宮廷の洗礼⑥
一通りみんなとの挨拶が終わるとギャビンがいった。「君は夕食を食べにきたんだろ?ここの食事のルールはもう聞いたかい?」
「鐘がなったら食事の時間だってこと以外は全くわからないんだ。宮廷に来たのもはじめてだから…」ダンは苦笑しながら言った。
ギャビンも周りも苦笑いして「使用人頭にも困ったもんだな。彼はそれこそもう何年も何十年も同じことを毎日のように繰り返してるからたまに大事なことでもみんなが知ってると思って伝え忘れるんだよ。大目に見てやってくれ。細かいことを新人に伝えることは先輩であるおれたちの役目なんだ」
そう言って、みんなは食事やその他の簡単な決まりを教えてくれた。
「まず食事は朝昼夕食の3回だ。きまった時間に鐘が鳴って知らせてくれる。今は夕食後のお茶の時間というか、授業の復習や予習、宿題なんかをやる自習時間にあたる」ウィルの方をちらっと見てギャビンが言った。
鐘は食事以外の時にも鳴るようで、起床、朝食、昼食、午後のお茶の時間、夕食、就寝時間の6回だ。
それぞれ1の鐘、2の鐘…と呼んでいて6の鐘まである。
「午後のお茶の時間は鐘は鳴るけどおやつはないと思いなよ」そう苦々しく言ったのはリー家のオーガスタだ。
おやつの時間だと思ってお茶をしていたら授業に遅れ度々叱られていたらしい。
「周りに誰もいないのにゆっくりお茶ができるのはオーガスタくらいだから」ギャビンがいった。「鐘が鳴ったらできるだけ急いで食事して、みんなの動きを確認しながら動くんだ。それから、今日のように時間通りに夕食を取れなかった場合は、給仕に頼むより直接キッチンに行って夕食のあまりがないかシェフに直接訊くといい。シェフと仲良くなっておくとおやつには困らないよ」ギャビンはそう言って、食堂を少し歩いた先にあるキッチンに連れて行ってくれた。
ギャビンはシェフに夕食が遅くなった訳を話しながらダンのために夕食を用意するように頼んでくれた。
それからちゃっかりミルクとスパイスが入った香りのいいお茶と、ドライフルーツがたっぷり入ったケーキをみんなの分まで追加でもらってきた。
おかげでダンはお腹がふくれるまで夕食とデザートを楽しむことができた。
食べ終わった食器やトレーは机に置いておくと給仕が空いた時間に片付けてくれると言われたが、キッチンの場所を覚えるために今回は自分で片付けることにした。
キッチンに行きケーキが特に美味しかったとシェフに伝えると、とても気をよくして残ったケーキを紙に包んで持たせてくれた。
ポケットに入れようとして、つい先程のできごとを思い出す。
今後は気をつけなければ!
ダンが食事を終えて、部屋に戻る頃にはほとんどの人が自室に下がっていて、同じ長机に残っていたのはダンとウィルだけになっていた。
部屋に帰るとラショーンがいるかと思ったがまだ帰って来てないらしい。
食堂から帰る前に近くにいた使用人に声をかけて、用意してもらったお湯で汚れを落とした。
4日ぶりにすっきりとした気持ちで寝巻きに袖を通す。
寝る前に先程食べたケーキがまた食べたくなって、少しだけたべるつもりが一切れ丸ごとたべてしまった。
残りはラショーンにあげるために残しておこうと紙に包む。
ベッドに入りながらラショーンが帰ってくる気配がないか耳を澄ましていたが、新しいことが色々あったため疲れていたようですぐに瞼が重くなった。
いつの間にか眠っていたようであたりは闇に包まれている。
ダンは息苦しさを感じて目を覚ました。
すごく体がだるい。起きて明かりをつけようとしたが体が動かない。
そこでやっと自分の異変に気がついた。




