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拾われフェネックは学ぶ 3

 


「じゃあ、手始めにこの花を元気にしてみるか」

「うん!」


 昨日のうちに鎮守の杜から引っこ抜いてきて、軒下に置いていた数輪の花を目の前に、大小2つの人影が並んで座っていた。今日は外での勉強会だ。

 後ろ脚だけで立って動くことも、言葉を使って長くしゃべることにもだいぶ慣れてきたから、これからは()()()だけではなくて()()()も取り入れていこうと、ダーカが言ったのだ。

 昼ご飯を食べた後の、お日様が一番高いところに来ている時間帯である。爽やかな風が吹き、晴れ渡った青空と下の方に流れる白い雲が見ていてとても気持ちいい。こんな日に外で昼寝をするのは格別だろう。


「昼寝は後だぞ」

「う……わかってるもん」


 即座にレイシュの浮ついた考えを察知され、釘を刺された。それでも、勉強の後は外でお昼寝が待っていると思えば、よそ見せずに頑張れる。きっとダーカも黒狐になって一緒に寝そべってくれるはずだ。


「まずは、この花をどうしたいか考えるんだ」

「うーん……、げんきになってほしい?」

「そうだな。だが、元気にするには、元気が無くなった原因を解っておく事が望ましい」

「げーいん」

「ああ。この花の場合なら、水が足りてないか、栄養が足りていないか、日光不足か……そのあたりだな」

「なるほどぉ」


 仕切り直して、しんなりと下を向いた花弁を触りながらダーカが言葉を紡ぐのを、ふんふんと頷きながら真剣に耳を傾ける。


「たんに『元気にしたい』だけじゃ無駄に力を食うだけだ。ピンポイントで使えるようになれ」

「うー、むずかしいよ……」

「最初はそんなもんだ。すぐに出来なくていい。ただ、そうやっていつでも考える事に慣れろ」

「ん、わかった」

「偉いぞ。んじゃ、そのあたりを補ってやるように意識しながら、花を元気にしてみるか」

「はぁい」


 教えられた通りに手を前に出し、萎れた花にそっと触れる。すると、ちょっぴり指先がジワッてなって、花びらがポワッて光ってすこーしだけ上向いた。これは成功したのだろうか?


「よし、ちゃんと出来てんぞ。今何を考えていた?」

「あのね、喉かわいたのと、おなかすいたのが治りますようにって。あと、あったかくなるといいねって」

「完璧じゃねェか。後は出力の調整だな」

「むぅ」


 ダーカに貰った力はもうレイシュの身体にすっかり馴染んでいるから、本当は自由に使う事が出来るのだけど、扱いに慣れてない事と量が多すぎる為に、()()()()()()()()が働いて、小出しにしかならないらしい。

 同じ要領で摘んであった数本の花を試したけれど、どれもこれも上向いたかな? くらいにしか変化が無い。


「ちゃんと出来てるからむくれんなって。……そうだ、俺の手伝いも兼ねて、丁度いい練習方法があるから試してみるか?」

「うん! てつだいする!」


 機嫌良くレイシュの頭を撫でてから、ダーカがさっと手を振れば、垂れていた茎が見る間に持ち上がり、あっという間に咲いたばかりのような瑞々しい花に変わっていた。

 すごいなぁと思いながら見ていたら、ひょいと片手に抱き上げられて、もう片手に元気になった花達を持ってスタスタと歩き出した。()()()()を横切り、向かった先は()()()()()、がある所。ここはダーカの仕事場の一つだ。暖かい外から来たからか、中は少し涼しい。


「そこで待ってろ」

「はぁい」


 ()()()()にある低い机とざぶとんと違って、足が長い金属の机と、これまたよじ登らないと座れない金属の椅子に乗せられる。

 ダーカが壁の棚に向かってゴソゴソしているのをしり目に、しゃむしょの中をキョロキョロと見まわした。

 今まで入った事が無かった場所は、色々なものが置いてある。箱いっぱいの赤や青、白にピンク色した手の平くらいの薄べったい袋とか、鳥さんの羽がついた棒とか。よくわからない字が書かれた紙もいっぱい。

 椅子から降りてあれこれ触ってみたいけれど、まだお勉強中だから勝手しちゃダメなんだ。


「あったあった。レイシュ、これな」

「? これなぁに」


 ソワソワしながら待っていたら、ダーカが、今しがた見ていた白くて薄べったい小袋を持って立っていた。思わず振り返って、同じものがいっぱい詰まっている箱を見る。


「ああ。あれと同じモンだよ。御守りっつうんだが。事故んねェようにとか、商売が上手くいくようにとか、色んな種類がある。でもって、これは健康を祈願した御守りだ。病気だの怪我だのした人間が、治りますように、と願いながら買っていくモンだ。まぁ、気休めがほとんどだろうがな」

「おまもり……」

「これはまだ、単なる板切れの入った小袋だ。これにレイシュの力を入れてやって初めて護りの力を帯びる。ほんの少しでいい。逆に多く入れると効き過ぎちまって問題になるからな」

「もんだいになるの?」

「ああ。人間は力を持たない。持たないとは知らない事だ。自分が知らないものが傍にあるのは、恐怖をもたらす。その恐怖は時に、排除の矛先となる。だから知らないものは知られないままがいいんだ」

「しらないものは、しられないままに」

「そうだ。だからほんの少し、な。効かないと思うが買い求める。持ってるだけで気休めになるから。そんなもんでいいんだ。実際は、怪我や病は早く治るようになるし、商売も好転のチャンスが増える。出会いの護りなら縁を結びやすくなったりもしている」

「ふわぁ、おまもりってすごいねぇ」

「知られちゃいけないがな。人間の間で後利益のある神社っつって人気出てる所は、たいがいこの御守りに一定の力を入れられずに、上振れしちまってるんだよ。経験の浅い奴らの仕事だからしょうがねェんだ。でかい神社ほど新入りが配属されるから、バラつきが出ちまう」

「新入りってぼくみたいな?」

「そうだな。まぁだから、レイシュも御守り作りを数こなしていけば、一定した力を込める練習になるだろ。ある程度慣れたら、次は生き物に向かってやるからな。頑張れよ」

「わかった! がんばる!」


 こうしてレイシュの勉強に、手伝いという名の御守り作りが加わった。こうやって各地で作られた御守りが、神の住んでいない神社へと配分されていくらしい。

 力の封入が少なすぎる場合は効かないだけだから問題なく回収され、あまりに効力があり過ぎるものに関しては人間への販売用からは撥ねられて、各神社の場の維持用として再利用される。

 力のある神が作った高威力の御守りは質が良く人気で、撥ねられた物の取り合いも起こるのだとか。


「ダーカが作ったおまもりも取り合いになるの?」

「俺はそもそも半端なモンは作らないからな。取り合いになるモンが存在しねェよ」

「むぅぅー!」


 うんうん唸りながら1個づつ掴んで作成しているレイシュは、隣に座り、軽く手をかざしただけで、一度に箱いっぱいの御守りを作っては積み上げていくダーカを見て、毎回懲りずに頬を膨らますのだった。











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