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ずぶ濡れフェネックは見つける 3

 



「きのえだ、きのえだー」


 枝の隙間から程よい明かりが入る森を、きょろきょろと地面を見回しながら相棒と共に進む。

 白っぽい砂でおおわれた地面は、踏めばシャリシャリと鳴って面白い。

 つい、枝を探すよりも音を楽しむことに意識を取られていたレイシュである。


≪坊……未確認生物発見≫

「みかくにん……?」


 そんな時に、持ち主よりもよほど優秀なダーちゃんが、唐突に注意を促してきた。

 慌てて足を止め、辺りを見回すが、それらしきものは見当たらない。

 レイシュはあれぇ?と首をかしげ、黒狐を見上げて聞いてみた。


「どこぉ?」

≪1メートル前方左方向、砂に擬態中、敵意無し≫

「ぜんぽう、ひだり……すなに……あっ、ほんとだ! なにかいる!」


 言われた通りに視線を動かしていき、ふと捉えた違和感。

 まじまじと見ていると、バレたと悟りでもしたのか、盛り上がっていた白砂がぶるっと身じろいだ。

 ぽこり、と2つの黒丸が現れる。

 あれは、たぶん、目だ。


「…なぁに、これ? おっきなおまんじゅ?」

≪不明≫


 御守りに弾かれないという事は、危険は無いのだろう。

 レイシュは少し近付いてみることにした。

 あと3歩ほどで触れる、というあたりで立ち止まってしゃがみ込み、もう一度じっくり眺めてみる。

 もふっとした白い毛でおおわれているため、最初は砂と同化していたけれど、よくよく観察すれば、地面に寝そべっているせいで、身体の下半分が砂に埋まっていたのだと解った。

 目の下まであった砂の中に、うっすらと黒い鼻先も見えている。

 そして、ずんぐりぽってりとした身体にそって、大きなひれのような前足? が生えていた。

 先の方には5本爪もある。後ろ足も…なんだか、ひれっぽい。


『くきゅー』

「ふぇっ! なにっ」


 あまりにじっと見ていた所為か、白い生き物がひれで地面を押さえ、ずりっと寄ってきた。

 うるうるの黒い瞳に見られつつ、慌てて同じ分だけレイシュも後ずさる。


『くきゅーッ』

「えー。なんなのぉ……」


 そうすると、更にずりりっと近付いてくるので、また遠ざかってみるのだが、なぜかレイシュを追ってきてしまう。


「……おなか、空いてたりするの?」

『キューッ』

「でもぼく、なにももってないし……」

『クァー』

「ダーちゃん、どうしよう?」

≪グレンの元へ≫

「そうだねぇ……えだは、拾えなかったっていおう……ひっ?!」


 近付こうとするだけで特に何もしようとしない生き物に、いつまでも構ってはいられない。

 いったん出直そうと、立ち上がった時だった。

 今までずりずりと這っていた生き物が、いきなりレイシュに飛びかかってきたのである。

 咄嗟に両手を上げ、身体の前で交差させた腕に、べちょっと何かが張り付いた。


≪!≫

「やだぁっ」


 見れば、大口を開けた生き物に、手首辺りをカプリと食まれているではないか。

 あせって腕をばたばた振っても、張り付いた生き物は一向にはがれない。


≪敵意不感知、攻撃意志不感知……ッ≫

「うぇええええ!」


 めずらしくオロオロとレイシュの周りを飛び回る黒狐は、これが攻撃ではないと言う。

 ではなんなのかと、少しだけ冷静さを取り戻して腕を振り回すのを止めたレイシュは、その時おかしなことに気が付いた。


「手じゃなくて……ぼくの、うでわ……?」

『クァッ、キュァッ』


 ぶらんとぶら下がった生き物は、なにやらグレンに買ってもらった装飾品を歯に掛けて、引っ張っているようなのだ。

 未だ腕に感じるしめった感触は、ちょっぴり突き出た鼻先と言うか唇部分が、腕を挟んでいただけらしい。


「えっ、だめだよ、これはぼくがもらったやつなの! あげられないよ!」

『クアックアァッ』


 相手の狙いが自分を食べる事では無かったと解り、安堵したのもつかの間。

 取られそうになっているのは、なんとグレンに貰ったばかりのプレゼントである。

 さっき以上に必死になって腕を振り、空いた片手で白い塊を引き離そうとしても、相手も前足っぽいひれをレイシュの腕にまきつけて、意地でも離されまいとする。


「ふぐぐぐぐ……!」

『キュァーーッ』


 しばしの力比べでは決着がつかず、諦めたレイシュは、手首に白い物体を張り付けたまま、グレンの待つ浜辺へと戻る選択をしたのだった。




 ◇




「うでわ……たべられちゃったぁ……」


 森から戻って事の次第を報告した結果、グレンから気の毒そうな目で見られた上に、諦めるよう諭されてしまった。

 相手がテコでも離すまいとする以上しょうがない決断だったとは言え、せっかく貰ったプレゼントが、訳の解らない生き物のおやつになってしまうのは忍びなさ過ぎた。

 食べ残しとばかりに吐き出された残骸を見て、レイシュの瞳に涙が溜まる。


「ううぅーっ!」

「……我慢して偉かったな」


 グレンの足にしがみつけば、よしよしと頭を撫でられた。

 あんな変なもの、見つけなければよかった。

 そんな今更な事を考えていたレイシュに、ふとグレンが呟いた恐ろしい言葉が耳に届く。


「しかし……こいつ、まだレイシュを見てるな……」

「えっ」


 驚いて顔を上げたレイシュは、視線を巡らせた先で、たしかにこちらに顔を向けている白いかたまり、グレン曰くケートスと目が合った。

 あまつさえ、またもやヒレを使って、ずりずりっと近付いてくるではないか。

 慌ててグレンに両腕を伸ばし、抱っこしてのポーズを取った。

 すぐに意を汲んで抱き上げてくれた、安心感抜群の腕の中から見下ろすと、ケートスはしごく残念そうな声音でキューキュー鳴いている。


「それと、この残骸……まさか、魔石だけを食ったのか?」

「ませきって……あ、かいのませきのこと?」

「……そう言えば昨日、小物屋の店主がおかしなことを言っていたな。海の魔物は綺麗な物が好きだとか何とか。白光貝の魔石を身代わりに持って行けと……」

「ふぇ……」


 そこまで言って、ザッと大きく距離をとったグレンが、おもむろに浜辺に置いていたマジックバッグから髪飾りを取り出した。

 腕輪と一緒に買っていた、白光貝の魔石が使われた装飾品の一つだ。

 それを、ケートスに向かってポイッと投げつける。

 綺麗な放物線を描いて飛んだ髪飾りは、先ほど森で飛びかかられた時のように、俊敏な動きで跳ね上がったケートスによってぱくりと食らわれた。

 直後、ガリガリと咀嚼音が響きわたる。

 しばしのちに吐き出された残骸からは、魔石だけが消えていた。


「ませきが……」

「……はぁ、やっぱりか」


 なんでこう変な物を引き寄せるんだ、とグレンがぶつぶつ言っていたけれど、返す言葉が見つけられないレイシュだった。







ぱっと見、ひれ大き目な、流氷上の天使と名高いあの姿です

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