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手探りフェネックは試す 3 side G

 


「……む、」


 ピチチチ、と鳥の鳴く声がする。

 テントの布地の隙間から、細く伸びる明るい日差しが寝床まで届いていた。

 うっすらと目を開けたグレンは、ゆっくりと上半身を起こして、額にかかる伸びかけの前髪を掻き上げた。

 朝、自分の胸あたりに引っ付いている小さな毛玉を潰さないように起きる状況にも、いい加減慣れたものだ。

 たまに足元にいる円筒形を気付かず蹴ることもあるが、別に故意ではない。

 一人旅が多かったためにどんな時でも寝起きは良いし、そもそも短い睡眠で体力を回復するすべを身に着けているから、グレンは多少の日数を寝ずに過ごしても問題は無かった。


「でも、こいつがくっついてると、良く寝ちまうんだよな……」

『フキュー……ぷす、ぷすー……』


 起き上がったことでずり下がり、腹まで落ちてきた幼獣の柔らかな背中を撫でる。寝ぐせがついていても可愛い。

 最初は幼獣を寝かしつけてから起きることもあったが、今では一緒になって、夜が来たら寝て朝日と共に起きるという、健康極まりない生活に変えられていた。


「まぁ、昨日は遅くまで喋っちまったからな。まだ起きないか」


 服の前身ごろを咥え込んでいる、小作りな口を開けてやりそっと服を外す。

 その際に触った小さな牙は以外にも鋭く、たまにこうして服に穴を開けられることもあるが、軽微な被害なのでグレンは特に気にしたことも無い。


「……ありがとな」


 未だほんのりと熱を持っている胸元は、レイシュが乗っていたせいだけではなく、眠りに落ちる前に施された癒しの力のおかげだろうか。

 体をじんわり取り巻く優しい力に、守られている気がした。

 ぷうぷうと鼻を鳴らして気の抜けた顔で寝ている幼獣の、白く暖かな毛並みを一撫でしてからぬくまった敷布に優しく下ろし、グレンは朝の支度にとりかかった。




 ◇




「グレンおはよ! おなかすいたぁ! いいにおい!」

≪おはようございます≫

「おはよう。もう食えるぞ。そいつ連れてあっちで顔洗ってこい」

「はぁい! ダーちゃんケーちゃん、川まできょうそうねっ」

≪応っ≫

『キュオーッ!』


 魔道具と魔物と一応神属の括りの奴らが、わちゃわちゃと仲良く駆けていく。一部飛んでいるが。

 グレンは手元の皿に焼けた肉を置いた。

 寄る先々で食い物を寄こされるため、野営の時の食事も豪華なものである。

 主にレイシュ用という名目で渡される食材なのだが、そこまで食う量が多いわけでもない幼子の代わりに、グレンと、大食いが発覚したケートスの腹へと消えている。


「ただいまぁ! えへへ、ダーちゃんにまけちゃったぁ」

「まぁ、飛ぶのは詐欺だよな」

≪種の優位性です≫

『グルォッ』


 力が強くなっているレイシュから魔力を譲渡されているせいか、最近の魔道具の話しぶりは滑らかだ。

 堅苦しいのは変わらないが、単語の羅列みたいなものから、ちゃんとした会話、になってきている。

 魔道具も進化するのだろうか?神サマはしきがみ、と言っていたが。

 とはいえ。


「多分、何事も無ければ今日の夕方頃にはスーサの町に着く。食事だけして、宿に泊まって、観光は明日だな。天気が良ければいいが」

≪スーサ周辺の明日の降水確率は10%、比較的穏やかな晴れ間が続くでしょう。このあたりの山道は、所により弱い雨が降るでしょう≫

「……そうか」

「だーちゃんすごいねぇ! てんきよほーしさん、みたい!」


 一事が万事この調子である。

 便利と言えば便利だが、これだからこいつは人前には出せないのだ。

 もちろん大きさ的にも無理だが。


「じゃあ、天気がいいうちに出発するか」

「はぁーい」


 食い終わった皿やカップを川で洗い終わり、戻ってきたレイシュがいそいそとケートスを背負い紐に包んで、腹の前に抱えている。

 ハムッサで会った時点よりも確実に膨張しているが、暴れる魔魚にも破れない仕様の背負い紐は、なんの問題もない、とばかりに円筒形の体を包み込んでいた。

 グレンがテントを片付けていると、どこかに消えていた青毛が戻ってくる。食事でもしていたのだろう。


「ヒヒンッ」

「おう、今日もよろしく頼むぞ」

「あっ、クマちゃん、よろしくねー」

「ブルル」


 先にレイシュを馬上に押し上げてから、その背後に騎乗する。

 もう少し行けば後は下り坂になる。きちんとした道は無いが、体高がある馬だから見晴らしも悪くはない。

 それでも最低限の警戒は保ったままで、グレンは手綱を引いたのだった。







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