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氷の魔女の料理屋さん  作者: 遠野イナバ(五月一五)
本編

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閑話:続、紅茶のスコーン

『紅茶のスコーン』のその後。

補足的なお話です。

「こんばんは、サラいますか?」


「ああ、えーと、ユーリさん。いらっしゃいませ」


 夜の営業を休止して、サラのスコーンづくりに付き合っていたロゼは、最近知り合ったサラの兄ことユーリを店の中へと招き入れた。


「兄さん! 見て見て。これ、わたしが作ったのよ」


「へぇ、サラ、お菓子なんて焼けたんだ。ひとつもらっていい?」


「この星型のがおすすめよ」


 わいわいと試食会を開き出した兄妹ふたりの横で、アルバが机に突っ伏している。

 あのあと店を訪ねてきたアルバがスコーン作りのイロハをサラに叩きこんでくれたおかげでマトモなスコーンが焼けるようになった。

 先生役お見事。

 グッジョブ、アルバさん。

 ロゼはぐっと親指を向けた。でもアルバ(瀕死寸前)は見ていなかった。


「そういえば、ロゼッタさん、でしたか」


 スコーンを食べながら、ふと思い出したようにユーリがロゼに顔を向ける。

 いまはノルがいないので彼の奇行はない。

 サラが淹れてくれた紅茶の香りを楽しみながら、ロゼは彼の話に耳を傾ける。


「先日、貧民街近くの路地を歩いていませんでしたか?」


「え? はい。歩いていましたよ」


 あれは四日前のことだった。

 豊穣祭も終わり、王都の混雑具合も解消されたからと、ロゼは師匠を探して貧民街(王都の北東区)のあたりをうろついていた。


『うーん、やっぱりここにもいませんかー』


 食堂経営の傍ら、こうしてたびたび王都の街を練り歩き、師匠を探しているロゼではあるが、毎度のことながら成果がない。


 師匠どこにいるんですか……と、ロゼが肩を落として歩いているところを、どうやらユーリが見ていたそうだ。


 ちなみにその後、ソフィア兄の店で限定ドーナツを見つけて購入し、大喜びしながら帰ってきたらノルに食われた。

 

「ああ、やっぱり」


 ユーリが苦笑する。


「僕が言うのもお節介かもしれませんけど、あのあたりは物騒なので、行くなら知人の男性を連れて行ったほうがいいですよ。ロゼッタさん、結構目立ってましたから」


 はにかみながら「美人ですし……」と続いた言葉に、満更でもないロゼは『はて』と首を曲げる。


「もしかしてユーリさんも、貧民街に?」


「はい。あそこには珍しいものが集まる店があるので、国に戻ってきた時は足を運ぶようにしてるんです。ロゼッタさんは……、誰かを探していらっしゃったようでしたけど」


「あー……、師匠を。探していまして。貧民街にいるかなあと思ったんですよ」


「師匠? ロゼッタ先生の先生ですか?」


 サラが首をかしげる。

 かくかくしかじか。ロゼは探している師匠のことをふたりに話した。


 するとうつ伏せのままで聞いていたらしいアルバが顔を上げて眉間にシワを寄せた。


「なんでそれ早く言わねぇんだよ。知ってたら、とっとと探してやったのに」


「ええ? でも、アルバさんお仕事お忙しいでしょうし、さすがにあちこちついて来てもらうのはちょっと……」


「そうじゃなくて。知り合いに聞くとか探す方法はほかにもあるだろ? そんな、いちいち歩いて探し回るなんて効率わりぃ真似はしねぇよ」


「知り合い……。ああ、確かに。そういう手がありましたね」


 交友関係の狭い、もといボッチのロゼには思いつかない策だった。

 サラがぽんと手を合わせる。


「そういうことでしたらわたしも。おばあさまや友達にも聞いてみます。ね、ユーリ兄さん」


「そうだね。ロゼッタさん、その人の特徴とかって教えてもらえますか?」


 ユーリは手帳を取り出すと、ロゼが話す師匠の特徴をメモしていった。


 白髪。

 黄昏色たそがれいろの瞳。

 二十代くらいの男性。

 大陸中を旅してるっぽい。

 猫連れ。


 最後のは猫はまぁ星霊だが、そこは伏せて伝えた。


「なるほど……。何人か商人に知り合いがいるので、今度聞いてみます。もしかしたら外国にいるのかもしれませんし。念のために言付けを頼んでみますよ」


 ぱたんと手帳を閉じてユーリが椅子から立ち上がる。

 サラも大量のスコーンが入った木編みのかご(バスケット)を腕に下げ、


「先生、今日はありがとうございました」


 と頭を下げて、兄妹ふたりは帰っていった。

 アルバもふらつきながら玄関へと向かう。


「じゃあな、なんか分かったらまた来るよ」


「今日は本当に助かりました。またよろしくお願いします」


「もうマジ勘弁」


 アルバは後ろ手をブラブラと振って店を出ていった。

 入れ替わるようにノルが入ってくる。


「……あ、ノルさん」


「あ……ロゼ、あのな?」


 そして互いに無言。

 気まずい沈黙を破るようにノルの口を開き、ロゼの声と重なった。


「ごめんなさい!」「わるかった!」


 ◇ ◇ ◇


 そのあとは、語るまでも無い話だろう。


 仲直りをしたふたりはちょっぴり味の悪いスコーンを食べて、離れていたあいだのことを語り合った。


「ほーん。じゃあ、探してくれるやつ増えたんだ。なら案外すぐに見つかるかもな」


「そうだといいんですけどね。なにせ師匠は神出鬼没なかたですから、一体どこにいるのやら」


「俺も今度トモダチに聞いてやるよ。最近仲良くなったやつがいるんだ」


 銀髪のかわいいメスなんだぜ、と自慢げに言うノルだが、モフモフなお友達に聞いても……とロゼは苦笑する。


 ユーハルドに来て早二ヶ月。

 やっと店も落ちついてきた。

 今後は師匠探しに力を注ごう。

 ロゼはぐっと拳を握った。

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