始まった。


◇◇◇


 激戦を終えた俺たちは、夕闇に染まりゆく森を急ぎ、比較的視界が開けた岩場の影に拠点を構えた。

 夜の森は、昼間よりも数倍危険だ。原生生物の活動が活発になり、さらに他の生徒たちが暗闇に乗じて襲ってくる可能性も高い。


フィオナ「ハルトさん、レンさん。夕食の準備が整いました。こちらの『チキンキノコ』を、ハルトさんの炎の魔術で炙ってください。それと、この青い実は少し酸味がありますが、魔力の緊張を解してくれます」


遥斗「よし、飯の前に水だ。レン、汲んできた海水を出してくれ」


 俺は風魔法で木を切断して簡素な蒸留器を形作り、炎の魔術を微調整して加熱を開始した。

 ボコボコと沸き立つ海水から出る蒸気を、冷たい葉の蓋で受け、滴り落ちる滴を革袋に集めていく。


レン「……ハルト、あんたの魔術は壊すだけかと思っていたが。そんな精密な操作もできるんだな」


遥斗「壊すのも作るのも、本質は変わらない。……ほら、飲んでみろ。故郷の海とは一味違うはずだぞ」


レン「……ああ。……驚くほど澄んでいる。まるで、村の祭りで飲んだ清らかな水と同じだ……」


 俺たちはキノコを焼き、フィオナが摘んできた実を分け合った。

 焚き火の火が、三人の顔を赤く照らす。


フィオナ(……安らかにお眠りください……)


 ふと、フィオナが小さな声で独り言を呟くのが聞こえた。

 彼女は攻撃魔術を一切使わない。いや、使えないのではなく、「拒絶」している。

 傷ついた者への哀悼。それは、気絶させただけの敵生徒たちに対しても向けられているようだった。


遥斗「……フィオナ、気にしてるのか?」


フィオナ「いえ、……ただ。私がもっと完璧な補助魔術を使えれば、誰も傷つかずに済むのかもしれない、と考えていただけです。ハルトさんの身体を危険に晒すことも……」


遥斗「バカ言え。お前の盾があるから、俺は無傷のままでも笑っていられるんだ。お前は俺たちの『生命線』だ。誇れよ」


 フィオナは少しだけ驚いたように目を見開き、それから柔らかく微笑んだ。


フィオナ「……はい。守り抜きます、何があっても」


◇◇◇


 翌朝、朝靄が立ち込める中、俺たちはさらに森の深部へと足を進めた。

 しかし、歩き始めて数時間が経過した頃、前方の空間から、物理的な「重圧」が押し寄せてくるのを感じた。


遥斗「……何だ、この空気は?」


 木々を揺らす風の音が消え、鳥のさえずりも止まっている。

 俺たちは気配を殺し、広大な開けた場所に出る手前の茂みに身を潜めた。


 そこには、地獄を凝縮したような光景が広がっていた。


 中心に立つのは、たった三人の男女。

 一人は退屈そうに指を弄ぶ少女。一人は研ぎ澄まされた刃のような沈黙を守る剣士。そして一人は、全てを見下ろすような不遜な笑力を浮かべる男。

 彼らの胸元には、学校のランク制度を逸脱した、禍々しい金色のエンブレムが刻まれていた。


 《S級》


 彼らの足元には、数十人もの生徒たちが、まるで道端の石ころのように無造作に転がっていた。

 血を流す者。腕を不自然な方向に曲げている者。そして、絶望に瞳を濁らせている者。彼らは一様に、戦ったというよりも「一方的に蹂躙された」ことを物語る姿をしていた。


S級少女「ねえ、もう終わり? まだ三十人くらいしかいないんだけど。アーティファクト、たったの五個? 効率悪すぎじゃないかしら。この島、もっと歯ごたえのある資源はいないの?」


 少女が足元の剣士を、つまらなそうに蹴り飛ばした。


倒れた剣士「……頼む、もう、十分だろ……アーティファクトは全部渡した……助けて、くれ……」


S級リーダー「助ける? 勘違いしないでほしいな。僕らは『掃除』をしてるだけなんだ。無能な奴らがこの島にいると、空気が汚れるからね。……死なない程度に、消えてもらうよ」


 リーダーと呼ばれた男が杖を掲げた。

 次の瞬間、広場を暴風が吹き抜けた。物理的な質量を持った風が、倒れた生徒たちをさらに数メートル先まで吹き飛ばし、叩きつける。


遥斗「(……クソ。桁が違う。あれは魔術じゃない、ただの『暴力』だ。あいつら、同じ生徒をなんだと思ってるんだ)」


レン「ハルト……あいつら、目が『人間』じゃない。獲物をなぶり殺す獣だ。……今は引くぞ。気づかれる前に」


 俺たちは息を殺し、一ミリの音も立てないように後退を開始した。

 しかし、運命は非情だった。


S級リーダー「――あはは。見つけた。……そこに隠れている小鼠くん。そんなに怯えた匂いをさせてたら、バレバレだよ? 僕の鼻は『不要なゴミ』を見分けるのが得意なんだ」


遥斗「……っ! 全員、伏せろ!!」


 俺の叫びと同時に、空気が真空の刃へと変わった。


S級リーダー「《ウィンド・カッター・テンペスト》」


 目に見えない風の刃が、俺たちが隠れていた直径二メートルを超える巨木を、まるで豆腐でも切るかのように斜めに両断した。


フィオナ「《アイギスの壁》、五重結界!!」


 フィオナが割り込み、持てる全ての魔力を注ぎ込んで黄金の壁を構築する。

 **ガギィィィンッ!!**と、森中に響き渡るような轟音が鳴った。

 黄金の壁に、無数の深い亀裂が走る。


フィオナ「ああっ、う、あああああっ!! 魔力が、吸い取られるみたい……!」


 衝撃を支えきれず、フィオナが膝をつく。

 A級の攻撃を欠伸しながら防いだ彼女の盾が、たった一撃で、たった一撃で崩壊寸前まで追い込まれた。


遥斗「……ちっ!!」


 俺たちは姿を晒さざるを得なくなった。

 S級の三人が、新しい玩具を見つけた無邪気な子供のような、残酷な笑みを向けてくる。


S級リーダー「逃がさないよ。君たちの魔力、B級にしては面白いのが混ざってるね。……僕が綺麗に掃除してあげるよ」


遥斗「……レン、フィオナ。やるしかないぞ」


レン「ああ。……あんな連中に、俺たちのアーティファクトをくれてやる義理はないからな」


フィオナ「……はい。……絶対に、守り抜きます!」



 最弱のERROR能力者と、復讐の鎖、そして不殺の盾。

 絶望的な蹂躙の夜が、今、幕を開ける。


第13話に続く――。

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