第1章~師団長会議~-2節:議題
暇な時間に登場人物について考えていたのですが、今出ている登場人物とその部下たちを考えるだけでも結構な人数の名前を考えなければならないのですね。
教皇ハイドレンジアの宣言により、師団長会議は始まった。
それは、彼ら以外の人にとっては、もはや子供が考え付いた悪だくみをどのようにして実行に移すかを話し合っているとしか取れないような拙劣たるものであったが、彼らは何とも思っていないようである。
教皇は下卑た笑みを浮かべながら言う。
「今回の議題なのじゃが、我々の領土は教団が成立した時よりもうんと大きくなっておる。しかし、どうも教団のこれ以上の発展を妨げるのではないかという要因があるのじゃ。」
教皇は一息置いてさらに続ける。
「わしが発展を妨げると感じるのは、シュッツハイリガ―帝国じゃ。帝国がなぜ教国領に突き刺さるようにして首都カイザポリスを建設したのだと思う?わしは、カイザポリスを拠点に教国領を奪取しようと考えているからだと考えておるのじゃ。」
「確かに、そうですわね。そうでなかったら、教国領に囲まれた土地に首都なんか築きませんわ。」
中央師団長プリムラは納得したような顔で教皇に同意する。
東方師団長ペラルゴニーは、帝国首都が教国領に囲まれるよりも前に建設されたことを知っていたが、そのことを頭の片隅に置いて教皇とプリムラの話に混ざる。
「それでは今回の師団長会議の議題は、帝国首都カイザポリス攻略のために派兵するか否かということでよろしいですか。」
「ああ、それで構わんよ。」
と、教皇は応じる。
さて、このあたりで言及しておかなければならないことが二つある。
一つ目は、帝国の名称である。
鋭い読者の方ならもう気付いているかもしれないが、帝国の名称は戦前と戦後で変わった。
戦前の帝国の名称は皇帝一族の家名がそのまま帝国の名称として使われていた。しかし、この戦役の後、3代皇帝がこの惨憺たる記憶を忘れないために、序文でも書いたようにプライド帝国と名称を変えたのである。
二つ目は、カイザポリスがどのようにして教国領に突き刺さる状態になったのかということである。
カイザポリスは第2代皇帝のとき、現在第2首都となっているトールから遷都という形で、トールの東に行った山の麓に建設された。この戦役のおよそ40年前である。もともとは教国師団長会議のメンバーが考えていたように、東に領土を広げるための拠点となるはずであったが、それよりも先に教国の領域がカイザポリス周辺に隣接したのである。
ここからは攻撃の拠点というよりは防御の拠点となり、さらに、3代皇帝は第2首都と帝国首都の間に絶対防御の要塞、フラクグラードを建設したのであった。
そして、戦役の6年前、リンドウの街を含むフェーンガーテン地方北部を教国が獲得したことにより、カイザポリスと周辺は教国領に突き刺さるような形になったのである。
話を戻そう。議題は「帝国首都攻略への派兵の可否」であったが、言うまでもなく、この場にリンドウがいないため、全会一致で可決された。
いつの時代も欠席者には厳しい世の中である。
議題は、戦争に勝利したらどうするのかの話に移る。
戦争は悲しみを生み出すが、同時に上手く立ち回った人間や国家には富が舞い降りる。
「きょーこーへーか!」
と、西方師団長カスミが間の抜けた声で問う。
「カイザポリスを手に入れることができたらどうするの?」
「その時は、降伏勧告を行うつもりじゃ。もし降伏勧告に従わないのならば、トールまで出向いてそのまま帝国を滅ぼしてしまえばよいだろう。かの国は工業が発達しておる。そこの工業製品は非常に良い性能を有しておるから、輸出すればかなりの稼ぎになるじゃろうて。」
教皇は全く聖職者らしくない返答を返した。
工業製品は高値で売れる。また、それの生産を可能にする鉱物資源も帝国領内には豊富に存在する。その鉱物資源を売るだけでもかなり大きな富になるのだ。そんな金のにおいがする鉱脈を目ざとい教皇が放っておくわけがない。
工業製品だけが狙いではない。イグレシア教団は建築物崇拝の教団である。教団は治めている土地に何か建設するときには、建設料、加護料、その他もろもろの料金を掛けるのであるが、戦争で土地が破壊されれば、それだけ多くの金が教団の懐、ないしは教皇の懐に入ってくるのである。
7つの大罪に強欲が連ねられていることは、このような事態が起きることを未然に防ぐような役割があるのかもしれない。知らなければ無いのと等しいのであるが。
今回の戦争は、このようにして、教皇と師団長たちの私利私欲が発端となって始まった。
民はいつでも不遇であり、為政者はいつでも自由なのである。
ヨーロッパ風の名前で始めてしまったので名付けに苦労しています。もし、考えてくださる方がいらっしゃったら感想にお願いいたします。<(_ _)> 2021/07/17