ページ3 アップルパイ(前半)
あなたは女神に出会うでしょう。
悪しき敵。神の雷。
差し伸べられた手を取れば、女神は微笑み、あなたの生涯の友となることでしょう。
「──いや、意味がわからんし」
氷の魔女ロゼッタの料理工房にて、カウンター上にちょこんと座るノルはアイスコーヒーをがぶ飲みしていた。
「いえ、今日の占いを少々」
「占いぃ? お前、そんなこともできんの?」
「フフフ、当然ですとも! ……まあ、ほとんど外れますけど」
「占う意味とは」
季節は夏! ……ではなく、いまだうららかな春の陽射しが差しこむ今日この頃。
先週までの寒波から一転し、ここ連日は汗ばむ陽気が続いていた。
「熱いですねー」
ロゼが上着のローブを脱ぎ捨て、アイスコーヒーを一気にあおる。今日の彼女はフリルがついた白のブラウスに地味色スカート。いちばんお気に入りの服、というよりも、同じ服を何着も持っているらしい。
相変わらず野暮ったい格好だなぁ、と一瞥してから、ノルは十時のおやつをかじった。
──アップルパイである!
さくさく、甘酸っぱい、このお味。
みんな大好き、リンゴをふんだんに使用したユーハルドの名物、アップルパイだ。
今朝方、近所のパイ屋で購入した熱々のアップルパイ(ロゼが温め直した)に、同じく近所の牛乳屋から入手したミルクアイスを添えた一品。
さきほどからノルはこの豪華な皿を堪能していた。
(うーむ、言葉に出来ない美味しさ……)
こってり風味の甘酸っぱいパイをさっぱりさせる爽やかアイス。計算された絶妙な温度差がまた癖になる。
なにより交互に食べると、これがまた、脳が痺れるほどうまいのだ。
熱々→冷たい→熱々。ときには一緒にもぐもぐと。
ノルは見事にこの無限ループにはまっていた。
「うまうま……」
「──さてと」
ロゼがノルの隣に座る。今日の占いとやらを終え、アップルパイにフォークを入れようとしたところで、玄関の鐘がカランコロンと揺れた。
「──こんにちは。失礼するよ」
扉から入ってきたのは、眼鏡をかけた青年だ。
年の頃は二十歳前後。役人みたいな格好をした、物腰柔らかな男という印象だが、ずいぶんと変わった髪の色をしている。
(緑? 染めてんのか?)
ノルが首だけを向けると、ロゼが慌てた様子で立ち上がる。
「ペ、ペリードさん⁉」
(ペリード?)
知り合いだろうか?
青年は穏やかな笑みを浮かべて扉を閉めた。
「久しぶりだね、ロゼ。君が店を出すことは聞いていたけれど、なかなかこれなくて今になってしまったよ。開店祝いにこれを」
華やかな花束だ。
「あ、ありがとうございます」
「相変わらず、美しいな。まさに森の妖精といった感じだね」
「ど、どうもです……」
赤薔薇たっぷりの花束を受け取り、ロゼは気恥ずかしそうな、当惑したような硬い笑顔を浮かべて彼を近くの席まで案内した。ペリードなる青年は優雅な所作で椅子に座ると、ロゼから出されたアイスコーヒーに口をつけた。
その際、名残惜しそうに皿を見つめてから、ロゼはアップルパイを彼に出していた。
ノルは青年をじっと見つめる。
(おいおいおい! あの兄ちゃん。ロゼの恋人かなんかか?)
森の妖精のように美しいってか?
実はロゼが青年を席へと促す前、彼は片膝を立てて、ロゼの手の甲に口づけを落としていたのだ。
歯が浮く台詞と親しげ(?)なボディタッチ。うさぎのノルから見れば、そんな挨拶ひとつでも恋人かと疑ってしまう。
「店はどうかな? 繁盛しているかい?」
「いえ、それがまったくでして」
「そうか。まぁこういうのは積み重ねというからね。僕も職場のみんなに宣伝してみるよ。ロゼのご飯はおいしいからね。いちど来ればみんなも通ってしまうこと間違いなしさ」
「あ、はは……そうだと嬉しいのですけどね」
「大丈夫。自信を持ちたまえ。──と、そうだった。今日は兄さんから手紙を預かってきたんだった」
青年が懐から便箋を取り出して机に置いた。ノルが机に飛び乗ると、貴族っぽい紋章の封蝋と、長い文字の羅列が封筒に書かれてあった。
「こーら、ノルさん駄目ですよ? いまはあちらに行っていてください」
(なんだよ、俺がいたら何か不味いような話でもするのか?)
口には出さないがノルはロゼに視線で訴える。ロゼは困ったようにノルの身体を持ち上げると、横の椅子に座らせた。
(……む)
少し不愉快だ。ノルは机の端に前足をかけてじと目でロゼを見上げた。
「可愛いね。最近、飼い始めたのかい?」
「ええはい。王都に来る前に遺跡へ立ち寄ったら拾いまして」
「遺跡に? ああ、君はそういう冒険じみたことが好きだと前に話していたね。なにかいい魔導品はあったかな?」
「いえいえ、全然でしたよ。でもノルさんと出会うことができたから、まぁ……」
言って、ロゼはノルの背中を撫でた。ノルが目を細める。
(魔導品……)
先日、ロゼが話していた。
たしか各地に遺跡と呼ばれる古い建造物があるらしい。そこには魔力を秘めた道具。簡単にいうと魔法のアイテムが存在し、一般の市場には流せないほどの高い値で取り引きされているのだとか。
ロゼのような魔導師は、魔導品を使って魔法を発動するやつが多い。だけどロゼは正真正銘の魔女だから、そんなものが無くても魔法を使えることが出来るのだと、小さな胸を張って得意げに話していた。
そんな話をノルがぼんやりと思い出していると、ロゼは青年から便箋を受けとった。
「いまこちらで拝見しても?」
「もちろんだとも」
ロゼがカウンターからペーパーナイフを取り出し便箋を開く。中から出てきたのは簡素な二つ折りの紙。広げると、びっしりと文字が書いてあった。
(なになに?)
ロゼの腕に前足を乗せて、ノルが手紙をのぞきこむと、上のほうに『依頼』という文字が書いてあった。
「ルナの葉は知っているかな?」
「ルナの葉……たしか、心を落ち着かせる葉っぱですね」
「そうだね。その葉が少し入用でね。もしも可能なら採取をお願いしたいと兄さん──ああ、いや、魔導師団長が言っていたんだ」
「ああ、あの方ですか」
ロゼが一瞬だけ天井を見上げる。その魔導師団長やらを想起したのだろう。
「本来なら険しい高地でしか育たない木なのだけどね。魔導師団長曰く、ニアの森に近縁種が生えているらしい。効果のほどはルナの葉よりも薄れるが……ひとまずそれで代用できるからと話していた」
「なるほど。ですが、なぜわたしに直接依頼を?」
「ほかに適任者がいないから、かな。今月末に祭りがあるだろう? 城の者たちはそちらの準備で忙しくてね。軍属ではない、一般の魔導師に依頼をするとなると、それなりに信頼できる相手が望ましい。そこで君が選ばれたというわけだ。ほら、君。うちの魔導師名簿に名前を残しているだろう?」
「ああ……そういえばそんなこともありましたね」
「そう。とくに篝火のロゼッタは、軍部でもけっこう名が通っているからね。ちょうどユーハルドに店を構えたときいて、ぜひお願いしようという話になったんだ」
「ふむ。なるほど……」
「ちなみに報酬は弾むよ。金貨五枚でどうかな?」
「五枚⁉」
ロゼが勢いよく椅子から立ち上がり、身を乗り出して叫んだ。青年が驚いて目を丸くしているが、ノルもつぶらな瞳をかっと開いて驚愕した。
(五枚っつったら……おいおいおい、人参何本ぶんだ?)
ノルは想像して目が回りそうになった。
人参に押しつぶされる自分。夢のような光景だ!
よだれが垂れそうになるノルの横で、ロゼが力強く答えた。
「やります!!」
真剣な目だ。表面上は平静を装っているが、内心ではおそらく飛び上がるほどに喜んでいるに違いない。青年が優雅な笑みを浮かべて彼女に右手を差し出した。
「本当かい? それは助かるよ。じゃあ、十枚ほどでいいそうだから、よろしく頼むよ」
「はい。氷の魔女ロゼッタ。たしかにお仕事承りました。あなたに火の加護がありますように」
ロゼが彼の手を握り返した。
交渉成立だ。
手を離すとロゼは「そうだ」と口にした。
「あの、ひとつお願いしてもいいでしょうか?」
「なんだい?」
「登録名簿の内容、『氷』の名前に変更してもらうことは可能ですか?」
「変更?」
青年が怪訝そうな顔をして、あごに指を置いた。一瞬だけ逡巡するようにロゼから視線を外したあと、青年は頷いた。
「うん……、たぶん大丈夫だとは思うよ。けれど、念のために理由を聞いてもいいかな?」
「なんとなくです」
(なんとなくかよ)
青年が戸惑っている。まぁ当然だろう。ロゼもそれでは駄目だと思ったのか、いつものように上を向いて思案すると理由を口にした。
「篝火の通り名も気にいってはいるのですが、氷のほうが好き……といいますか。なによりこの国では、『氷』の名前で自分を売りこみたいなと思いまして」
(売りこむって……)
言葉の選びはあれだが、青年はとくに気にしていないのか、二つ返事で了承してくれた。
「なるほど。そういうことなら兄さんに伝えておこう。どうせなら好きな名前で活動したいだろうからね。──それじゃあ、依頼の件は頼んだよ」
「はい、お任せください」
青年はロゼの前で優雅に一礼すると、店から出て行った。ノルは机に飛び乗り、くるりとロゼのほうに身体を向けた。
「ロゼ、あの兄ちゃんは誰だよ」
「ペリードさんですよ。この国の貴族のかたで、こちらに店を構える際に推薦状を書いていただいたかたの弟さんです」
「推薦状?」
「いちおうお店を開くのにもあれこれ手続きが必要なのですよ。一筆書いていただくと、店を出しやすくなるといいますか……後見人みたいなものでしょうか」
「ほーん」
いわゆる『このひとは信用にたる人物ですよ。うちが保証します』というやつだ。
ノルには人の世界の決めごとなんてわからないが、それよりも、ロゼが正規のルートを踏んでいることには驚いた。彼女なら勝手に店とか出しそうだが。
「ちなみに、ペリードさんは侯爵家のかたですよ」
「侯爵? それってけっこう偉いやつなんじゃあ……」
「そうですねぇ。この国には五つしかない侯爵家ですから、そこそこ有名なのはたしかですね」
「そこそこ有名って、かなりだろ、それ。……って、いや? そうでも無いのか?」
やはり人間社会のルールなど知らないノルは自信を持って「そうだ」とは言えない。反対にロゼは知ってか知らずか、のほほんと首をかしげた。
「うーん、どうなんですかね……? 長老様や王様ってわけでもないですし、そのあたりは全部同じですよ」
「お前ぜったい社交界とか無理そうなタイプ」
平然と言ってのけるロゼを見上げてノルはため息を吐いた。ロゼが店の奥から杖を持ってくる。うさぎの刺繍が施されたベレー帽を被って、
「さ、ニアの森に出かけましょう。ノルさん!」
ロゼの腕に抱えられてノルは店を出た。
◇ ◇ ◇
ユーハルドの南に位置するニアの森。
馬車で一時間弱の場所にある広い森の中を、ふたりは鼻唄混じりに歩いていた。
「ノルさん。そこかしこに葉っぱがありますが、毒草も多いので食べるときは注意してくださいね」
「そこは食うな、じゃないのかよ」
「まぁうさぎさんは草を食べるものですから。たまには小動物アピールもしておかないと」
「誰に向けての?」
「わたしに向けての?」
可愛い姿を見せてください、とロゼが言うのでノルは近くの草にかぶりつくことにした。
「んじゃ、サービスするとするかね」
むしゃむしゃむしゃ。
ぺっと吐き出してノルは上を向いた。
「いや、まずいから」
「ですよねー」
見上げてくるノルにふふっと笑い、ロゼは腰をおとしてノルの頭を撫でた。
「ノルさん、本当に変わっていますよね。オムライスもお肉もがっつり食べるだなんて。ふつうのうさぎさんはそんなものは食べませんよ」
「そらそうだ。俺はうさぎであってうさぎじゃないから、ロゼと同じものが食えるんだ。ほかのうさぎに人の食いものなんかやるなよ?」
「もちろん、わかっていますよ。ノルさんは不思議なうさぎさんですからね」
ロゼは立ち上がり、さくさくと森の中を進んだ。その真横をノルがぴったりついて歩く。
「なぁ、ロゼ」
「なんです? ノルさん」
「さっきあの兄ちゃんがいってたけどよ。ロゼって意外とすごい奴だったりする?」
向けられたつぶらな瞳にロゼは首をかしげる。
「もちろんわたしはすごいすごい魔女ですが……急にどうしたんですか? ノルさん」
「自分でいうんだ……」
ノルが半分呆れたような視線を返すと、ロゼは瞳をそらして「冗談です」と付け足した。
少し調子に乗ってしまった。
「わざわざ城から依頼がくるってことは、それなりに実績を積んでるってことだろ? 俺としてはお前がすごい魔導師にはまったく見えないんだが」
「はっきりいいますね」
「だって、お前が魔法使ってるの見たことないし」
「かまどの火をつける時に使っているじゃないですか」
「地味すぎるだろ、それ」
それのどこがすごい魔導師なんだよ、と文句を言ってくるノルの頬を指でつついてから、ロゼは苦笑した。
「まぁ……正直に白状するとですね? この国での魔導師としての実績は、わたし個人によるものではないのですよ」
「と、いうと?」
「わたしには魔法の師匠がいるのですが」
「ほう」
「師匠はとてもすごい魔導師でして、わたしが受けた難しい依頼を手伝ってくださったことがあったんです。そのおかげといいますか、この国での『篝火の魔導師』としての功績は、それによるものが大きいのですよ」
「ほーん。つまりロゼが依頼に失敗して、そのお師匠さんが代わりにこなしてくれたってことか」
「う……、否定できない自分が情けないですね……」
でも、とロゼは反論する。
「成功率一割未満の依頼ですよ? 失敗したってしょうがないと思うのですよ。だから師匠に助けてもらったのは必然の理です!」
「お、開き直ったー」
ロゼが胸を張ってそう言うと、ノルも適当な返しをしてロゼを見上げた。
「ちなみにそれってどんな依頼だったんだ?」
「高山の頂に住む、睡魔鳥と呼ばれる魔鳥狩りです」
「すーぴー?」
睡魔鳥とは、歌声を聞いた者を眠らせる魔鳥のことである。
人を襲うわけではないから大した実害はないが、その地に定住されると人々は一生眠りつづけることになるので、そういう意味では命の危険がある。
そんな感じで、ふたりがあれこれ会話をくり広げていると、近くの茂みがガサガサと揺れた。
ロゼが首をかしげて茂みに近づくと、ぴょこんと愛らしい栗毛のうさぎが出てきた。
「おや。ノルさんのお仲間さんでしょうか」
「いやいやいや。これは普通のうさぎだろ」
「そうですが。ちなみにこちらは、この森に生息するニアウサギですね。獲って帰って食べましょうか」
「おい、雑な名付けするなよ。つか、食うの? 可哀想じゃね?」
「なにをいいますか。うさぎの肉は貴重なたんぱく源。鍋にするとおいしいとなにかの本で読みました」
「読みましたって……お前は食ったことないの?」
「ないですね。わたしが育った村は菜食中心でしたし……、お肉についてはあまり詳しくないんですよ」
「へ? そうなん? でもお前、鶏肉好きじゃん」
きのうもおとといも先日も、ロゼがローストチキンを食べているのをノルは見ていた。
ぎとぎとした油が最高! とかなんとか言って、がっついていた。
「そりゃあ、いちばん安いですからね。コスパ重視です」
「コスパ……」
「──っと、話をしているうちにうさぎさんがあちらに」
ロゼがスッと指を向けた先には、ぴょんぴょんと後ろ足を蹴るうさぎの姿がある。まるでこちらに来いと言わんばかりに途中で立ち止まっては、つぶらな瞳を向けてくる。
「ほほう? これはいわゆる、うさぎさんを追いかけて地下の異郷へ……というやつですね!」
「なに言ってんの?」
くだらないことを言っていないで追いかけるぞ、とノルが告げてロゼの前を走った。
◇ ◇ ◇
「これは……随分と荒れて……」
ロゼは警戒しながら周囲を見回した。薙ぎ倒された木々。抉れた大地。大きな鉤爪で引っ掻いたような痕跡。獣同士で争ったにしては随分ひどい。
「ロゼ! あれ!」
ふいにノルが叫んだ。見れば、前方、木々の隙間から巨大な鳥と戦う男の姿が見えた。男は銀の腕輪を嵌めた右手をかざすと呪文を唱えた。ボールくらいの大きさの水球が巨大な鳥を襲う。しかし、鳥が羽を動かすと水球は男に跳ね返り、男は転倒した。鳥が獲物を喰らおうと動く。
「──させませんよ!」
ロゼは事前に詠唱を済ませてから、茂みを飛び越え、魔法名を告げる。
「大きな炎」
ロゼよりも大きな火球が敵にぶつかる。鳥は甲高い悲鳴を上げ、どこかへ飛び去った。
良かった──ホッと安堵の息をついてロゼは振り返る。男が目を丸くして自分を見ていた。
「危ないところでしたね。大丈夫ですか?」
「あ、ああ……ありがとう。すごい魔法だね。お嬢さん、魔導師か何かかい?」
「はい。通りすがりの魔導師です」
「…………」
ノルが無言で見上げてくる。
助けた相手に一度は言ってみたい台詞ランキング十位以内に入りそうな言葉を、ロゼがにっこり笑って言うと、男はハッとした様子で地面に額をつけた。
「魔導師さん!」
「えっ! あ、あの、そんなに感謝されましても──」
「お願いします! 彼女を、助手を助けて下さい‼」
「え? 助手? ええっと……?」
何の? しかも、何か恥ずかしい勘違いまでしてしまった……。
ロゼが困惑していると、男は勢いよく頭を上げる。
「私は王都で医者をやっているのですがっ! 助手を連れてこれから近くの村に診察に伺うところをあの巨大に襲われてっ、ソフィアがこの先に!」
彼曰く、森の脇の街道を馬車で南下していたら、突然あの巨大な鳥に襲われた。馬車を捨て、森まで走り、助手を先に逃がして彼は鳥と対峙した。
あの魔法は魔導品と呼ばれる道具を使ったもので、自衛にと持ってきたものらしい。ちなみに魔導品はその高価さゆえ、一般人がおいそれ手に出来るものではないから、ロゼは『さすがは医者だ』と感心した。
ともかく、彼の助手──ソフィアさんが危ない。ロゼは駆け出した。
「分かりました! わたしにお任せください! ──ノルさん、こちらはお願いしましたよ!」
大きく前足を振るノルを視界の端に収めて、ロゼは走った。