念話と自由と筋肉魔法
最初の念話のところでシャーリーとノアの会話が混じっているところを修正しました。
(さっきのはインチキですよね?)
宿まで案内してくれるというダルダリオンの後ろをついていくと直接脳内にノアの声がする。
「おお!」
驚きで声が漏れるが普段から感情が無いと言われているお陰で声量は小さく、前を行くダルダリオンに聞こえていないのは幸いだろう。
これも神の特殊能力だろうか?
自分も使いたいなと思い実践した。
(聞こえてますかああああああ!!)
「うわぁ!?」
ノアの脳内で叫ぶように思念を送ったところ上手く通じたらしい。
普段と違うあまりの声の大きさにビックリしたノアがその場ですっ転んだ。
「おや、大丈夫ですかな?」
「すいません、長旅で疲れていたらしくて」
「それはいけませんな。
シャーリー殿は大丈夫ですかな?」
「私はまだまだ元気だから大丈夫」
(私は大丈夫で済ませないでください。
いきなり大声で叫ぶなんて驚くじゃないですか)
(どれくらいで通じるか分からずについ全力でやってしまった……申し訳ない)
(まぁ、いいです……それよりも何でさっき魔法を使わなかったんですか?
あの火魔法は指を擦る摩擦で炎を出し、息を吐いて炎魔法っぽく見せただけでしょう。
風魔法に至って藁人形に息を吹きかけただけじゃ無いですか?」
(ノアはまだまだお子ちゃまだなぁ。
ここは魔法にかけては一番の都市でしょう。
そこの職員さんや居合わせた魔法使い全員が魔法と認めたんだよ。
だから、あれは魔法なの)
(納得は出来ませんが分かりました。
所でこの念話ならお喋りなんですね)
(何を言って……って確かに!
この会話なら口から発することが出来ない分、逆にスイスイと言葉が出て行く)
島を出てからのシャーリーを知っている者なら驚くだろう。
彼女は狩りとクラフトに没頭する余りコミュニケーション能力を無くしてしまった。
彼女が喋る時は必要な最低限のことを伝えるのみである。
それがどうだろうか?
この念話ならばスラスラと言葉が出てくる。
(暇があればこれを使って話しますか。
今のままでは社会復帰が難しそうですしね)
(社会復帰なんてしたくないわよ。
私は自由に生きていくって決めたから)
そう……彼女はこの一年間で何者にも縛られない自由な生活というものを知ってしまった。
家族も友人も勇者の仲間としての使命も関係ない。
自分の為だけに動く人生を。
そんな彼女からしてみると勇者の仲間という枠も街での生活も全てが堅苦しく感じていた。
(そんなに自由が好きなら記憶なくす前の僕の尻拭いなんてやめていいと思うんですけどね。
勇者も何も関係ないんでしょ?)
(それは逆だよ。
自由に生きようとしても必ず心のシコリになる。
何かしている時もふと頭をよぎるようになる。
そんな呪いのようなものに私は振り回されたくない。
だから、勇者達の旅は完遂させる。
私が自由に生きる為に必要なことなんだ)
(貴女がそう言うなら付き合いますよ。
私もここで島に戻ったら気になってしまいますからね)
「ふふ、ありがとう」
最後にシャーリーは声に出してノアにお礼を言ってその頭を撫でる。
ノアは為されるがままにしながらシャーリーと並んで歩くのであった。