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絡まれフェネックは溶かす 3

 



 アッシュグレイの髪から覗く、同じ色の耳。

 ピンと立ったそれが、ときおりぱたぱたと動いてはあたりの様子を探っていた。

 同じように耳を使っていたレイシュには、それが警戒はしていても、敵意のある動きではないと解っていたので、ラルフと名乗った獣人――別に変身が下手なわけではなかった――を怖いとは、まったく思わなかった。

 同じように先ほど背後を覗き込んでグラニを見た時、弓と矢筒の下、目に入ったふさふさの尻尾がまっすぐに立っているのを見て、何をそんなに警戒しているのかと首をひねる。

 グレンの持っている剣を欲しがったことも、代わりにレイシュを抱っこしたこともよくわからないけれど。

 もしかしたら、グレンが怖いのかもしれない。

 体も大きいし、片方だけの眼はいっつも睨んでるみたいだから、怒られないか心配しているのかも。

 そう余計な気を回したこともあり、レイシュはいつもより饒舌だった。

 自分やグレンのこと、ケートスやグラニ、黒馬のこと。

 話していると、だんだんラルフの耳から力が抜けてくるのが解った。ふにゃ、と後に倒れかけて、あわててまたぴんと立てるのが面白い。

 重い口がようやく開くようになったラルフとの話によると、出会った場所から村までは3,4時間といった距離らしい。

 でもそれは、オオカミの獣人だというラルフが走った場合のこと。


「この調子でちんたら歩いてたら、あっという間に夜になっちまうよ」


 思わず空を見上げる。

 ラルフと会う少し前にお昼を食べたばかりだから、おひさまはほぼ真上にあった。


「えー、じゃあ、クマちゃんにはしってもらったらー?」

「それだと、俺も走ることになってお前たちを見張ることが出来ないだろ」

「なんでみはるの?」

「な、なんでって……お前たちが変な事、しないようにだよ!」

「へんなことー?」

「っ、もう、いいだろ! とにかくよけいな事言うなよな!」

「んー…。あ! じゃあ、あのね、グラちゃんに、のったらいーよ!」

「はぁっ?」


 色を変える魔道具を使う前のレイシュと似たような、濃い金色の瞳が丸くなる。

 背後で尻尾がぶおんと振られた。


「だって、クマちゃんがはしったら速いでしょー。グラちゃんも速いんだよ! グレンがいってたもん。それに、じゅうじんは、すぐにおうまさんに乗れちゃうんでしょ?」


 良い事を考えた! と顔を輝かせたレイシュの弾んだ声に、前を進むグレンが肩を揺らして笑っているとも知らず、レイシュはそのままの勢いでラルフの肩口からグラニをのぞき込む。


「ねーグラちゃん、ラルフがね、のってくれるって!」

「……は? ちょ、おい、」

「ブルルルルッ」

「えー、いやなの? ……でも、そしたらぼくも、一緒にのれるのに……」

「ヒヒンッ?」

「そうだよー。だって、ラルフ、ぼくをだっこしたままでしょ? だからね、ぼくものれるんだよ!」

「……ヒンッ?」

「だってグレンは、ぼくとー、ケーちゃんも一緒にのってだいじょぶなんだよ。ぼくだけならかんたんだよ」

「ヒヒーンッ!」

「はぁ?! おいっ!勝手に決めんな!」

「できないの?」

「あぁっ?!」


 とうとう声を抑えられずに笑い出したグレンに、気を取られたレイシュがそちらを見ようとした時、ぐいっと脇の下に手が入れられた。

 そのまま、ぽすんとグラニの上に乗せられる。

 抱かれていた時と視界の高さはさほど変わらないけれど、目の前に柔らかく波打つ濃紺のたてがみが現れた。

 鞍のついていない背中は、あたたかくて、ちょっとぼこぼこしている。

 間を置かずにその後ろへラルフが騎乗した。

 グレンよりも細いしなやかな腕がレイシュの腹をしっかりと抱え込み、次いで長く伸びているたてがみを手の平にぐるっと回して握り込んだ。


「出来るに決まってんだろ! ……おい馬、解ってんだろうな、おかしな動きしやがったら、お前の主人が頭から落ちるんだからな」

「ブルルルッ! フシュッ!」

「おい、ガキ」

「ぼく、レイシュだよ」

「……レイシュ、たてがみをしっかり握っておけ。離すなよ」

「うん! あ、グラちゃん、いたくなぁい?」

「ヒヒンッ」

「えへへ、じゃあ、しゅっぱつねー!」

「ッヒヒーン!」

「……お前が言うなよ……おいっ、グレンダルク!馬を走らせろ!最速だ」

「クックック……、はいよ。おいレイシュ、落ちるなよ」

「はぁい!」


 最初は緩やかに、そして前を走る黒馬を追うようにだんだんと加速していくグラニの背の上で、レイシュは歓声を上げた。

 景色がどんどん背後へと流れていく。

 グレンがレイシュを乗せて黒馬を進ませるときは、ここまでスピードを出したことは無かったのだ。

 蹄と地面の当たる衝撃も無く、するすると進む。

 思わずグラニの首をわしゃわしゃと撫でた。


「すごい! グラちゃん、速くはしっても、ぜんぜんゆれないね! すっごいね!」

「ブルルルルッ」

「おい馬鹿ッ、たてがみを離すなっつってんだろ!」


 ラルフの拘束がきつくなった。






17時と19時の投稿、遅れます。すいません

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