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張り切りフェネックは進む 3

 



 2人と一匹が連れ立って、入ってきた門とは別の場所に向かう。

 ドゥーベに来た時の道は、ほぼファッジの街とその先の魔の森に行き来する人しか使わない街道だそうだ。

 着いた門は大きさもこちらの方が大きく門兵も複数人体勢で、出入りする人達も多種多様だった。

 魔の森の奥にある山は国境になっていると言ったけれど、そこを越えられる人はまずいないから、実質的な隣国への街道は、これから向かうドゥーベール渓谷に掛かる橋と繋がっているらしい。


「そういう訳だからな、レイシュがここで万が一捕まりでもしたら、簡単に隣国へ攫われてしまう。人気があるところでは離れるんじゃないぞ」

『わ、わかってるもん!』


 相変わらず革鞄から頭を出して興味津々に辺りを見回していたら、グレンにこんこんと言って聞かせられた。すごすごと鞄の中にもどって座り込む。

 ふと横を見ると、布鞄のふたで影になっている部分に同化したダーちゃんが、パチパチと頻繁に瞬きしている。どうやら外の写真を撮っているようだ。


『ダーちゃん、おしゃしんとってるの?』

≪主の命である。坊の近辺に脅威がないかの確認、および周辺図の作成用である≫

『へぇー! そんなことできるんだぁ! ダーちゃんすごいね!』

≪恐縮である≫


 この前までの道行きでは、人が居る場所では一人で大人しくしていなくちゃいけなかったけれど、これからは鞄の中にいる時でもダーちゃんとお話ししていられるのだ!

 それに気が付いたレイシュはずっとご機嫌だった。




 ◇




「そろそろ出てもいいぞ。頑張ったな」


 グレンから声がかかったのは、カツカツと石畳を踏んでいた音が無くなり、砂利道を過ぎて、地面の感触が土に変わり暫く歩いてからだった。


『やったー! ダーちゃんも出ていい?』

≪喜悦。また、我の出陣の可否を問う≫

「あー……まぁ、いいんじゃねぇか?」

「ここから先は獣道しか無い。居ても同業くらいだから、近付く前に気付けるだろう」


 お許しが出て、2匹そろって鞄から飛び出していく。ダーちゃんは文字通り飛んで出た。


『どっちにいくのー?』

≪何処へ≫

「聞いた話では、渓谷に掛かる橋から見える範囲にあるらしい。橋には向かわず渓谷を下るつもりだ」

「この辺りの浅瀬は、ロックモルットとトレントの亜種、一角が出てたな。渓谷に近くなるとマンイーター、オウルベアあたりか。魔素溜まりの出現で変化は?」

「浅瀬までマンイーターが現れたと報告があった。サーペント種の目撃情報もある」

「サーペントか……川の側に魔素溜まりが出来たか」

「多分な。一度渓谷まで降りたら川に沿って上流へ向かい、魔素溜まりを探す。破壊が出来たらそれに越したことは無いが、無理なら適当に狩りつくして戻るぞ」


 レイシュは、地図を取り出してあれこれ話している2人の側を、まだかまだかと円を描いて走っていたが、少し前からダーちゃんの変な動きを見て動きを止めていた。

 ダーちゃんは一度2人の背後からギルド発行の地図を覗き込んだ後、いきなりすごいスピードで上空まで飛び上がったのである。


『ふわぁ……だーちゃん、たかぁーい!』


 キャンキャンと尻尾を振り喜ぶレイシュに目を止めて、何事かと振り返った2人は、そばを浮遊していた存在が居ない事にようやく気が付いた。


「おい、黒チビはどこいったんだ?」

『おそらに飛んでったよ!』

「……わからん、なんだ?便所か?」

『ちがうよー。だーちゃんは、おといれしないもん』

「あの魔道具っ!なにかあるならば勝手に行かずに一言くらい言っていけ!」


 ワチャワチャしているうちに、空からまた猛スピードでダーちゃんが帰ってきた。そして何事も無かったかのように、レイシュのそばを浮遊している。

 目を点にしているグレンをどかして、食って掛かったのはヒューゴだ。どうにも相性の悪い一人と一匹である。


「おい魔道具! 何をしていた! 魔物と間違えて襲われるぞ!」

≪周辺図の作成である。襲撃には武力を持って制圧するゆえ無問題≫

「周辺図っ?! ……ッ……地図の事か。作れるのか?」

≪可≫


 理由を聞いて即座にトーンダウンし、しかめっ面から研究者の顔に変わったヒューゴを一言のみで黙らせる。再びレイシュのそばを漂い始めたダーちゃんの圧勝だった。


「はぁ。ほら、行くぞ、明るいうちに川まで着きたいからな」

『はぁーい!』

≪諾≫


 レイシュは元気に声高く鳴くと、先陣を切って走りだした。付かず離れずの位置をダーちゃんが追う。


「あっ、おい! 先に行かせて大丈夫なのか?! 一角の方がデカいし凶暴だろ!」

「あん? あー、そうだな。お前もあの黒い呪符を見ただろ。魔の森でも一匹たりとも近付かなかったからな。この辺の魔物なんか見ることもないはずだ。というか、アイツのそばが多分一番安全だな」

「た、確かにとんでもない術を込められているように見えたが、そんなにか……」

「そんなにだ。俺達が心配することは、はしゃぎ過ぎたレイシュとはぐれない事だけだな」

「はっ! なに悠長にしているんだ! とっとと進むぞ! はぐれるとあの魔道具に馬鹿にされる気がする!」


 きちんとセットされた赤髪を靡かせ、保護色には成り得なそうな鮮やかな緑のマントをひるがえして、足早に獣道に進むヒューゴのあとを、やれやれと溜息をついてグレンは追いかけたのだった。





ダーちゃんはレイシュの変質者発言が記録に残っているため、ヒューゴへの当たりが若干きつ目。

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[一言] 最高に面白い!
[気になる点] 最後突然ダーカが合流してる件
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