シャーリーの大魔法(物理)
名もなき村を救った2人が次に向かったのは魔法都市サリトンでだった。
「おお、ここがサリトン」
「お姉ちゃん、珍しくテンション上がってるね」
「ここに来るのは楽しみだった。
私は魔法使いだから」
「それは良かった……最近魔法使った所を見たことないけど」
「全部聞こえてるからね」
「さぁ、早く中に入ろう!」
冷や汗を垂らしながらノアは都市の入り口を指差した。
船に積んであった本からの情報や普通では扱えない力を持つことから自分が神である自覚はあった。
しかし、シャーリーのお仕置きは神である自分を確実に痛めつける事が可能なので出来る限り喰らいたくはない。
そうして入り口に向かうと兵士から「待て!!」と止められた。
サリトンは魔法都市のために魔法に関する職に就いているものは出入り自由である。
黒のとんがり帽子に緑のローブ、更に黒いマントを着けている自分が止められる謂れなど無いはずだがとシャーリーは思った。
同時にノアの方を見て彼のせいで止められたのだろうと嘆息する。
やはり置いていった方がいいだろうかと思ったのだが、奥から現れた魔法使いらしいお爺さんがノアの肩をポンと叩く。
「君は前身から漲る魔力を感じるから通っていいよ。
そこの女性はそんな変装で誤魔化されと思ったかね?
本来は高位の武道家か何かなのだろう?
鍛え上げられた肉体を隠す事なく堂々としているのは見事だがね」
「いやぁ、それほどでも」
「お姉ちゃん、褒められてるけど違うから。
魔法使いじゃなくて武道家だろって言われてるから」
「むぅ……魔力を読み取れるなら分かるでしょ?
溢れんばかりの魔力が」
「いや、全然。
覇気は感じるが魔力は感じぬのう。
じゃからお主は武道家じゃろうと」
「お姉ちゃんはいま生命力とか体力とかそう言うオーラが強すぎて、カス程度にしか無い魔力は感じ取れないんだよ」
「なんと!
鍛え上げた肉体に真の実力を阻まれてしまったか!!」
「お姉ちゃん、物理は神を超えるのに魔法は並じゃないか……あ、そうだ!
魔法を使えば分かってくれるよ。
そうだよね、お爺さん?」
「論より証拠と言うからのう。
魔法を使えれば限りなく武道家よりの魔法使いと認めよう。
ここでは危ないからついてまいれ」
お爺さんに案内されて向かったのは門番達の訓練所であった。
あちこちに藁で作られた人形が置いてある。
「あの藁人形に向かって魔法を使えれば認めよう」
「お姉ちゃん頑張って!」
「らくしょー」
シャーリーはそう言って魔法を詠唱しようとする。
(久しぶりに魔法使うな〜魔力を集めて……ん?
私の魔力どこ?
なんか別の大きな力に邪魔されて分からない。
まぁ、詠唱すれば何とか……あれ?
呪文なんだっけ?)
己の強大すぎる生命力に阻まれて魔力を感知できない。
おまけに呪文も忘れてしまっていた。
(ど、どうしよう……そうだ!)
「何を棒立ちしておる。
やはり魔法使いというのは嘘か」
「今から火の魔法を使います……ふん!!」
シャーリーが手を前に突き出すと手から火炎が現れて一直線に藁人形に向かっていく。
「ば、バカな!?
魔力を感じさせぬ無詠唱魔法だと!!」
「更に風魔法……ふっ!!」
シャーリーが短く息を吐き出すと藁人形の頭が吹き飛んでいく。
「な、何という事だ。
このような大魔法は見た事がない。
数々の失礼な態度お許しください」
「分かればいい。
私たちはもう入っていいかしら?」
「もちろんです。
そして無礼を承知で頼みたい事がございますので後ほど魔術師ギルドに来てくだされ。
受付でダルダリオンに呼ばれたと言ってくださればお通し出来る様にしておきますので」
「分かった、任せて」
「ありがとうございます!!」
頭を下げてお礼を言うダルダリオンを背に上機嫌で街に入っていくシャーリー。
全ての種が分かっていたノアはその背中に冷たい視線を向けながら後についていった。