2万日の絵筆
この仕事、画家を志したのは、もう何十年も昔のことだ。
美術短大を卒業する際、一つの卒業制作として人生をかけて仕事に挑むつもりであるものを作った。
それが2万日というタイトルの絵画だ。
この絵画制作には一つの条件を自身に課した。
何があっても、これに手を入れるのは1日に1回だけ。
それも1回で絵筆1タッチだけだ。
2万日というのはおおよそ55年間にあたる日数で、それで完成させるという気が遠くなる制作だ。
いちおう開始日と終了予定日は、キャンバスの裏側に書いておいたので分かっている。
それでも心配はあるものの、春夏秋冬、子供が生まれた日も、交通事故に遭った日も、手術で入院した日も。
どんなときにも病室にもこのキャンパスを持ち込んで、できなければ病院の廊下に置かせてもらって、製作を続けることができた。
そして開始から2万日後。
その絵画は完成した。
ちなみにではあるのだが、卒業制作として作るという宣言をしたため当時の卒業制作は実はまだ未提出で保留扱いになっている。
書類上は卒業したことにはなっているが、当時の取り決めで出来上がり次第学校側に提出するようにと言われている。
これで自分も無事に胸を張って卒業したということができるだろう。