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炯眼の狼  作者: 壱式 光
6/10

第6話 休息

他の獣車に乗っていた面子も一様に降り立ち、俺たちは再び顔を合わせた。


「はぁ~、やっと着いた、疲れたぁー」

「ひまはほとんど寝てただけじゃないか」

「あんなガタガタの車内で寝るのも楽じゃないんだよー?お兄ちゃんこそ、私が寝てるときにあすか姉と何かしてたんじゃないの?」

「はあ?何かってなんだよ」

「ま、まあ、2人とも落ち着いて。とりあえず皆さんご無事のようで何よりです」


 こいつらも相変わらず元気で何よりだ。


「ちょっと大丈夫?しっかりしなよ」

「ご、ごめんなさい吉澤さん。また酔いがぶり返しちゃったみたい…」

「いちいち謝んなくていいって言ったでしょ。ちょっと誰か、彼女休ませてあげてくれない?」


 気分のすぐれない星月さんに肩を貸しながら吉澤さんが訴える。

 半日もかかった長旅だ、俺も落ち着いたとは言え多少の倦怠感はまだ残っている。どこかで少し休養を取りたいのは同じだった。


 そうこうしていると、アステランや田中と共にやってきたガンダールが控えていた使用人たちに声をかける。


「何をボケっとしておる。用意してある部屋に彼女らをお連れするのじゃ」

「はっ、では皆様お一人様ずつ客室をご用意しておりますので、ご案内いたします」


「わしらは先んじて陛下にお目通りせにゃならん、そなた等はひとまず休息を取るがよかろう」

「では、皆よ。また会うとしよう」


「お二人とも、お気遣い感謝します」


 ガンダールとアステラン達は田中さんの謝意を受け取ると共にすぐさまその場を後にした。


「それでは、皆様はこちらへ」


 残った俺たちは執事っぽい装いの男に率いられ、皇宮内へと入っていった。


***


 最初に入ったホールのような場所は、まさに目を見張るような広さで、一面に豪華な装飾が施されていた。

 壁には、何枚もの巨大な肖像画が飾られており、一際大きく目を引いた。


「すっごーい、一体誰の絵なんだろう?」

「これらは、歴代の皇帝のものです。最奥にあるのが始皇帝バルドス様、それを挟むように計11代の皇帝たちが並ばれております」


 11代か、とすると現皇帝は12代目ということになるんだろうか、にしても、あれがバルドス一世か、初代皇帝というだけあって一際威厳に満ちた面持ちだ。まさに、歴戦の猛者って感じだな。


「あー、あー、んな解説は良いからよー、さっさと部屋とやらに案内しろ。不貞腐れたおっさん共の肖像画なんかに興味ねぇんだよ」


 相変わらずの声量で、曾川の尖り声が響く。


 大人しいと思っていたらこれだよ、こいつは不満意外口に出せない呪いにでもかかっているんだろうか?


 気まずい空気が流れる中、田中さんがすかさずフォローに入る。


「まあ落ち着いて下さい曾川さん、とりあえず、星月さんの容態も気になるところですしね。今は先に進みましょうか」


 呆気にとられていた使用人の男も、すぐさま気を取り戻し案内を再開した。


「では、こちらへ」


***


 随分と長い廊下や入り組んだ道を抜けて、一行は目的の場所へ到着した。


「こちらが客室の間になります」


 吹き抜けになった中央に豪華な石像が立っており、それを囲むようにいくつもの扉が見えた。


「お部屋は、お好きなところをお使いいただいて構いません。各部屋に使用人をつけておりますので、何かあれば彼らにお申し付けください」


 ”ごゆっくり”、そう言い残し執事風の男はその場を後にした。


 残された俺たちは、


「わぁ~、私真ん中行っきまーす!」

「おい、ちょっと、ひま」

「もう、2人ともおいて行かないで」


 駆けだして行った陽葵を追いかけて、晴斗と明日香はその隣部屋を抑えていった。

 まあ、予想通りの展開だ。


「とりあえず、私たちも行こうか。幸い部屋は余るくらいあるようだし、それぞれ適当なところへ入ろう」


 田中さんの呼びかけにより、残った俺たちもそれぞれ適当な部屋を目指して一旦解散ということになった。


「私と佳織はこっちの部屋にするから、あんたたちは反対側ね」


 そういって星月さんを抱えた夏樹さんは左手の部屋に向かっていった。


「まったく、そんな警戒しなくてもよくない?他の人はまだしも、僕は清廉潔白だっていうのに」


 水瀬、あんたが一番女の敵に近しいタイプだろ。

 消して口には出さないが、変わりに紳平がなだめる。


「まあまあ、今日あったばかりですし、信用されなくてもしょうがないですよ」

「君たちはそうだろうけど、僕は同僚だったんだよ?いくら何でもあんまりじゃないか」


 むしろその関係で信用されてないことが、あんたが黒である何よりの証拠じゃないのか。


「ひとまずは吉澤さんの言う通りにしよう。信頼関係はこれから築いていけば良いさ」


 田中さんはそういうが、う~ん、女性と信頼関係か…。まあ、俺には縁遠い話だよな。そもそも、生まれてこの方友人と言えるような関係にさえも無縁な人生だったし。


「そうですよ!僕も皆さんと仲良くなりたいですしね!」


 紳平の野郎、お前仲間じゃなかったのか。これだから、オタクの皮をかぶった陽キャは信用ならない。


「そうそう、じゃあ、行こうか!」


 なぜか盛り上がってる田中さんと紳平、いまいち割り切れない様子の水瀬と煮え切らない俺、そして、立ったまま貧乏ゆすりをするという高度な感情表現で今にもイライラが爆発しそうな様子の曾川。

 残された俺たち一行は、吉澤さんの言うとおりに吹き抜けを挟んで彼女たちとは反対の方向へ向かった。

 

「それじゃ、私はここで」

「はい!おつかれさまでした」

「おつかれー」


「おつかれさまです」


 それぞれ適当な部屋を見繕って入っていく中、つたない返事を返しながら俺も空いた部屋を見つけた。

 中に入ろうとドアノブに手をかけたその時、


「おい、そこは俺の部屋だ」


 曾川の野太い声がかかる。


 俺の部屋、だと?勝手な物言いもいいところだ、誰の部屋かなど決まっていない。しいて言うなら、先に手をかけた時点でもうすでに”俺”の部屋であると言ってもいいくらいだ。


「空いた部屋は、他にもありますよ」


「知るか、俺は元々この部屋と決めてた。わかったらとっととどけ」


 あまりにも身勝手な物言いすぎる。このおっさん、どういう育ち方したら、他人に対してここまで横暴になれるんだ?

 

「なんか文句あるか」


文句ありまくりだボケ!だが、


「わ、わかりました、どうぞ」


 俺にはどうすることもできない。妥協するだけで回避できる危険は極力回避するに限る。それが賢い生き方なんだ。


「おい、お前」

「え、はい」


「ぐぁっ」


 鈍い音と共に衝撃が襲った。一瞬にして視界がくらみ、俺は地に伏せた。

 どうやら殴られたようだ。


 くっ、親父にもぶたれたことないのに!


 頬は熱くなり、ズキズキと痛みが広がっていくのがわかる。


 くそっ、なんなんだよ!

 

「目つきが気に入らねぇ」


 そう吐き捨てながら、曾川は部屋へ入っていった。

 

 ったく、そんな勝手な理由で人を一方的に殴りつけるとか頭おかしいんじゃねえか?

 こっちの世界に来てから散々な目にばっかり合う。


 はー、もううんざりだ。


 俺は、一番端に空いている部屋を見つけて、そこに入ることにした。


 ガチャ


***


「贅沢なもんだな」


 部屋の中は、客室というだけあって、見ただけで一級品とわかるほど豪華な内装だった。中央に置かれた天蓋カーテン付きの豪華なダブルベットは特に目を引いて存在感を放っており、周囲に置かれた家具もどれも高そうなものばかりだ。

 本来は、他国の王族、貴族などの賓客向けに作られたものなのだろう。そんなものをわざわざ俺たちのために使わせてくれるとは随分と太っ腹なもんだ。

 いや、それだけ俺たちに対して何か期待しているということか。ふむ、変な要求着きつかられなければいいんだがな。


「しょっと」


 俺は気が抜けたように、ベットに勢いよく寝転がった。


「あ~、やわらけ~」


 全身を包み込む柔らかい感触に、体の緊張や疲れが抜けていく。

生来、敷布団一筋だが、なるほど、ベットというのも悪くないもんだ。


 はぁ~、もう動きたくない。


 起き上がる気力もなく、俺はそのまま意識を手放した。



◇◇◇


 同刻、皇宮内―玉座の間。


 透き通るシャンデリアに照らされるのは、黄金と豪華な彫刻に彩られた空間であった。床には長く伸びた深紅の絨毯が敷かれ、2人の男が跪いていた。

 深く頭を下げ忠誠の姿勢を向けるその先は、玉座である。背もたれが異様に高く伸びた黄金の玉座。そこに腰掛けるのは、切りそろえられた黒い髭が特徴の初老の男だった。黒と金を基調とし、細かい装飾の施された裾の長いジャケットのような服装に身を包み、肩からからは幅の広いマントが体を覆っている。頭には、翼のようなものに形取られた漆黒の王冠が収まり、それは絶えず鈍い輝きを放っていた。

 そう、彼こそがこのガルデルシア帝国を収める男、時の皇帝、オルダイン・デラ・ガルデルシアその人である。


 ついていた肘を正しながら、皇帝は口を開いた。


「面を上げよ」


 下ろしていた顔を上げ、二人は皇帝の方を見つめる。


「ガンダール、そしてアステランよ。よくぞ戻った、ご苦労だったな。楽にしてよい」


 立ち上がった二人は、改めて皇帝に向き直る。


「さて、成果を聞こうか」


「はい、我らは陛下のご命令通り、かの導の塔へ向かい、召喚されたという異世界人達を無事お連れしてまいりました」

「そうか、それは安心したぞ。アステラン、お主を向かわせたのは間違いではなかったようだな」

「はっ、身に余るお言葉であります。大変光栄ではありますが、実は少々誤算もありまして、そのことについてお伝えしなければならないことが…」

「誤算だと?どういうことだ」


 長く垂れ下がった髭を手で撫で、少し考え込む仕草をしながらガンダールが口を開く。


「陛下、それにつきましてはわしからお答えいたしますじゃ」

「ガンダール、もう敬語は良いぞ、普段通り話せ」


 ガンダールは、一呼吸置き、小さな咳ばらいをしながら続ける。


「おっほん、ではそうさせてもらおうかのう。実は召喚された異世界人じゃが、前回に比べ数が少なく、確認されたのが10名のみだったのじゃ。年齢も随分ばらつきがあり、記録にない装いの者も何名かおった」

「なんだと?――おかしいな、かつての半数どころか三分の一にも満たないではないか。どうなっている、原因はわかっているのか」

「残念じゃが、原因まではわかっとらんのう。前例も少ない上、あの召喚陣については起動方法以外ほとんど未解明じゃからな」


 皇帝は、静かに瞳を閉じながらしばらく考え込んだ。そして、再びひじ掛けに体を預けながら口を開く。


「まあ、仕方が無かろう。召喚自体300年ぶりのことだ。召喚が失敗する恐れもあったと考えれば、10人でも成功しただけで十分だといえよう。それに、私にとって人数などは然したる問題ではない」




「陛下、加えて伝えておきたいのじゃが、実はとある異世界人とした約束について、折り入って頼みたいことがあってのう」

「ほう、あのガンダールがこの私に頼みとな、珍しいこともあるものだな。それに、私をおいて異世界人と約束事とは気の置けぬ奴だ、ははは」

「あの場では彼らに同行してもらうために仕方なかったんじゃ、それに、陛下にはいくつか貸があった記憶しておるが、そろそろ返してもらっても良いのじゃよ?わしもあまり長くないのでな、ほほほほ」

「ふむ、そう言われては何も言い返せないではないか。まあ、良い、前向きに聞いてやるとしよう。あとで私室に来るがよい」

「ほほほ、感謝いたしますぞ」


 僅かに和らいだ目で、皇帝はガンダールを見つめた。


「では、他に報告はないか?」

「――よろしいでしょうか?」

「ふむ、良い、なんだアステラン」


 アステランは、さっきまでのにこやかな雰囲気とは一変して、真剣な眼差しで皇帝を見つめていた。


「はっ、今になり彼ら異世界人を召喚なさった理由を教えていただきたいのです。始皇帝以来、暗黙の裡に歴代の皇帝方が行わなかった異世界召喚をなぜ決行なさったのですか?」


 皇帝は、アステランの真剣な瞳を正面から見据え、ゆっくりと口を開く。


「理由か、まあ、後に分かることだろうが、一言でいえば、そうだな――この国と、私たちの未来のためだ」


 皇帝はそう言いながら、アステランに向けて僅かに微笑んだ。



◇◇◇



 チュン、チュンチュン


 小鳥の差いえずりと共に、窓から朝日が部屋に差し込んでいる。


「ん~、ZZZZZZZZZZ……」


 コンコンッ、コンコンッ


 整然とした部屋に似つかわしくない小さないびきをかき消すように、扉をノックする音が甲高く響いた。


「う~、んっ、はっ!今何時だ!」


 慌てて起き上がり部屋を見渡すが、どこにも時計は見当たらず見慣れない光景だけがそこにあった。


「あ、そうだった、ここ異世界なんだっけ」


 コンコンッ、コンコンッ


 意識が覚醒してきて、扉の向こうからノック音が聞こえることに気がついた。


 コンコンコンコンッ


 はあ、うるさいな、誰だよこんな朝っぱらから――紳平の奴か?


「はいはい、今開けるよ」


 ガチャ


 扉を開けたその先にいたのは――知らない女だった。


「失礼いたします。専属侍女のリディアと申します。よろしくお願いします」

「え、ああ、よろしく、お願いします」


 メイド服に身を包んだ彼女は、ロングの赤毛に透き通った青い瞳が特徴の美少女だった。それはもう、あの美咲や天野妹にも負けないくらいの可憐な美少女だ。

 

 いったい、なにがどうなっているんだ。

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