表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/143

草臥れフェネックは憩う 4

読んで下さる皆さま、ありがとうございます。

ブックマーク、評価、感想等いただけて本当に活力になっています。

 



「ヒューゴに貰った聖魔石はまだあるが……魔力はどうだ?」

「だいじょぶだよ。さっきね、ダーちゃんにもあげたけど、あんまり減ったかんじはなかったの」

「それならいいが。一応、ここのギルドでも魔素溜まりの情報を聞いておこう。魔石の蓄えは多い方が良いからな」

「うん! また、きれいなキラキラ見たいねぇ。ダーちゃんも見たい?」

≪諾≫

「うふふ、今度はクマちゃんにも見せてあげようね」

≪同意≫


 満腹になるまで食堂でご飯を食べ、部屋に戻って出かける支度をした。

 胸元を覗き込んで御守りがしっかりあることを確認し、斜め掛けのマジックバッグを肩から掛ける。

 マジックバッグの中には更にひよこリュックが入っていて、()()()()()()()()()みたい、とレイシュはこっそり笑った。


「じゃぁ、ダーちゃんはバッグの中に入ってね。みつかっちゃだめよ」

≪諾≫

「準備は良いか? 行くぞ」

「はぁーい!」


 しっかりグレンと手を繋いで宿を出る。入口の所でおかみさんが手を振ってくれたので、レイシュも笑顔付きで元気に振り返した。


「ギルドの用が済んだら、軽く町を回るか。食堂で女将が言ってた貝から出るって魔石な、売れない大きさだったり形が悪いクズ魔石は、安い装飾品なんかに加工してるんだ。見てみるか?」

「みたい! ……あ、にゅーはくしょくってどんな色?」

「乳白色? ああ、そうだなぁ……そういや丁度レイシュの毛皮、いや、髪みたいな色だったか」

「ぼくといっしょ?」

「そうだな。白っちゃあ白なんだが。なんつーか、乳くせぇっつーか……」

「なにそれー! ぼく、ちちくさくないもん!」

「ハハハ! 怒るなよ、変な意味じゃねぇから。あー。ちっとばかし温かそうな白なんだよ」

「あったかそうなしろー?」

「おう、綺麗な色だぞ」


 そういわれて、レイシュは俄然その魔石が気になりだした。

 あったかそうで、きれいなしろ。

 グレンは、レイシュの毛皮をそう思ってくれているのだ。


「うふふー!」

「おっ、どうしたいきなり。抱っこか?」

「うんっ」


 レイシュに合わせてゆっくりと歩いていた足に飛びつけば、すぐに思いを読み取ったグレンが掬い上げてくれる。

 一気に目線が高くなったレイシュは、がっしりした首に両手を掛けて、ご機嫌で町を見回したのだった。




 ◇




「ゴールドランクだ。困っている依頼はあるか?」


 結局レイシュを抱き上げたままギルドへ到着したグレンは、そのまま下ろすことなくカウンターへと向かっていった。

『ハムッサ冒険者ギルド』と看板はあれど、普通の民家とさほど変わらない大きさのレンガ造りの建物には、2,3人しか人がおらず、揃って訪れたグレンをポカンとした表情で見つめていた。

 こちらも眼を丸くして動きを止めたまま二人を見ている受付のお姉さんに、レイシュは、グレンの首に掛かっていた鎖を引っ張り出し、金色をした小さな板を見せてあげた。

 一緒に眠る時、いつも顔のそばで揺れているから、レイシュはその存在をしっかりと覚えていたのである。


「ほら、これ。きんいろだよ」

「えっ、ああ、っ! ……ハイッ! ゴールドランクの方ですね! 少し、お、お待ちください!」


 はっとした顔で我に返ったお姉さんは、大慌てで席を立ち、バタバタと駆け去って行ってしまった。

 思わずグレンと顔を見合わせる。

 ほどなくして、再び騒音を立てながら戻ってきたお姉さんは、背後に1人の男の人を連れていた。

 中肉中背で茶髪の、どことなく疲れた顔つきをしたその人は、レイシュが握ったままの金色の板に目を止めて、見るからにぱぁあああ! と顔を輝かせた。

 隣に並んだ受付のお姉さんも、涙を流さんばかりの形相だ。


「ようこそ来てくださいました! ああ良かった! 本当に良かった!」

「……何か、盛大に困ったことがあるみてぇだな」

「それはもう! あと少し遅ければ神殿へと人をやり、何としてでも聖騎士様をお連れせねばならないと話し合っていたもので、はい!」

「聖騎士……」


 思ってもいなかった台詞に、再びグレンとレイシュは顔を見合わすこととなった。


「とりあえず、聞こう」

「はい! 勿論です! あ、挨拶が遅くなりました、私はハムッサでギルド長をしております、トレヴァー・ファニングと言います」

「グレンダルク・ハワードだ」

「! あ、あの、有名な、グレンダルク、ですか…?」

「あのってどのだよ、知るか」

「し、失礼いたしました! 早速お話いたしますので、こちらへ……その、お子様は?」

「親戚の子だ。一緒に聞くが構わないな?」

「もちろんです! メイジー、何か、茶菓子でも…!」

「はいっ! すぐに!」


 受付を放って奥に走って行ってしまったお姉さんを見るともなしに見ていると、ギルド長、トレヴァーさんが先に立って案内を始めた。

 どうやらギルド長室に行ってお話をするらしい。


「いやはや、お見苦しい所をお見せしました……」

「かまわない。話を聞こう」


 部屋へ入り、ややマットが潰れ気味のソファーを勧められて腰を下ろした2人の向かいに、汗を拭きつつトレヴァーさんが座った。

 さほど待たずに、お菓子が山盛りになったお皿と人数分のお茶を乗せたトレーを抱えたお姉さんもやってきて、そのままトレヴァーさんの隣に腰かける。

 受付はいいのかな?


「ああ、どうせ世間話をしに来る町の人しか来ませんから。もし依頼人が来ても、誰かが呼びに来るので大丈夫です!」


 レイシュの顔に浮かぶ疑問を読んだのか、にっこりしながら言ったお姉さん――メイジーさんに、隣に座ったギルド長もうんうん頷いている。


「どうぞ、召し上がって下さい。……ええと、グレンダルクさんにお願いしたい依頼なのですが。実はですね、最近、近海に魔素溜まりが出来てしまいまして。漁が出来ずに困っておったんです」

「魔素溜まり……」

「はい。その、漁と言いましても、町で消費したり、売る用の魚介の漁では無くですね、この町の収入源たる、魔石を生む貝、白光貝の生息地あたりに出来てしまったもので……」

「にゅーはくしょくのませきー?」

「ん? ああ、そうだよ。良く知っているね。あれはね、珍しい光の魔石なんだ」


 覚えのある話につい割り込んだレイシュに、ギルド長は疲れた顔を緩めて答えてくれた。


「えぇー、ひかりのませきなの?」

「そうだが……ああ、普通、光の魔石は黄色だからね。だからこそ、ここの魔石は珍しいんだ。光なんて部屋を暖めたり明かりの役目位しか使わないけれどね、ここの魔石はなんせ美しい。だから装飾品としての価値が高いんだ。白い魔石は、他に聖魔石しかないからね。あっちも高価なうえに手に入りにくいが」

「ほぇー……そうなんだぁ」


 たしかに、レイシュのバッグにまだまだいっぱい詰まっている魔石も白い。

 そう言えばヒューゴも、聖魔石は手に入りにくいと言っていた。


「それで、その生息地に寄ってくる魔物を狩ればいいんだな」

「はい。……お恥ずかしいですが、この町に常駐しているのは、よくてシルバーランクまででしてね…魔素溜まりに、しかも獰猛な海の魔物の集まっている所に行ってくれとは、言えんのですよ」

「解った。その依頼を受けよう」

「ほっ、本当に!? ありがとうっ! ありがとうございます! これで町が救われます!」

「ありがとうございますー!!」


 がばりとソファから立ち上がり、深く腰を折って礼をするギルド長を見て、レイシュと一緒に茶菓子を消費していたお姉さんも、立ち上がって礼をする。


「詳しい情報を教えてくれ。場所や、現れる魔物なんかを」

「はいっ! ……と言っても、あまり近付けないから大した情報も無いのですが。場所は、うまくいけばここからでも見える、湾の先にある小島なんです。平素は波の穏やかな、子供でも行ける場所なんですが」

「魔物は、一応受付に目撃情報の資料がありますよ。持ってきますね」


 立ち上がって部屋を出ていくお姉さんを見送ってから、ギルド長はまた話し始める。


「船はこちらで手配します。まぁ、漁船なんですがね。波が荒くなっているので、屋根付きの大きい船を出しましょう。他にいる物があったら言ってください」

「特にはねぇよ。船は、俺でも扱えるか?」

「そうですな、船尾に風と水の魔道具が付いていますから、操作は楽でしょう。最初は風で進ませて、向きやなんかは水で調節出来ますよ」

「わかった。明日の朝には出るから、用意しておいてくれ」

「あ、明日行ってくれるんですか! ああ! よかった! ……もう、白光貝の産卵が間近だったんですよ。暗い海に卵がキラキラ光ながら流れて行くのがそりゃあ綺麗で。ですが、間に合わないかと……。産卵してしまえば、貝は数日ですぐに死んじまうんです。そうしたら魔石が出来るんですが、魔物にとっても魔石は良い餌ですからね。産卵が終わり、まだ生きているうちに捕らないと食われちまうんですわ」

「さっき、おやどで食べたよ! おいしかったもん、まものもたべたいよねぇ」

「おや、食べたのかい。そうだ、美味かったろう? 白光貝から魔石を取り出した後は、市場で売るんだよ。この町でしか食べれないご馳走さ」


 皺が刻まれた目尻に、うっすらと涙をにじませながら、ギルド長は自慢げに微笑んだ。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ