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宮廷の洗礼⑧

 …誰かの話し声が聞こえる。

「…かわいそうに。誰の仕業かはまだ分かってないんだって?」男がいった。

「ああ。本当に、イタズラにしては度が過ぎてる。この子自身は来たばかりで敵をつくるような時間もなかっただろうから、誰がやったか、この子を狙ってやったのか、特定するのは至難の業だろうな」別の男がいった。

「おまえ、あの噂を聞いたか?」最初に声が聞こえた男がもう1人の男に訊ねた。

「なにをだ?」

「この子はなんと、アガタ公爵の甥っ子らしい!」

「ああ、その話か。甥っ子かは分からないが、この子が運ばれてきた後にアガタ公爵がお見舞いにきたそうだ。治療師長にも必ず治すようにと言い残したみたいだから、繋がりがあるのは本当だろうな」

「…これは、アガタ公爵の政敵の誰かがやったって場合もあるかもな」

「…誰が聞いてるか分からないんだ。滅多なことを言うもんじゃない。」

 2人はおしゃべりをやめたようだ。

途中から恐らく自分のことを話してるのがわかった。

目を閉じていたけど、そろそろ起きても大丈夫そうだ。

ダンはわざと大きくあくびをして、体を伸ばそうとした。

「っ!」体は恐ろしくこわばっていて、腕を曲げようとしたらパキパキと関節から音が聞こえたる。

 その途端、先程まで体が動かず声も出せなかったことが鮮明によみがえってきて、体を起こして声をあげた。

「おお!良かった、気がついたみたいだな!体調はどうだい?」先程、公爵の甥っ子らしい、と話していた声の人がすぐにダンに駆け寄って、心配そうに顔を覗き込んだ。もう1人は「治療師長に知らせてくる」と言って部屋から出ていった。

「…体調?」そう言われて、手を握ったり首を回したりする。

こわばってはいるけど動かないほどじゃないし、声も出るようになった。「大丈夫そうです!あの、わたしは…わたしに一体何があったんですか⁈」

「興奮しすぎないで!不安な気持ちも分かるけど、体力もまだ完全に回復したわけじゃないからね」

 ダンはそう言った相手を睨みつけて、鼻息も荒く何があったか問いただしたかったが、落ち着いて話を聞くことすらできない馬鹿な子どもだと思われるのも癪に触るので、とりあえず鼻から大きく息を吸って落ち着こうとした。

「さあ、これを飲んで」男はそう言って、薄い苔色に透き通った飲み物を差し出した。

草を刈った後の庭のにおいをそのまま飲み物で差し出されているようなひどい気持ちでダンは男からカップを受け取った。

恐らくこれは薬で、目の前の男は宮殿の治療師だとは思ったが、しっかり確認しないと。「あの…これは何で、あなたは誰ですか?」

「ああ、わたしは王宮の治療塔の治療師。これは薬で体のこわばりをほぐしてくれる。さあ飲んで」

「…分かりました。あの、ラショーンはいますか?」カップに口をつけないまま、男に訊ねた。ひどい匂いでとても飲みたくない。

「ラショーン殿はさっきまでいたけど今は自室に下がっている。今は深夜だからね。」

「深夜ですか?」…確かに部屋の窓の外はくらい。でも、ラショーンと目が合った時、何となく部屋が明るくて朝が来たのかと思ったんだけど。

「そうだよ。君は早朝ここに運ばれてきて、ほぼ丸一日眠っていた」

「丸一日…」そうつぶやいた時に、また部屋のドアが開いた。

先程、治療師長を呼びに行くと言った男がすごく小さなおじいさんを連れて戻ってきた。おじいさんはまっすぐダンの方に向かってくる。恐らくあれが治療師長なのだろう。

「目が覚めたようだね。わたしは王宮の治療師長のアーヴィングだ。」おじいさんは、覚めた、という時に、しゃめた、と言った。「エメット、薬は飲ませたのかい?」アーヴィング治療師長は、ダンに草の匂いのする薬を渡した男に訊ねた。また、のましぇたのかい?と言った。さ行がしゃししゅしぇしょになってしまうタイプなのだろう。

「渡しました」エメットはいった。

「結構。そうしたら、ダン。起き抜けに申し訳ないが、いくつか聞かせてもらいたいことがある」

「はい」ダンは自分に何が起こったかを先に聞きたかったが、話してるうちに聞けるだろうと思って我慢した。

「あーっと、エメットとカイデンは仕事に戻ってよろしい。また必要な時にはお願いする」

治療師長を呼びに行った男はカイデンというらしい。

2人は治療師長に頭を下げて部屋の中にある薬の瓶らしきものが置かれた棚の前に言って、何かを小声で話しながら作業をはじめた。

「さて、ダン。じゃあいくつか質問させてもらおう。楽にして聞いてくれればいいからな」治療師長はそう言ってダンに向いた。

そして、ダンの手に持ったカップを背伸びして見て片眉をあげる。「なんじゃい。エメットは薬を渡しただけかいな。ダン、それを飲めば体が楽になる。匂いはひどいが効果は折り紙付きだ。ぐいっといきなさい、ぐいっと」治療師長はうんうんと頷きながら飲むように促す。

ダンは覚悟を決めて、カップの中身を一気にあおった。

匂いは最低だったが、味はほとんどなくてハッカのようなスッキリ感だけが後に残った。

すこしたつとかなり気分が良くなって、体を動かしてもそれほどこわばりを感じなくなった。

治療師長はそれを見て、ひとつ頷いてまたダンに聞き直す。

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