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答えは

(す、すっごい緊張した!)



国王との謁見を終え、三人は帰りの馬車に揺られていた。

満足げな顔をして頷くオズワルドと、その隣で優しく微笑むシルフィーラ。

そんな二人とは対照的に、リデルは未だに足の震えが止まらなかった。



「久しぶりにお会いしましたが、国王陛下が元気そうで何よりでしたわ」

「ああ、あの人はまだまだ長生きするだろう」



リデルが聞いた話によると、どうやら国王陛下とオズワルドは幼い頃からの知り合いらしい。

年齢は一回り近く離れている二人だが、幼少期はまるで兄弟のように過ごしたのだという。

今回リデルに興味を抱いたのも、おそらくそれが原因とのこと。



「陛下は旦那様にとってもう一人のお兄様のような存在ですものね」

「おい、待てシルフィーラ。俺はあの人を兄だと思ったことはない」



もう一人の兄という言葉を聞いたオズワルドが顔をしかめた。



「そうは言っても、きっと陛下は旦那様のことを大切に思っていらっしゃるでしょう」

「冗談だろう?陛下が俺を?昔から嫌がらせされた記憶しか無いんだが」



うげっと嫌そうな顔をするオズワルド見て、シルフィーラがクスクス笑った。

そんな二人を見ていると、リデルの体の震えも自然と治まっていった。



(お父様とあのおじさん、仲良いんだ……)



オズワルドと長い付き合いであるシルフィーラがそんな風に言うということは本当に仲良しだったのだろう。

当の本人はそう思っていないみたいだが。



そんなことを思いながらオズワルドをじっと見つめていると、突然彼がリデルの方に目をやった。



「それよりリデル、さっきのなかなか良い答えだったぞ」

「本当にね、まだ幼いのによく出来た子だわ」

「え、あ、ありがとうございます……お父様……お義母様……」



シルフィーラも微笑みながら彼の言葉に同調した。

そこでリデルの頭に浮かんだのは、謁見の間でのことだった。









突然王にそんなことを尋ねられたリデルは考える暇も無く、パッと思い付いた言葉を並べ立てた。



「――私には、守りたいものがあります」

「ほう?」

「でも、力を持っていなければ何も守れません。権力を得ていなければ、どうしようも出来ないこともあります。だから私は、当主になって大切なものを守りたいです」



当主になって何をしたいかなんて考えたことが無かった。

しかし、国王にそれを尋ねられた際にリデルの脳裏によぎったのは出会ってすぐのシルフィーラの姿だった。

愛人の子だというのに優しい笑みを向けてくれる聖母のような人。

気付けば、自然と口が動いていた。



「……」



リデルの答えに、謁見の間が静寂に包まれた。



(し、失敗した……!)



そう思いながらおそるおそる王の方に目を向けると、王はリデルをじっと見つめていた。

その瞳には、不思議とついさっきまで見せていた鋭さは感じられなかった。



「そうか……領民を守るというのは領主として最も大事なことだからな」

「あ、は、はい……」



リデルはわけも分からずに頷いた。



(あ、あれ……何か、良かったのかな……?)



不安げに辺りをキョロキョロと見渡すリデルに、王の笑い声が謁見の間に響いた。



「ハッ、どうやら利口だという噂は本当だったようだな」



ヴォルシュタイン王は残念だとでも言わんばかりの顔でフッと笑った。



「お褒めに預かり光栄です、陛下」



オズワルドはそう言って頭を下げながらチラリとリデルを見た。

”よくやったな”とでも言わんばかりの父親のその顔に、リデルの不安感が一気に消えていった。



「――いいだろう、今回ばかりは退くことにしよう」

「……!」



それは、リデルが国王にベルクォーツ公爵家の後継者として認められたのだということを意味していた。










帰りの馬車で、リデルはオズワルドに気になっていたことを尋ねた。



「お父様、国王陛下は何故私にあのようなことを言ったのでしょうか」

「あの人は昔から意地悪な人だからな……俺もよく苛められたな……本当に何を考えているのか全く分からん」



オズワルドは苦い顔をして言った。



「旦那様は幼い頃から国王陛下に気に入られていましたものね!」

「……君にはそう見えたのか?」

「はい!」



それを聞いたオズワルドが、何か思うところがあるかのように真顔でじっとシルフィーラを見つめた。

シルフィーラはそんな彼をきょとんとした顔で見つめ返した。



「……」



オズワルドはとうとう愛らしい妻に耐えられなくなったのか、ぷいっと顔を背けた。



「……まぁ、今現在王家に数多くいる王子をベルクォーツ公爵家に婿入りさせたかったとかじゃないか」

「あ、それで……」



ヴォルシュタイン王国には王子が五人もいる。

次期国王となる王太子殿下を除いても四人もいる王子たちの最大の悩みは結婚相手である。

一人は隣国の姫との結婚が決まっていると言うが、それ以外は全員フリーだ。

だからこそ、リデルのような一人娘の高位貴族家は現在の王国では非常に重宝された。



「だから私が当主になるのを渋ってたってわけですか?」

「ああ、そうだな。だが、多分あの人は諦めないぞ。当主じゃなくてもかまわないからとリデルと王子の結婚を押し進めてくるかもしれないな」

「け、結婚……」

「結婚だなんて!リデルは誰にも渡しませんわ!」



リデルを守るようにして抱き締めながらそう言ったシルフィーラに、オズワルドが思わず声を上げて笑った。




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