手探りフェネックは試す 5.5 side ???
「なかなかうまくいかないな……」
「ドゥーベの子供に、それらしき情報は聞けたのですが……手詰まりですね」
「なんとか誘拐された子供の情報を追ってズィッタまで来たは良いが、聖魔法など知らないと突っぱねられたからな」
「辺境伯に面談が出来なかったのが痛いですね」
ズィッタの街のとある酒場で。
冒険者風の汚れたマントに身を包んだ3人が、まわりの賑やかな食事風景に紛れるようにして、酒瓶を持ち上げながら静かに言葉を交わしていた。
誰も彼も伸び放題の無精ひげに、括られただけのぼさぼさの髪。腰に帯びた剣は使い込まれており、冒険者風、というよりもそのものだ。
実際に彼らもそう見えるように振る舞ってはいるので、間違いでもないのだが。
「『天使様が僕を治してくれた』、か……。どう思う?」
「まさか、探していた聖人様が、子供だとは……しかし、それほど幼くして回復術が使い熟せているとなると……。もしただの聖属性持ちだったとしても、神殿で保護する対象です。探しておいて損は無い」
「だが、ファッジでは子連れの情報など無かったがなぁ……」
酒を口に運びながら、年かさの男が口を挟む。
「そもそも魔の森にいた冒険者に関しても、受けた依頼とその後の裏付けは取れている。すでにファッジの街を発っており足取りが掴めなったのは、グレンダルク・ハワード位だが……」
「一匹狼の『英雄』ですね。しかし彼の放浪癖は昔かららしいですし。戦場にいたような人間でもなければ、彼を知らなくてもしょうがないですからね」
「冒険者ギルドでも一部では有名だぞ。公表しないからあまり知られていないが、氷山に住む巨人を倒しただの人喰いヴリトラを討っただの、殺した龍を数えればきりが無いらしい」
「まぁ、彼が赤毛の子連れで旅をしているなんて噂も聞かないしな。放っておいていいだろう」
黒い森の手掛かりを頼りにファッジの街のギルドで聞き込みをし、怪しいと睨んだ冒険者の精査をしながら、次に行くならドゥーベだろうと向かった3人。
そこで、街の神殿で、とある話を耳にしたのだ。
子供が消えている。
親や、その知り合いが、神殿に来て不安を話すのだと言う。
このドゥーベの街でも1人、最近いなくなった子供がいるらしい。
泣き崩れた母親が哀れだったと、神殿に訪れた者が言っていたそうだ。
子供が居なくなる原因で最も多いのが人攫いだ。容姿の優れた者や能力のある子供を聞きつけ、売りつけるために攫う。
聖人様のなりがさっぱりなため、どんなことでもいいからと、ドゥーベに留まりその情報の裏取りを進めていた時だ。
神殿からまた、子供達が領主によって助けられたとの話が届けられた。
嘘か本当か知らないが、領主の子供本人がその場にいて、悪党共を捕縛するために尽力したとかなんとか。
決着がついたのなら、そしてその場に連れ去られていた者が子供しかいなかったと言うから、捜査は打ち切りでいいかと判断を下そうとしたのだ。
けれど、帰って来た子供が、神殿で祈る際に『天使様に会った』と言っていたらしい。
どうにもその言葉が気になり、3人のうちで最も若い男に、神殿の使いだと言って話を聞きに行かせたのだが。
散々に渋られたあげく、ようやくポツリと零したのが、『天使様が僕を治してくれた』との一言だけだったという。
宥めても若干の脅しをしても、頑としてそれ以上は話さなかった上に、領軍を呼ばれかけてしまい退散せざるを得なかったと頭を下げた若い男に、それはそれで有力な情報だったと宥めたのが10日ほど前の話だ。
これはもう、一緒に捕まったと言う領主の子息に話を聞こうと働きかけたのだが、不祥事だからと口をつぐまれ、かといってこちらが情報を集めている意図を晒すことも出来ないため、辺境伯家に対して無理強いも出来ずで、しょうがなく他に攫われた子供を訪ねて回っている所なのだ。
ズィッタの街に着きもう一人の誘拐されていたという少年に話を聞いたが、そこでも大した情報は得られなかった。
かろうじて、その領主の子息と行動を共にしていた子供が、まだほんの5歳ほどだったという事、赤髪に緑眼の美しい容姿だった事などを聞けたぐらいで、癒しの力があることなど知らないようだった。
同じく誘拐されていた子供相手でも、ドゥーベの子供は口を食んでいたという事だ。
「これでは、スーサの町出身だと言う姉妹の話もたかが知れているな……まぁ、一応確認に行くしかないが」
「はぁ、それしか無いな。……あーあ、やめだやめ、せっかく酒場にいるのに、落ち込む話ばかりで酒が不味くなっちまう。せっかくズィッタの港町に来たっていうのに、美味い酒を飲まないでどうするんだ! おい、追加の酒を頼もうじゃないか」
「そうですね、たまにはいいでしょう。……そう言えば、イーデの村で画期的な農法が編み出されたとか何とか、酒場の店主が言っていましたよ。あのキャンベル商会が、これから葡萄酒の収穫量が上がる見込みだからと、酒類を大放出していたとほくほくしていました」
「おお! あそこの村のは量が取れない割に美味いからなぁ。それが増えるっていうのなら大歓迎だ。キャンベル商会も思い切った事をしたな」
「親族の農家が主体の農法らしいですからね。それを広める為もあるんでしょう。さすがに大商会はやることが豪快ですね」
「そうだな。……じゃあ、今日は思い切り飲むか! スーサに向かう為に明日はまたドゥーベに逆戻りだからな。ここらで英気を養わねばやってられん」
神妙な空気を霧散させて、ようやくまわりの空気に同調したように燥ぐ3人は、まだ知らなかった。
その足跡が、目指す人物と交差するための道より、今一歩のところで遠ざかったのだという事を。




