表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/143

草臥れフェネックは憩う 6

 


「毛繕いはもういいのか?」

『うん、いいの。ぎゅってしてぇ』

「じゃあ、ベッドいくか」

『いく!』


 おやどに戻り、用意してもらったご飯をトレーに乗せて部屋で食べた後は、まったりする時間だ。

 食堂で食べていかないのかと、おかみさんに残念そうに言われたけれど、グレンが、出歩いて疲れちゃったからと言って断ってくれた。

 獣型に戻ってお風呂に入り、きれいに身体を洗ってもらってから、優しい強さの指で頭や首元をごしごしされるのに、レイシュは耳を震わせうっとり目を閉じる。

 グレンも一緒にお風呂から出たら、今度はソファに座ったグレンの膝の上に頭を乗せて、アーレンがくれた櫛で毛並みがふわふわになるまで梳いてもらう。

 それから、抱き上げられて一緒にベッドに寝転んだ。


「あいかわらず手触りが良いな」

『グレンが、けづくろい、してくれるもんね……』


 ゆっくりと背中を撫でてくれる手に、くるる、と喉が鳴る。

 気持ちいい、嬉しい、あったかい。


「明日は早いからな。しっかり寝ておけよ」

『うんー、……わか、たぁ……』


 ゆっくりとした拍を響かせる分厚い胸に大きな耳を押し付けて、レイシュは暖かで安全な腕の中で目を閉じると、あっという間にやわらかな夢の世界へと落ちていった。




 ◇




「きゅうきゅうセットと、マイボトルにお水、ハンカチ、ぬれテッシュ、あめちゃん、おさいふ、全部あるね!」


 気持ちよく晴れ渡った朝である。

 身づくろいするグレンのそばで、人型になったレイシュも自分のバッグの中身を1つづつ確かめていた。

 とは言え、入っている内容に変わりはないが。

 御守りは首からぶら下げているし、ダーちゃんはふよふよと部屋の中を浮いている。あめちゃんはダーカが送ってくれた新しい味だ。

 バナナも美味しい。


「忘れ物は無いな。出かけるぞ」

「はぁい!」


 こちらに向けて腕を伸ばすグレンに、元気よく返事をして抱っこしてもらう。

 グレンが急ぐ時はレイシュは歩かずに、抱いていってもらうのが常だった。

 お宿を出て通りを歩くと、あちらこちらからグレンに声がかかる。


「おお! ゴールドのあんちゃん! 早いな!」

「よろしくな! 海に落ちるなよっ!!」

「子供連れで大丈夫か? かあちゃんに預けてやろうか?」

「冒険者のにいちゃん、頼んだぞ!」

「もう行ってくれるのか! ありがとなぁっ」

「ギルド長が昨日のうちに船を出してたぞ、ありゃあ気張ったな」


 昨日と同じようにわらわら寄ってくる大きな人達の間を、ぶつかることなく避けながらグレンが進む。

 ちゃんと片手をあげて挨拶してるから、寄ってきた人達も笑顔で通してくれた。

 レイシュもグレンに負けないように手を振っておいた。

 湾に出る近道を教えてもらいながら歩いていけば、いきなり建物が切れて、目の前にうみ、が現れた。


「ふわぁあああ! うみーーー! あおーーー!!」

「っはは、そうだぞ。これからあそこにある船に乗って、海に出るからな」


 興奮して足をばたつかせるレイシュを砂浜に降ろして、笑いながらグレンが言う。

 うみに並んでいるふねのなかでも、大き目で真ん中に部屋があるタイプの前で、昨日会ったギルド長が手を振っていた。

 レイシュは迷わずそこに駆けていく。

 薄めの茶髪を風になびかせて立っている男の前で立ち止まり、ぺこりと頭を下げる。


「おはよーございます、ギルドちょ!」

「はい、おはようございます。元気ですなぁ。……グレンダルクさん、まさかこの子も一緒に?」

「そうだ。俺の傍が一番安全だからな。魔物が出たら室内に入れておくさ」

「……貴方が言うならそうなんでしょうな。わかりました、どうかお気をつけて」


 心配そうな表情をして、それでもグレンの言葉に納得したギルド長が、ふねを止めていた綱を外していく。

 船のへりにかかっていった梯子を伝い、グレン達が乗り込んだのを確認して、数人の男の人達がざぶざぶとうみに入ってきた。


「気を付けていけよ!」

「ちゃんと帰ってこいよなぁ!」

「頼んだぞ! あんちゃん!」

「海に落ちるなよぉチビっ子!」


 口々に言いながら、力いっぱいふねを押し出してくれた彼らへ、レイシュも力いっぱいに手を振る。


「いってきまぁーす! またねぇー!」


 男の人達が浜辺に戻ったのを確認したグレンが、魔道具を起動させてふねを進ませる。だんだんとスピードを上げていき、陸はあっという間に離れていった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ