宮廷の洗礼⑨
「気分はどうだね」飲み干したカップを受け取りながら治療師長がダンに訊いた。
「ずっと…よくなりました」ダンは認めた。
「ふむ。君は何があったか覚えているかの」
ダンはできる限り詳細に王宮についてからの、行動と食べたものや出会った人について治療師長に伝えた。「他のものの証言と変わりはないな」
ダンは驚いて聞いた。「わたしの行動を監視していたのですか⁈」
「監視してるわけではない、が、王宮ではあらゆるところに目と耳があることを知りなさい。また今回に限れば、ことが起こってから比較的すぐに調べられたのも幸いしたがね」
ダンは今後の王宮内での生活では監視されてることを忘れないと誓った。「…質問は終わりですか?」
「もう一つある」
「なんでしょうか」
「君はこれが何かわかるかの」
そう言って、治療師長は手のひら大の小さな羊皮紙をダンに渡した。
複雑な模様が描かれていて、何を意味するかまでは分からないが魔術や呪術に関するものを連想させた。
幼い頃バリーが城に来た時に似たものを見た気がする。
バリーは古い魔法の研究していて、幼い頃はこれが何の魔法で、あれは何の魔法で、と聞いてもいないのによく教えてくれた。
「あの…同じものかはわかりませんが、以前に似たものを見たことがある気がします」
「なに⁈」治療師長は好々爺のような顔から急に厳しい顔に変わった。「いったいこの呪符をどこで見たのだ!城の魔術師達でも分からなかったものをなぜ君が知っとる⁈」
「同じものかは分かりません!ただ…以前おじが見せてくれたものに似ている気がします」
「…君の…叔父君はどなたかな?」
「宮廷にいる、古い魔法を研究している。ジェームズ・バリーです」
「なんと!!魔法分野の考古学の権威、ジェームズ・バリーか⁈」
「みんなからはそう呼ばれているみたいです。あの…これは、一体なんなのですか?」
「…分からん。君のベッドの下にあったのじゃ」
「なんですって⁈」
「恐らく、君の体を硬直させ、害したものではないかとわたしたちは思っている」
ダンは、体を害した、という言葉を聞いて愕然とした。
バリーはきっとこの件とは無関係だ。
けれども自分の言葉で彼の評判を貶めることになったのではと心配になった。
「ダン?」
「…おじさまはきっとこの件とは無関係です」
「うむ。まだ何とも言えないが、わたしたちもそう願っている。しかし、こちらの呪符に似たものを叔父君が研究していた以上、事情を聞かない訳にはいかないだろう…」治療師長は少し暗い顔をしながらダンに言った。「質問は以上だ。疲れてるとこすまんかったな。ゆっくり寝て、明日…いやもう今日か。今日の午前までは念の為こちらで休むこと。午後からは授業に出ると良いじゃろう」
「あの…バリーおじさまは…」
「うむ。この呪符が古いものであれば、考古学者として同じような呪符を研究していても何ら不思議はないであろう」治療師長の言葉は、バリーが呪符を持つことに不思議はないけど、ダンの体を害した者でないと証明できないことを語っていた。
「誰がやったにしろ、冗談にしては度が過ぎてる。宮廷に来たばかりの君にこんなことは言いたくないが…気をつけなさい」
治療師長が出ていったあと、またベッドにエメットに寝かされたが、酷く心がざわついて、結局朝までの短い時間では寝付くことができなかった。




