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またしても愛人の子と出会いました

大聖堂から出たリデルは、シルフィーラと先ほどの出来事を話しながら馬車へと戻っていた。



「さっきのは本当に驚いたわ、リデル」

「あれが普通じゃないんですか?」

「いいえ、私のときはあんなの無かったわよ」



どうやら大司教とシルフィーラが驚いていたのは、大聖堂の中に降り注いだ金色の粒子のことだったようだ。

彼女の話によると、あんなのは初めて見たとのこと。

それは大司教も同じなようだ。



興奮した様子のシルフィーラに、大聖堂の外で待っていたミーアが話しかけた。



「奥様、やはりリデルお嬢様は只者では無かったようですね」

「ええ、そうね。何だか嬉しいわ」

「神に選ばれし子に違いありません!」

「あら、実は私もそう思ってたのよ」



(ちょ、ちょっと待って!何でそうなるの!)



何かとんでもない方向に話が進んでいると感じたリデルは慌てて口を開いた。



「いやいやいやいや、そんなことな――」

「――まさかこんなところでお義母様と会うとはな」



二人の会話に割って入ろうとしたそのとき、突如嘲笑うような声が聞こえてきた。



「「「……?」」」



三人が声のする方に目をやると、黒い髪に青い瞳をした青年がこちらに向かってズカズカと歩いて来ていた。

そして、その腕には美しい女性がぶら下がっていた。



(……誰だろう)



青年はこちらに向かって来ているようだ。

しかし彼の視線はリデルではなく、隣にいたシルフィーラにのみ注がれていた。



「ラ、ライアス様……!」



シルフィーラとリデルの後ろを歩いていたミーアが、その青年を驚いたような顔で見た。



「ライアス様……」



シルフィーラもこの出会いは予想外だったようで、口をポカンと開けて青年を見つめている。



(ライアス様……?)



リデルは一瞬誰だか分からなかったが、ライアスと呼ばれたその人物の髪と瞳の色を見て全てを理解した。

ベルクォーツ公爵家の象徴である黒い髪に青い瞳。

彼はおそらく――



(ライアス・ベルクォーツ……マリナ様以外の愛人の子……)



ライアスがリデルとシルフィーラの前で立ち止まった。

近くで見てみると、父公爵にも負けないくらいの美形である。



(お、おっきい……!)



既に成人しているというだけあって、背はシルフィーラよりもかなり高かった。

シルフィーラをじっと見下ろしているライアスを見たミーアが、彼女を守るようにして二人の間に出た。



「ライアス様、こんなところでお会いになるとは奇遇ですね」

「ああ」



ライアスは素っ気なく返事をした。

そこでミーアがチラリと隣で彼の腕にしがみついている女性に目をやった。

シルフィーラと同じ金髪に、赤い瞳をしている美しい女性だった。

しかし、絶世の美女と名高いシルフィーラと比べるとその差は歴然だ。



「……失礼ですが、そのお方は?」

「ちょっとライアス!何、この人?無礼じゃない?」



女性は気分を害したようで、ライアスの腕を胸に抱き締めながら不満の声を上げた。



「――無礼なのは貴方のほうです」

「なッ……何ですって……?」



ミーアの反論に、女性の顔が不快そうに歪んだ。

しかし彼女は一歩も退かなかった。



「今、私の後ろにいらっしゃるお方が誰だか分かっていてそのようなことを言っているのですか?」



そこで女性はようやくシルフィーラを視界に入れた。

シルフィーラは公爵夫人なので、この国で王妃と王女の次に身分が高い女性である。

礼儀を尽くすのは当然のことだった。



しかし、シルフィーラを見た彼女はニヤリと笑った。



「ええ、知っているわ。ベルクォーツ公爵家のお飾りの妻でしょう?」

「何を……!」



女性は下卑た笑みを浮かべながら、シルフィーラを挑発するかのように言った。



(この人、お義母様に何てことを……!)



女性はシルフィーラの顔をまじまじと見つめて嘲笑うようにクスッと笑った。



「あら、その頬もしかして公爵様に殴られたの?愛されていない上に暴力まで……不憫だわ」

「……!」



シルフィーラの肩がビクリとなった。



(このー!)



リデルはシルフィーラを侮辱した女性に対して非難するような視線を送るが、彼女はそんなこと気にもせず、隣にいたライアスに同意を求めた。



「ねぇ、ライアス。貴方もそう思うでしょう?」

「……ああ、そうだな」



ライアスはシルフィーラを見てニヤリと口の端を上げた。



「父上は何故お前と離婚しないのか不思議で仕方が無いな」

「ライアス様、そのようなことを言うのはおやめください!」

「俺はただ事実を言ったまでだ。それに俺だけじゃない、貴族たち皆がそう思っている」



そのとき、ついに我慢の限界を迎えたリデルはミーアと同じくライアスの前に出た。



「い、いい加減に……!」



が、しかし――



「――二人とも、平気よ。下がって」

「お義母様……」

「奥様……」



さらに二人の前に出たのはシルフィーラだった。

シルフィーラは相手を刺激しないように、穏やかな口調で話しかけた。



「初めまして、リベリス嬢」

「あら、私のこと知っていたの?」



リベリス嬢と呼ばれたその女性は、シルフィーラの言葉を聞いて目を瞬かせた。



「ええ、リベリス侯爵家のご令嬢でしょう?舞踏会で何度か見かけたことがあるわ。ところで、貴方はライアス様とお付き合いしていらっしゃるのかしら?」

「そうよ、私はライアスの恋人なの」

「……」



ライアスはその言葉に一瞬だけ眉をピクリとさせたが、口を挟むことは無かった。

勝ち誇ったような顔をしたリベリス嬢がシルフィーラにグッと顔を近付けた。



「私が未来のベルクォーツ公爵夫人よ」



それを聞いたシルフィーラの顔が一瞬で強張った。



「……そのようなことは冗談でもおやめください」

「あら、どうして?」

「それは旦那様がお決めになられることです」



シルフィーラの言ったことは至極真っ当だった。

正式に婚約を結ぶには当主の許可が必要となってくる。

それに加えて、そもそもライアスはまだ嫡男ですらなかった。



しかし彼女は納得がいかないようで、しがみつくようにライアスに尋ねた。



「ねぇ、ライアス……そうだよね?ね?」



リベリス嬢がライアスの腰に抱き着いた。

彼はしばらくそんな彼女をじっと見つめていたが、クスッと笑うと彼女を抱き締めた。



「あぁ、そうだな。俺が愛してるのはお前だけだ」

「ライアス……」



リベリス嬢がうっとりとした目でライアスを見上げた。

そして、彼らは人の目があるのにもかかわらずそのまま口付けをした。



「わぁ……」



周囲の人々がギョッとしているのに気付いていないらしい。

完全に二人だけの世界に入り込んでいるようだ。



(この人たち、人前で何してるんだろ……恥ずかしくないのかな……)



無論、リデルたちは冷めた目でその光景を見つめていたが。



「ライアス、早く部屋に行こうよ」

「そうだな、今日もたくさん愛してやるよ」

「もう、ライアスってば」



そしてライアスとリベリス嬢は抱き合ったまま、近くにあった高級宿屋へと入って行った。

二人の姿が完全に見えなくなってから、ミーアがハァとため息をついた。



「真昼間から不快なものを見せてしまい、申し訳ありません」

「ミーアさんのせいじゃないですよ!」



詫びるミーアに、リデルは慌てて首を横に振った。

ミーアは申し訳無いというような顔をしながらも、ポツリポツリと先ほどの人物について語り始めた。



「あの方は旦那様の三番目の愛人の子供で、ライアス様と言います。公爵邸にはもう一人愛人の方が産んだ子供がいらっしゃいますが……まぁ、いずれお会いすることになるでしょう」

「あ、はい……」



リデルの読み通り、やはり彼は公爵家の腹違いの兄弟だったようだ。



「さっきの方、自身がライアス様の恋人だと自慢げにおっしゃっていましたがおそらくただの遊びでしょうね」

「遊び……?」



首をかしげるリデルに、ミーアが説明した。



「ライアス様は無類の女好きとして社交界では有名な方なのです。現に、年齢身分問わず様々な女性に手を出しています。あの女性もそのうちの一人でしょう」

「そ、そうなんですね……」



女性がライアスの恋人だと名乗ったとき、彼が一瞬だけ見せた不快感を露わにした顔はおそらくそのような意味だったのだろう。



(親子揃って女好きだなんて……悪いところが遺伝しちゃったんだなぁ……)



「まさかライアス様がここにいたとは……あの方は旦那様と同じく滅多に屋敷へは帰って来ない方ですから……」

「そうね、私も驚いたわ。ごめんなさいね、リデル」

「い、いえ……私は平気ですから」



リデルがそう返すと、シルフィーラは安心したように笑った。



「リデル、今度こそ家に帰りましょうか」

「あ、はい……」



そうしてリデルはシルフィーラと帰路についた。

帰り道で、彼女が意外なことをボソッと口にした。



「ライアス様、昔はあんな子じゃなかったのに……」

「……」



そう言ったシルフィーラの顔はどこか悲しそうだった。



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