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張り切りフェネックは進む 2 side G

 


 ドゥーベの街は学術都市だが、冒険者ギルドが賑わっていないわけでは無い。むしろ学術都市だからこその、特色ある依頼が多かったりするのだ。

 例えば研究用の現地調査の同行、学会や講演会がある国までの護衛、実験用素材集め、研究のための人員募集、研究室の清掃作業に資料作成補助なんて依頼まである。

 読んでいくと替え玉試験の依頼まであって面白い。学院の生徒だろうか。


「ドゥーベール渓谷までの護衛、現地調査のため。ランク:ゴールド以上。ヒューゴ・ネイサン……これだな」


 家を出る前にヒューゴが飛ばしていた鳥の内容を、所狭しと張られている依頼票の中から見つけてカウンターに持って行く。

 血の気が多い奴ばかりのせいで、カウンターに男性職員しか置けないファッジと違って、にこやかな女性職員が対応していた。


「これを頼む」

「いらっしゃいませ。これは危険地域に行くためランク限定となっておりますが」

「問題ない。ゴールドだ」


 首にぶら下げているタグを外して渡す。

 魔道具にかざして、本人確認およびランク詐称でないことを確かめたのちに返される。


「グレンダルク・ハワードさん。報酬は現地調達した魔物の素材全て、および相応の魔石での対応です。よろしいですか?」

「確認済みだ」

「それでは、ここに日付と名前の記入を……受理しました。お気をつけて」


 簡単なやり取りで依頼を受けたあとは、買い出しである。

 替えのマントや火付け用の魔石、少し多めに見積もって5日分の食事など。

 グレンは保存食は食べられさえすればいいと思っていたのだが、レイシュといるようになってから、わりと味もこだわるようになっていた。なんせ、不味いと食べない奴がいるので。

 いくつかの露店と雑貨屋を巡って、物資の調達を手早く終わらせる。


「光源はヒューゴがいるから良いとして……あとは……」


 昨日、しばしの間だけお目見えした幼子の姿を思い出す。

 獣の時と同じく大きな耳の付いた小さな白い顔に、細く白い手足。興奮に膨らんだ尻尾。グレンの腰下あたりまでしかない身長。

 泣いた事でキラキラと光っていた瞳は零れそうに大きく、つんと尖った鼻もよく笑う口元も、街に出せば間違いなく10人が10人とも可愛いと言うだろう。

 不思議な服を着ていた。肩口につなぎ目のあるゆったりとした袖、前見頃を片側に流して結んでいるだけの着やすそうな上衣。これまた裾が広めの履きやすそうな短いズボン。

 藍色の生地に黄色い花の散った鮮やかな色合いが良く似合っていた。



 ヒューゴには獣型でいさせろと言われ、グレンもその言い分に納得したが、それとこれとは別である。

 なにか人型になる必要が出てくるかもしれないし、その際にあの見慣れない不可思議な服しかないのでは、余計に目だってしまうだろう。

 ここは年少からの学術機関も多数あることや、効果を付与した衣類・装飾品の研究も盛んなため、質の良い衣料品がそろっているのだ。

 他所の街に行って、少ない選択肢からほどほどの物を買うくらいなら、今ここで揃えてしまったほうがいい。


「レイシュは白いから、なんでも似合うよな。とりあえず3着分くらいと下着、靴、帽子……あとマントも必要だ。あの黄色い背負い袋でもいいが、普通の鞄……いや、小型のマジックバッグでも探すか」


 早々に用が済んだグレンは、少しだけ見ていこうと、レイシュの為の子供用品を探すため雑踏に足を踏み出すのだった。




 ◇




『もー! グレン、おそーい! はやくもどってって言ったのにー!』

≪遅延である。坊は即座の帰還を願っていた≫

「す、すまねぇ……思いの外手間取っちまって……」


 ヒューゴの家に戻ったとたん、飛びついてきたレイシュに怒られた。

 胸元に張り付き、ぐりぐりと頭を擦り付ける幼獣はとても可愛い。だが、確かに早く帰ると約束したのに悪い事をしてしまった。


「時間がかかったな。ギルドがまだ依頼を出していなかったか?」

「いや、そうじゃなくて……うん、」


 挙動不審なグレンに眉根を寄せたヒューゴだったが、後ろ手に隠された大きな袋を見て合点がいった。


「お前……ソレは、今じゃなくてもよかっただろうに。というか、どれだけ買ったんだよ」

「う……確かにその通りなんだが……見始めちまったらつい……」


 呆れたように言われた台詞はもっともだった。グレンだって本当に、必要最低限の物を買ったらすぐに戻るつもりだったのだ。

 しかし、もともと冒険者用の実用一辺倒な店しか行ったことの無かったグレンは、いざ衣料品店に入ったら、あまりに勝手が違う事に圧倒されて、つい店員に頼ったのが不味かった。

 レイシュ用だし、と少しお高めなラインナップの店を選んだことも敗因だった。

 物を知らなそう、かつ小金は持っていそうなカモが来たとばかりに、店員が始終張り付いて、あっという間に商品を山と積み上げたのだ。

 どれくらいの背丈か、髪の色は、目の色は、体格は、欲しい機能は……と根掘り葉掘り聞かれ、あれよあれよという間に購買品が増えていった。

 ホクホク顔の店員にまたお越しくださいと丁寧に頭を下げられ店先まで見送られ、今に至る。


「お前には縁が無かった世界だろうから、カモられてアレコレ買わされたんだろう。だから、もっと身の回りに気を使えと前から言っていたんだ馬鹿め。次からは俺が行くからな」

「……おう」


 なんだかんだ文句をいいながらもヒューゴが悔しそうなのは、彼自身が見た目に気を使う人種だからこそ、あのレイシュを見て着飾ってやりたいとでも思っていたのだろう。

 次の機会があったら大人しく任せることにしよう。……当分困らない量を買わされたが。


「よし、ちょっと遅くなっちまったが、行くか!」

『行くー!!』

≪応≫


 忘れないようにとヒューゴに姿変えの術を発動してもらい、布鞄に仔犬になったレイシュを入れる。

 黒チビは……同じく鞄の中に入っていてもらう。

 なんだかんだ昼近くなってからの、ようやくの出立だった。














レイシュの初期装備は甚平です

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