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第1章~師団長会議~ー3節:作戦会議

今回で第1章終了です。

 ある程度、帝国に侵攻することに関するメリットについて話し合っていたが、ここで教皇や師団長はあることに気が付いた。


 それは、自分たちの私利私欲のために(本人たちはそうは思っていないが)帝国と戦争を起こす口実がないということに気が付いたのだった。

 無私の精神がある本当の聖職者たちならば、この時点でというよりもっと前の時点でこの戦争を起こす案を棄却しているはずなのだが、無私の精神の真逆つまり強欲な考えを持つ聖職者たちはどうにかして口実を作り、戦争を起こす方向に舵を切ったのである。




 「教皇陛下。大変申し上げにくいのですが、帝国へ攻め入るための口実がございません。このまま戦争を始めてしまえば、周辺諸国や我々の教徒からの手厳しい批判にさらされることとなりましょう。なぜなら、意味もなく戦争を始めてしまえば、戦闘狂のようなイメージを与えてしまうことになりかねませんから。」


 東方師団長ペラルゴニーはそう進言した。口実を作る理由が私利私欲の塊に見られるということではないということがいかに彼らが自分の強欲さにおぼれているのかを物語っているだろう。


 「安心しろ、ペラルゴニー。ちゃんと策は考えてあるのだ。帝国皇帝ゲベートに無理を言って作らせた大聖堂が帝国首都(カイザポリス)にある。一応の管轄は教会側にあるから、そこを破壊してその責任を帝国側に押し付ければ難なく口実の一つや二つ作ることができよう。」


 「あはは~。さすがきょーこーへーか。よく考えているね~。じゃあ、その大聖堂の破壊の任務は私の部下にやらせるよ。」


 「ちょっと待ちなさいよ。あの大聖堂には、大聖霊アルケー様がいらっしゃるのではなかったですか?その聖堂を破壊してしまっては私たちに不利ではありませんか。」


 中央師団長プリムラが危惧したのは、大聖堂の破壊に大聖霊アルケー・マギアを巻き込んでしまわないかということだった。プリムラは学園都市での研究により、魔法には密接に大聖霊の力が関わっていることを知っていたので、少し焦ったのであったが、そのことは言わなかった。

 しかし、ほかの師団長にとってはそのようなことは些細なことらしかった。


 「あ、そっか。でもそれも簡単だよね。私が回収してイグレシアの教会に戻っていただければ問題ないでしょ~?それも任務の一つと考えるよ。」


 そう西方師団長カスミが言うと、今までの議論を聞いていたペラルゴニーは議論をまとめにかかる。


 「今までの議論を踏まえて、帝国との戦争の口実は、我々が大聖堂を破壊し、その責任を帝国側に押し付ける。ということでよいですね。加えて、大聖堂の破壊と大聖霊の保護は西方師団長カスミ・クシナダがその任務を受けるということでよろしいですね。」


 ほかの師団長は口をそろえて各々了承の返事をする。


 このようにして、歴史に名を刻むこととなるカイザポリス戦役の直接の原因となった、大聖堂襲撃事件の概要が決まったのである。




 師団長会議が始まった時には高かった日が、広い空を赤く染めていた。もうすぐ時刻は群青が空を覆う頃合いである。イグレシアの街で鳴いているカラスの群が、これから起こる大きな戦争への不安を物語っている。そこに住まう住人たちは何とも言えない不安を感じながら、夕食の準備に取り掛かるのであった。


 そのころ、会議では何が話し合われていたのかというと、どのように兵を動かすのかということであった。

 フェーンガーテン地方で最も広い国家である神聖イグレシア教国は、東の国境を20~30の小国からなる東方諸国と接していた。もちろん、こちら側から攻められる可能性がゼロであるということはないので、東方師団とそれに従属する兵8,000が東方への備えとして残されることに決定した。教国国軍の兵力の総計はおよそ100,000なので、その残りの兵力を、首都の防衛軍としておく分を除いて、カイザポリスの攻略に用いることになった。ほとんど総力戦である。


 「我が東方師団が、万が一の東方諸国からの攻勢に対抗する勢力だということは承知いたしました。カイザポリスの攻略軍はどのように編成するのでしょうか。教皇陛下。」

 「カイザポリスの攻略には、国軍ほとんどの戦力を用いるつもりじゃ。おそらく敵方は首都の防衛に死力を尽くすであろうから、この戦力だけでは足りないくらいなのじゃが。それと、南方からの攻勢の可能性も捨て切れぬ故、この首都イグレシアにはわしと南方師団の10,000が残る。この軍は救援があっても最大で2,000程度しか動かせぬことを注意せよ。」


 教皇が戦力が足りないと思っているのに戦争を仕掛けた理由は、教国中央師団を始め、西方師団や南方師団の強力な魔導士部隊の攻撃力によるものである。教国は魔法による攻撃を得意としているのだが、魔法を防御する術は物理的な攻撃を防ぐ手段よりも少ない。さらに、多人数で詠唱する合成魔法にもなると、それを常に警戒している人物でなければ防御することはほとんど絶望的である。従って、魔法の扱いに習熟しておけば、多少の人的不利でもあまり戦術的な問題にはならないのである。


 「きょーこーへーか!アタシ達の西方師団はどうしたらいいの?」

 「西方師団には首都の防衛の任につかない南方師団と合同で、カイザポリスの南側からの包囲を頼みたい。おそらくそれほど長くは持つまいて。物資の支援は南方師団と東方師団で行う故、物的損耗は気にしなくても良い。」

 「わかったよ!きょーこーへーか!」

 「私はどうしたらよいでしょうか。陛下。我々中央師団も南側からの包囲をしたらよいでしょうか。」

 「いや、中央師団は北方師団と合同でカイザポリスの東側からの包囲を頼みたい。カイザポリスは北と西を山に囲まれておるから2方面からの包囲で十分である。北方師団7,000だけでは心許ない戦力じゃから、中央師団13,000もこの包囲網に加われ。」

 「承知いたしました。必ずや勝利を手に入れて見せましょう。」




 こうして、教国側の開戦準備は整った。

 「リンドウに今回の会議の決議、それと、これからの戦争の作戦を伝えておいてくれたまえ。」

 教皇は部下のものに北方師団長リンドウに決議を伝えるための書簡を作らせ、送らせた。


 カラスが鳴いていた教国首都イグレシアはすっかり闇にのまれた。あたりは星の瞬きがきらめいている。この日、たまたま外を歩いていた住人が空を見上げたところ、きれいな星空が広がっていたという。しかし、彼が気が付かなかったのは単に星に興味がなかったからだろう、北極星だけには真っ黒な雲がかかっていたのである。


 教皇は各師団長に自分の街に帰ったら今回の会議で決定したことを民に流布し、戦争の準備を進めることを命じ、師団長会議の終了を宣言した。

 次回の投稿は遅くなると思います。次回は2章~帝国会議~です。


 ヨーロッパ風の名前で始めてしまったので名付けに苦労しています。もし、考えてくださる方がいらっしゃったら感想にお願いいたします。<(_ _)> 2021/07/18

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