勇者の目覚め
「お姉ちゃん!」
倒れたシャーリーに向かっての上がる駆け寄る。
彼女の顔に手を当て腕を取って脈を確認した。
「し……死んでる?」
呼吸しておらず脈も動いていない……シャーリーは完全に事切れていた。
「そんな……嘘だろ!?」
「あのようにして強き者が一瞬で?」
エムザラとアートゥルもシャーリーがこんなに簡単に死んでしまうという事が信じられずに悪夢を見ているような気分である。
「当然でしょう?
私にとって人間など取るに足らない存在。
例えどれだかの力を持っていようが、加護のない人間の命を奪い取るなど容易い事。
貴方達が頼りにしている愚かな人間は死にました。
いい加減に私の言う事を聞いて本来のやり方に戻りませんか?」
創造神が再び3人に同じ質問を投げかける。
ノアはショックのあまり項垂れているだけだったが、2人の答えは決まっていた。
「いいや、いくら言われても答えはノーだね」
「我らの覚悟はそのように浅いものではない。
そして……シャーリーなら最後まで諦めることはしない」
そう言って再びエムザラとアートゥルが攻撃を仕掛ける。
2人の言葉は創造神には届かなかった……しかし、後ろにいた者には正しく伝わっていた。
「シャーリーなら……諦めない……」
その言葉を聞いたノアの瞳に光が宿る。
彼は自身が今まで得た知識をフル動員させて何か打てる手はないか考えた。
結果……彼はある人物に念話を送る。
ノアはその人物とは面識が無かった。
そんな相手に対して後で必ず説明をすると言う条件の元にあり得ない事を要求した。
相手に何かを要求するときには何故それが必要なのか?
それをする事でどんなメリットがあるのかを説明する義務がある。
それはシャーリーとの旅でノアが代わりに散々やってきた事であり、本人もそうしなければ絶対に相手は了承しないという事は分かっていた。
だが、この時焦っていたノアは会ったこともない人物にただ要求をしてしまった。
本来ならそんな無茶な要求は断られて然るべきであろう。
だが……ノアが念話を送った人物は自分にはもう必要ないからと快くその要求を了承した。
結果、その人物から放たれた光が一瞬でノアの元まで辿り着いて彼を包み込んだ。
念話の相手は魔王を倒した勇者カリス。
ノアが頼んだのは勇者の力の譲渡。
そう……いまここに新たな勇者が誕生した。




