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飛ばされフェネックは彷徨う 6.5 side???

 


  一人と1匹が魔の森を離れてから数日の後。

 簡素な旅装束に身を包んだ3人の男達が、街道の切れ目に佇んでいた。

 マントから覗くメダイヨンには、交差した剣と盾を背景に、月桂樹を戴いた竜が刻まれている。神殿騎士団の記章だ。


「本当に、ここに聖人様がいらっしゃるのですか?」

「いや、わからん。ただ、魔素の濃い場所に飛ばされている可能性が高いという事だからな」

「ここだけでは無いのだろう?」

「ああ、極秘の事だからあまり人数は割けないが……各地の目ぼしい場所に分隊が向かっているようだ」

「どこでもいい。ご無事でいるといいのだが……」

「本当に。……さ、無駄話は終りだ。行くぞ」

「おう」

「はい」


 先頭の男が灯りの魔法を唱え、暗い森へと分け入っていくのに、後の男達も辺りを警戒しながら、剣を片手に続いていく。


 パキパキパキ……

 ギャーギャー

 グルルルルル……

 キャッ、キャッ、キャッ……


 遠く近くから、魔物の動き出す音が響いてくる。侵入者に気がついたのだろう。

 魔の森の名は伊達ではない。高価格帯で売れる素材を持つ魔獣や魔物が、ごろごろと徘徊しているのだ。高価という事は、希少価値がある、すなわち討伐数が少ないということだ。つまり、単純に強い。

 一般的に、シルバーランク以上の冒険者が、徒党を組んで探索に赴く場所である。


「このような場所に……お一人でいるというのか……」

「おい! ブルガだ! 一匹、いや二匹来たぞ!」

「……他の魔物が来ないうちに始末するぞ」


 まだ森の浅部だというのに早速襲い掛かってきた、家畜の牛に似た魔獣キラーブルガを続けて倒し、男達はため息をこぼして、目を見交わした。

 一応は冒険者のゴールドランクに相当する白竜騎士団に所属しているからこそ、こうしてさほどの苦労も無しに進めているが、普通の力しか持たないものが立ち入れば、半刻と持たずに殺されてしまう。

 はたして、このような場所で無事にいられるほど、聖人様とはお強いのだろうか?

 思うことも言いたいこともあるがそれらをぐっと飲みこんで、居るかどうかも解らない人探しに、3人はより魔素の強い森の深部へと足を進めるのだった。




 ◇




 そもそもの話が、なぜこの魔の森くんだりまで男達が来ることになったのか。

 それは、一月前の王城での閣僚会議にまでさかのぼる。

 会議の内容が、ここ最近の魔物達の増加、各地の飢饉や洪水、はては他国との睨み合いの進捗までも議題に上るなか、出席していた金竜騎士が言われたそうだ。

「最近の神殿は、高貴なる者達への奉仕に力を入れており大層結構な事だが、他の憂慮事項にも、同じ意気込みでぜひとも尽力願いたい」と。

 言い換えれば「貴族に取り入って私腹ばかり肥やしていないで、魔素溜まりの一つでも壊して魔物被害を減らせ」という事だ。

 怒り心頭で帰ってきた金竜騎士に話を聞き、神殿の上層部も腹を立てたのは言うまでもない。

 そもそも魔素とは、この地のどこにでも満ち溢れている要素だ。魔法を使うために必要であるから、生活する上で欠かせないものである。

 しかし、あまねく地に満ちているうちは良いが、これに何かの拍子で偏りが現れ、乱れが出てくると、こごってしまい極端に濃度の高い場所が現れる。それが魔素溜まりだ。

 魔素溜まりは放置すると、辺りの魔素を取り込んでいっそう大きな物になっていく。すると、傍に生息する生物や低脅威の魔獣を変容させ、強大な魔獣へと変えてしまうのだ。

 この魔獣がさらに繁殖し、更に能力が増し種族として確立した物を魔物という。

 なので魔素溜まりの破壊は急務なのだが、それを解消できるのは、聖魔法の浄化が使える聖騎士だけだ。よって、神殿は魔素溜まり発見の一報を受けたら、その都度騎士の派遣をしているのである。

 確かに、最近は魔素溜まり発見の知らせが増えていた。しかも、増大するまでが早く、今までは1人で赴いていたものが、複数人で処理しなければ消えなくなっている。

 小さいものであれば緑竜騎士でも対応できるが、そのような事が各地で頻発しているのだから、最近は白竜騎士の半分ほどまでが魔素溜まりの対処に割かれており、人員が足らなくなるのは必然だ。

 だというのに、その必死な働きを侮辱されたのだから、上層部のみならず、神殿騎士団全体の反感を買ったも同然の発言だったという事だ。

 そこで。

 神殿が苦肉の策でとった方法が、聖人様の召喚だった。

 どのような魔術を用いてかは明らかにされていないが、歴史上、有事の際に聖魔力の強い聖人様が現れて国を救ったとの記述が、神殿の聖典には残されていた。それに活路を見出したのである。

 1週間ほど前のこと。

 とんでもなく強大な魔力の発露が、大神殿からなされた。聖魔力を感じ取れる神殿の者達は、聖人様がいらしたのだと察し、その清浄かつ豊富な魔力に皆で喜びあった。

 ところが。

 いつまでたっても、大聖堂から披露目がなされなかったのだ。

 不審に思い始めたとき、金竜騎士よりいくつかの分隊に、極秘の指令が下されたのである。

 聖人様を探し出し、お連れしろ、と。

 指令には関わりが無いからと詳しいことは聞けなかったが、聖人様は召喚の場には現れず、強大な力を帯びた大きな魔石だけが落ちていたらしい。

 なんらかのアクシデントによって、召喚の場より弾かれてしまったとの結論に至り、魔石ができるほど魔力を放出したのならば、空に近い魔力を回復するため魔素溜まりに飛んだ可能性が高い、との意見が出た。

 魔素溜まりは強い魔物も集まるが、魔素切れの症状が出た者も惹かれるのである。

 そういった理由で、今解っている中でも特に魔素の濃度が高い場所に、騎士団の分隊がそれぞれ向かうことに決まったそうだ。

 召喚術は神殿の秘術であるうえに、国や他国に気取られてしまったら、聖人様の身柄が押さえられてしまう。よって、秘密裏に捜索が行われる運びとなったのである。

 とはいえ、どういう人物、種族なのか、性別すら不明の人物の捜索となると、海に落ちた真珠を探すようなものだ。それでも、見つけない訳にはいかない。

 各地に散って、何でもいいから異変のあった場所を聞きとり、地道な調査をこなすしかないのだ。

 過酷な人探しの始まりであった。




 ◇




 ギルド発行の地図を見ながら、当て所もなく森を彷徨うこと10日。

 そろそろ深部に入るしかないか、といった所で、斥候に出ていた男が焦った様子で戻ってきた。


「隊長、まだわりと新しい焚火の後がありました! ここから西に向かった川沿いです。規模からいって、1人から2人で野営をしたようです」

「何! ……ここで単騎となると、絞られるな……冒険者か?」

「他にも痕跡が無いか探そう。……当たりだといいが」


 魔の森の深部に踏み込める者は限られている。何の用かは知らないが、ギルドに問い合わせれば、立ち入った者の情報も聞けるだろう。

 まだ、ここが聖人様の参られた場所だと決まったわけでは無いが、なんにせよ持ち帰られる情報が見つかっただけでもありがたい。

 待機していた2人は、手早く荷物をまとめて立ち上がった。

 覚悟していたよりも、ずっと早く任務が終わるかもしれないとの希望を抱きながら。






冒険者サイドランク

アイアン:駆け出し ブロンズ:一般 シルバー:中級 ゴールド:上級 プラチナ:上級以上のごった煮。ピンキリ

神殿サイドランク

緑竜聖騎士:≒シルバーランク。町中の神殿警備 白竜聖騎士:≒ゴールドランク。偉い人達の護衛任務。緑竜を束ねる 金竜聖騎士:≒プラチナ。教皇の私兵。交渉役で王城に出向してたりもする


まぎらわしくてすいません。語感で選んでたらこんなことに…


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