張り切りフェネックは進む 1
怒涛の一日が過ぎた、翌日の朝である。
焼きたてのパンと薄く切った燻製肉、ポタージュ、数種類の新鮮な野菜と果物。食道楽のヒューゴの食卓は、朝からわりと豪華だった。
そしてデザートには、ダーカの送ってきた異界産の菓子がおすそ分けされたのである。
朝からすでに、魔術師のテンションは最高潮を突っ走っていた。
「じゃあ、レイシュは神サマに拾われたのか」
『そうだよ。ダーカがずっとお世話してくれてたの。ここ来る前まで、かみになるお勉強もしてたんだよ!』
≪主が坊の面倒を見ていた。主の眷属になるべく励んでいた最中であった≫
「ほう。どんな勉強だったんだ?」
『んんっとねぇ、お守りに祝いをこめたり、けがしたひとなおしたりするお勉強!』
≪御守りの作成及び傷病人の治癒である≫
「おまもりってあれか、あのスゲェ効力の呪符の事か?」
『そうだよ! あれはね、ダーカが作ってくれたとくべつのなの!』
≪応。あれは主作の特別品である≫
「眷属様が傷病人の治癒が出来るってことは、やはり神殿の方に引かれたのかもしれないな」
昨日は夜になっても魔道具についての検証が行われていたが、早々にレイシュが寝てしまった事で黒子狐もそばに丸まって動かなくなってしまったため、お開きとなったのである。
朝食の席では、昨夜は不完全燃焼だったとばかりに、今度はレイシュの生い立ちについてが根掘り葉掘り聞かれていた。
ヒューゴは眷属の勉強内容に興味津々だったが、グレンは純粋にレイシュの事が知れるのを楽しんでいたのだ。
「それなら確かに、魔素溜まりに行って浄化するのが修業の内容で合っていそうだな」
「そうだな。レイシュ、昨日ヒューゴと少し話したんだが、お前たちの言うところの修業のために、魔素溜まりを潰していくのが有力だって結論になったんだ。魔素の濃度が高い所へ行けば、ついでにレイシュの減った魔力も早めに回復出来そうだし。どうだ?」
『! いいとおもう! ぼく、しゅぎょうしたい!!』
≪坊は修業を希望している≫
「よし。決まりだな。レイシュも長時間人型になれる方が色々楽だろうし、食い終ったら必要なモン買い出しに行くか。お前に合う装備品も揃えねぇとな」
『うん!』
≪諾≫
なごやかにこれからの予定を立てていたグレンとレイシュに、しかしヒューゴの浮かない声がかかる。
「……おいグレン、眷属様が人型になれることは、隠した方がいいんじゃないのか」
「ああ? もちろん獣型から人になれるなんて事、言いふらすつもりは無いぞ? 俺の親戚とでも、」
「そうじゃない。獣の姿のままでいた方が良いという意味だ。あとお前の親戚設定は無理がありすぎる」
「……理由は?」
「たぶん、眷属様は呼び出した連中に探されている。どういった状態で取られた神の力とやらが保持されているかは知らないが、それを生み出せる存在を放っておくとは考えられない。どこが動くかは解らないが、少なくとも捜索の目は人にしか向いていないだろう。亜人でも獣人でも同じだが」
「それもそうか……パッと見でペットか使役獣にしか見えないままのほうが、レイシュは安全という事だな」
「そういう事だ。眷属様はそれでもいいか?」
『ぼく、もともとけものだったからだいじょぶだもん。それでいいよ』
≪諾である≫
◇
「アーレンに鳥を飛ばす」
「アーレンに?」
「ああ。アイツなら、最近の魔素溜まりが増えてる場所を把握しているだろう。それから、出来れば宮殿と王宮の動きが知りたい。やみくもに動き回るのもなんだしな。情報をまず仕入れようと思う」
「……話すのか」
「ある程度はな」
朝食の後。
レイシュがだーちゃんと遊んでいる横では、男2人が真剣な顔で話し合いをしていた。
グレンは、レイシュを呼び出した者の真意がわかるまではそれらと接触をさせない判断を下し、ヒューゴもそれを支持していた。
「それじゃあ待つ間、近くの魔素溜まりに行ってみないか? 聖騎士の派遣が順番待ちになっているせいで、魔物が湧いている場所があると先日の学会で小耳に挟んだ。調査に時間を食っても2,3日で行って帰れる場所だ。ギルドに魔物の討伐依頼を出そうかと言っていたから、研究用だと言って俺の名前で依頼を飛ばしておいてやる。俺も行くからな」
「良い考えだが……別に依頼にしなくても、この辺りの魔物なら俺一人でいけるぞ?」
「実際に魔素溜まりの浄化をする現場を見たいんだ。聖騎士のやり方と何か違うかもしれないからな」
「それならまぁ……レイシュが嫌がる事はするなよ」
「解っているさ。俺はまだ死にたくないからな。せいぜい役立つことを主張して恩を売っておこう」
予定が決まり、2人は話を切り上げ立ち上がった。
気が付いたレイシュがくっつこうとするのを、グレンは一撫でしただけで身を離す。珍しい態度に、幼獣は首をかしげる。
『グレン、どこかいくのー?』
≪いずこへ≫
「ちょっとギルドへ行ってくる。レイシュは留守番していてくれるか?」
『いっしょにいっちゃだめ?』
≪同伴の可否を≫
「今回は大人しく待っててくれ。仕事を受けてくるだけだからな。数日分の買い出しも終わらせてくる。そうしたら出発だぞ」
『むぅ……わかったよぅ。まってるから早くもどってね』
≪理解。早期の帰還を望む≫
「ああ、任せておけ。ヒューゴ、行ってくる」
「俺の分の買い出しは必要ないからな」
「了解」
マントを着込み出かけていくグレンを、しっかり玄関まで見送ったレイシュは。
部屋に戻った瞬間、邪魔者は消えたとばかりに目を爛爛と輝かせた変質者にあっさり捕まる未来を、その時は全く予期していなかった。
「捕獲ーーーっ!!」
『キャヒン!』
≪何をする貴様!≫




