ずぶ濡れフェネックは見つける 8 side G
ヒューゴから鳥と前後して荷物が届いた。
文書のやり取りと違い、荷物に関しては、飛行の出来る魔物や魔獣を使役している者が、登録制の飛送便ギルドで荷運びを受け持つようになっている。
大きさや届ける日数によって料金が変わるが、破損や紛失への補償もあり、運搬員側も荷物の転売などが出来ないように、ギルドで引き受けと完了を魔道具で確認を取るなどの対策もしているため、安全性が高い。
「お、これが個人同士で鳥が送れる魔道具か。意外と小さいな」
両手のひらに乗る大きさで、箱型の蓋を開けて魔石をはめ込む形になっている。
鳥は風魔術が組み込まれているから、あとでレイシュと買いに行こう。
「手紙は……なんだ、あのガキに魔術を教えることになったのか。レイシュに僅かでも繋がっていてぇんだろうなぁ。いじましい奴。あん? 馬が辺境伯のところの軍馬? 通りで良い馬なはずだな。ケートスは……船以上……島だと? ……レイシュに魔石を与えるなと言うべきか」
白光貝の魔石は無理でも、光の魔石ならその辺で安く売っている。
好物を我慢するかわりだと、つい昨日も大量に買いこんで与えている姿を見たばかりである。
レイシュは、こと食に関しては妙に煩いのだ。
こころなしかケートスの形が、ここ数日で最初に会った時よりも丸くなっているような気もするから危険だ。
色々な情報が書かれている中に、気になることもあった。
伯爵がレイシュに興味を示していることと、グレンと入れ違いでアーレンから届いたという鳥の内容についてだ。
伯爵に関しては、息子が気にしている相手を見たいらしい事のほか、どうやら黒チビの存在を精霊と勘違いしているようで、精霊を従えている貴重な子供、という目で見ているらしい。
ただ、同時に精霊を怒らせてはまずいという認識もあるために、ヒューゴに無理強いをしてこないというのは救いだった。
アーレンの鳥には、神殿騎士が何か――誰かを探して動いているようだとの報告が書かれていたらしい。
グレン達がファッジの街を出てからさほどの間をおかずに魔の森へと入って行った彼らは、ギルドに戻ってから、最近森へ出入りした者についてを聞きまわっていたという。
その中でグレンの名も出たが、同行者はいないという事で、彼らの目的からは外れるだろうが、一応注意してうごけと警告があった。
「神殿騎士か……。緑竜ならまだしも、白竜以上が動いているとなると厄介だな。下手にぶつかると投獄されちまうし」
ドゥーベの街での誘拐事件に関しては、国境警備の奴らが関わっている可能性があるとして、伯爵が抑えにかかるだろうというのがヒューゴの見立てだ。
確かに、国境にいるのは国の兵だ。人身売買に手を貸していたなんて事が明るみに出れば大事になる。
秘密裏に処理を進めるだろうが、攫われた子供やその親たちから漏れることもある。どこまで隠しておけるかは今一つ不明だ。
遅かれ早かれ神殿の耳にも届くと思っていいだろう。流石にそこからすぐにグレンへと繋がりはしないと思うが、レイシュに関しては、注意をしておいてし過ぎるという事もない。
神殿がどういうつもりで人探しをしているのか探るまでは、目立たない行動を心がけるよう、レイシュにしっかりと言い聞かせねば。
……すでに目立っている気もするが。
◇
「へぇー! あの小島にこんなのがいたのかい! 長年ここで宿をしてるけど、見たことも聞いたことも無いよ。ほら、おまえ、貝が好きなんだって? これも食べてみな」
『クルォ―ッ』
「ここのごはん、おいしいんだよ! ケーちゃんもいっぱいたべてね!」
「あらまぁ、レイちゃんも嬉しい事言ってくれるねぇ! これはね、旦那がレイちゃんの為に作っておいたんだよ、甘いものが好きなんだって? ほら、デザートだよ!」
「うわぁ! おいしそう! おかみさん、だんなさん、ありがとぉ!」
「あー! もう、可愛いんだから! ほら、2人とも、沢山食べな!」
「いただきまーす!」
『キュアーッ』
相変わらずグレン達が食堂に行くと、いそいそと寄ってくる女将が、今日も今日とて同じテーブルに陣取って、あれやこれやと注文外の皿を置いていく。
ここ数日は、ケートスを抱えて町を歩くレイシュの姿を見た奴らが、その組み合わせを愛でたいが為にこの宿に用もなく訪れることが増えているらしく、仕事の邪魔だと女将に一喝されるという出来事があった。
諦めきれなかった奴らが言い出したのが、食堂で食事を取る、という折衷案だ。
昼はグレンと町をうろついたり、海に出ていることが多いが、朝食と夜食はたいがい宿屋で取っている。そこで、その時間だけなら、しかも必ず料理を頼むなら宿に来てもいい、ということで許可が出たのだった。
もちろん、グレン達に迷惑をかけたり、レイシュが嫌がったら即座に女将が叩き出すと太鼓判を押していた。
とはいえ、厳つい漁師の誰もかれもが、子供と幼獣の愛らしい戯れを見て目じりを下げているだけで、これと言って害は無いから、グレンも好きにさせていた。
かなり暑苦しいが。
レイシュにしても、海の話や漁のやり方、魔物への対処法などを楽しそうに聴いている。
もともと可愛がってもらうことが好きな甘ったれなので、需要と供給が上手い事嚙み合ってはいるのだ。グレン的には若干面白くは無いが。
「レイシュ、後でギルドに行く前に買い物に行くか。魔石を見に行こう」
「ませきのおかいもの!? いきたいっ!」
『クァーッ』
デザートに舌鼓をうっていた子供に話しかければ、即座に満面の笑みが返される。
グレンの腹の中に浮かんだ靄は、一瞬できれいさっぱり消え去ったのだった。




