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仕出かしフェネックは惑う 7

 


「……攫われてきたってのに、どうして外にいるんだよ」

「あんたたち、良い恰好をしてるわね。金持ちの子なの?」

「見つかったら危ないよ、殴られるよ」


 本当にレイシュ達が2人しかおらず、別の部屋から抜け出してきたのだと知ると、子供達は次々に話し出した。

 もちろんぼそぼそとした小声だが。


「……なぐられたの?」

「!」


 子供たちの中では一番小さい男の子が言った台詞に、レイシュが反応して前に出た。

 話しかけられて、ヒューゴから視線を移した金髪の子供が、びくっと肩を跳ね上げ、顔を真っ赤にする。


「あ……その、腹とか……見えないとこを、殴るんだ」

「ひどい……おなか、だいじょぶ? いたい?」


 ベネディクトの陰から完全に出て、鉄格子に近付いたレイシュを見て、他の子供達も息を飲んだ。

 疲れたような、諦め混じりだった顔に、少しだけ感情が灯る。


「かわいい……」

「こんなちっちゃい子まで攫うなんて!」

「お前、可愛いから攫われたんだな」

「……っ!」


 近くで見ると、姉妹だろう良く似た女の子が2人と、男の子が3人。

 どの子もさほど上等でない、汚れた服を着ていた。


「俺達は、自然公園のあたりで攫われたんだ。お前達もか?」


 レイシュの前に身体を割り込ませて、ベネディクトが話しかける。茶色い髪にそばかすの目立つ男の子が、疲れた顔にムッとした表情をうかべて返事をした。


「違うよ。トレスタ村のそばだ。食いモンを探しに林に入ってたら、知らない奴らに捕まったんだ。もう1週間はたつ」


 一人が言うと、私は僕はと声が続く。


「私達は、スーサの町だよ。乗り合い馬車で親戚のいる町に行こうとしたら……途中で乗ってきた人達に……」

「ぼくも、ドゥーベの街で捕まったんだ。お菓子の屋台が出てたから、ちょっと母ちゃんの手を放しちゃって。そしたら、すぐに人が来て母ちゃんの間に立って見えなくなっちゃって、その間に抱え上げられちゃった」

「おれはズィッタの街出身だけど、親父と一緒に行商してんだ。その途中で親父が店の人に売りにいったのを待ってる間に、捕まっちまってよ。1週間どころじゃないぜ」

「……」


 わりとあちこちから攫われて来たらしい。

 それにしても、姉妹の妹の方は人見知りなのか黙ったまま姉の陰に隠れてチラチラと見てくるだけだが、それ以外は良くしゃべる。

 まるで、今話しておかないといけない、と急き立てられているかのようだ。


「此処にはいつも、5人くらいの男の人がいるのよ。朝、袋に入ったパンを投げてくるの。死なれたら困るって」

「自分達は3食美味いもの食って、夜なんか酒盛りしてんだぞ。ずるいよな、俺だって腹減ってんのに」

「おれ、最初は別のとこにいたんだ。そっから、夜になったら馬車に詰め込まれてさ、ここに運ばれた。ここは隣の国に行く道があるからって。おれたち売られるんだって」

「お金つかませて、橋は調べなくても通れるんだって、酒飲みながら言ってたんだ。ぼく聞いちゃったんだ」

「おととい、パンを投げながら一人が言ってたわ。もう1人、高く売れそうな赤毛を見つけたから、そいつを連れてきたらいよいよだって。……2人になったけど、あんたのことだったのね」


 レイシュとベネディクトは顔を見合わせる。なかなかに子供達は情報を持っていた。

 諦めていた自分達とは違って、元気に動き回れている2人に、子供なりに何かを感じとっているのかもしれない。

 それと同時に、レイシュは、目を付けられていたのだという事がハッキリした。

 ベネディクトが眉を吊り上げて怒っている。


「あのね、だいじょぶよ。すぐにね、グレンがくるもの。グレンが来たら、みんなもたすけてもらうから!」


 邪気の無い笑顔でレイシュが言えば、子供達に動揺が走る。

 言われた内容もさることながら、自信満々に言う顔があまりに可愛かったので。


「助けてもらうって、ホントかよ! その、グレンってやつ一人じゃ、やられちゃうかもしれないぞ」

「君たち、高く売れるらしいから、殴られたりはしないと思うけど、あんまり動いちゃだめだよ、ほんとに助けがくるなら、隠れていたほうがいいよ」

「そうね……なんでそんなこと言えるのかわからないけど、見張りがいるのよ。みつかっちゃうわ」


 心配げに言い募る子供達に、今度はベネディクトが胸を張る。


「大丈夫だ、父上にも伝言がいっているはずだ。きっと、すぐに騎士達が来る!」

「ヒューゴも! ヒューゴもきてくれるよ! グレンだけじゃないよ!」


 本当だろうか、信じていいのだろうか。そんな思いがそれぞれの顔に浮かぶ。

 そこでベネディクトが動いた。鉄格子に近付いて錠を手に取り、先ほどと同じように魔力を込めていく。


「ベニィ、またガシャンってするの?」

「いや、彼らは逃げ出すよりもここにいた方が良い。多分、体力もあまりないだろう」

「そっかぁ」

「かわりに、この鍵が簡単に開けられないように細工しておく。鍵自体を凍らしておけば、多少の時間稼ぎにはなるはずだ」


 そう、きっぱりと言いきったベネディクトに、子供達が驚いた顔をする。


「おまえ、そんな魔法つかえるのか。スゲェヤツだったんだな」

「大丈夫なの?魔力使っちゃって……」

「これくらい大丈夫だ。じゃあレイ、そろそろ行こう」

「あっ、ちょっとまってぇ」


 通路へと向かうベネディクトに着いていこうとしたレイシュが、ふと思いたって立ち止まる。

 鉄格子まで駆け足で戻り、最初にお腹を殴られた、といっていた金髪の子を手招きする。


「え、ぼく?」

「うん。ちょっと、ね。おなかさわっていい?」

「い、いいけど……」


 恥ずかしそうに頬を染めて寄ってきた子供に、そっと手をかざす。

 じわっと指先があったかくなる感覚に祝いがうまくいったことを感じ、ニコリと笑う。


「えっ!」

「うふふ、ないしょ、ね?」


 唖然としている男の子に向け、口元で人差し指を立ててから、レイシュはきびすを返して駆けだしていった。







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