雇われフェネックは見舞う 3
「それでね、グレンがね、おふねをぐーってひっぱってね、」
「そうかいそうかい。グレンは力持ちだからねぇ。ここで面倒見てやった時も、満タンに詰まった葡萄樽を5つも担いでたよ」
「えー! グレンすごい! みたぁい!」
『クルァッ』
カーテンを開けて明るくなった寝室には、グレンによってエントランスからテーブルが持ち込まれている。
レイシュはヒヨコリュックから取り出した日本製のお菓子を並べ、ドナが入れてくれたお茶とお話を楽しんでいた。
膝の上のケーちゃんも、しっかりと1人分のお菓子をよそられて、ご機嫌で食べている。
家に入った最初はコップが飛んできてびっくりしたけど、挨拶をしたらとても優しいおばあちゃんだったから、レイシュはすぐに仲良くなることが出来た。
白くなった髪を三つ編みにまとめていて、どことなくさちばぁを思い出したせいかもしれない。
茶色のくりくりした瞳が、興味津々といった様子でレイシュの話を聞いてくれるのも嬉しい。
ちなみに今グレンは、一人外に出て、生い茂った林の木を伐採している。
途中までは畑の小屋に置かれていた斧を使っていたけれど、面倒だからと、手持ちの大剣を振ろうとしてドナさんに「林を失くす気かい!」と怒られていた。
「あれだけ綺麗に刈ってくれたら、来年は楽だねぇ」
「らいねんなのー?」
「ん? ……ああ。さっきもグレンに言ったけどね、私が腰を駄目にしちまってねぇ。畑の手入れが出来てないんだよ。甥っ子たちが来るまでには1週間ほどあるがね、今年は木が茂っちまったから、日の当たりも足りてないし……実も色が足りてないんだ。美味いものが育てられなきゃ、商品にはしないのさ。買ってくれる人がガッカリしちまうからね。それなら今年は諦めた方がいい」
「……グレンもね、ここのおさけ、おいしいっていってたの。かじつ水のもともね、買ってくれるって」
「ふふふ、嬉しい事を言ってくれるよ。確かにあの2人が転がり込んだ時は、確かに毎日のように樽が空いてたねぇ。今でも、ヒューゴは定期的に仕入れてくれてるし、グレンも寄った時には畑仕事を手伝ってくれるのさ」
「ヒューゴ、しってるの?」
「おや、知っているも何も、10年ほど前かね、ほとんど行き倒れみたくして2人揃って転がり込んできたんだよ。こき使ってやったがねぇ」
「いきだおれ!」
「そうさね。今じゃいっぱしな顔してるけど、ふふ、とんでもない奴らなんだよ。じっと寝てるのも飽きたから、泊まっている間、色々教えてあげようかねぇ」
「グレンとヒューゴのこと、ききたい!」
「いいともさ。……はぁ。寝込んじまって、つい暗くなっちまってたけど……あんた達みたいな良い子達と出会いがあったんだから、良しとしなきゃね」
毛布から起き上がり、カップにお茶を足してくれるドナを見て、レイシュはもじもじしながら口を開いた。
「……ドナおばーちゃん、あのね、ぼくも、おてつだいするよ。だからことしもね、おさけ、つくろうよ!」
『クルォーッ!』
「あ、ケーちゃんも、てつだってくれるって!」
「あらまぁ、ありがとうねぇ。……でもね、畑を整えても、お日様が当たる時間も足りなかったし、醸造に間に合わないんだよ。……気持ちだけは、喜んでもらっておくよ。ありがとうねぇ。」
笑顔だけど、少しばかり寂し気な顔でそう言われ、レイシュはガタリと椅子から飛び降りた。
思い付いたら即実行なのは相変わらずである。
「だいじょぶだよ! まかせて! ケーちゃん、いこっ!」
『グルァッ!』
「えっ、なんだい急に……っあ、いたたたッ」
力の入った声で賛同するケーちゃんを小脇に抱え、葡萄の生い茂る畑に向かって、レイシュは軽やかに走り出した。
一人ベッドに取り残されて唖然としているドナの事など、すでにお空の向こうである。
◇
「ケーちゃん、あったかいひかり、出してー!」
『グルォオオオッ!』
葡萄畑の畝の真ん中に立ち止まり、レイシュは両手を上げて声を張り上げた。
ケートスも同調して雄たけびを上げる。
普通の声でも聞こえるけれど、気分だ。気合が大事である。
『クァックァックァッ!』
「おおぉー」
パタンパタンと大きな前足が上下するたびに、ポポポ……と手のひら大の光の玉が現れて、畑の上空を柔らかな黄色い光が満たしていく。ふわりと暖かい空気が頬を撫でた。
陰っていたせいで元気の無かった葉が、心なしか上向きになっていくようだった。
「つぎは、ぼくねっ! ぶどうさん、おいしくなってー!」
ケートスが出した光の玉の間を、ぽわっとした小さな白い光が満たしていく。
果実や葉に当たり、溶けるように吸い込まれていった光によって、一瞬表面がほんのりと輝いた。
「ケーちゃん、ひかり、出していられる?がんばれる?」
『キュィー!』
「よかった! きれいにいろがつくといいね!」
満足げに微笑みあっていると、ばたり、とドアの開く音がした。
玄関に手をついて、明るく照らされている畑を見て、目を丸く見開いている。
曲がり気味の腰が痛そうで、レイシュは慌てて走っていき、よしよし、と撫でてあげた。
ほんの少しだけ、力を送りながら。
「こりゃぁ……いったい、どうしちまったんだい……畑が……」
「あっ! ドナおばーちゃん! ぼくたちね、明日もおてつだいするよ! ケーちゃんがおひさまの代わりに、いっぱい、おいしくなるまでてらしてくれるよ!」
「あんた達……」
言葉を失くし、唖然とした顔を向けてくるドナに、レイシュはニパッとご機嫌な笑顔を向けたのだった。
物凄く適当な葡萄育成です




