エムザラの旅してきた理由
創造神に対して逆らうような言葉を吐いたのは邪神アートゥルであった。
彼は自らの意思で拘束具を取り払い力の封印を解いた。
「何をバカな事を言っているのです。
貴方には貴方の役目があるでしょう」
「バカは貴様の方だ……いや、かつての我もだな。
我は貴様の言う通りに暴れて封印されてというサイクルに疑問をもったことは無かった。
その生き方しか知らなかったからな。
シャーリーはそんな俺の人生を壊して各地を暴れる為ではなく、楽しむ為に回ってみないかと誘ってくれた。
その瞬間に我の目の前は明るくなった。
自由というものの素晴らしさを知った。
それを今更貴様に言われたぐらいで手放す事など出来ん」
「……愚かな事です。
人に絆されて自我を得た気分になるなどとは。
貴方達は役割の歯車です。
与えられた仕事をこなして世界を安定させていれば良いのです」
「うるさい」
次に創造神の言葉に反論したのはシャーリーであった。
その声には彼女が今までに見せたことのない怒気が含まれていた。
「あんたがどれだけ偉くて世の中のことを決めているかなんて知らない。
でも、誰かの自由を奪うというのなら私は絶対に許さない」
「お姉ちゃんがそう言うなら僕も答えはノーだよ。
記憶を失う前の僕がどうだとか関係ない。
エムザラと夫婦だったと言われても知らないものはどうしようもなあ。
今からもこれからもお姉ちゃんと共に歩む……それが僕が選ぶ自由だ」
創造神に向かって堂々と宣戦布告する3人を冷たい表情で見る。
創造神はその眼差しをエムザラに向けた。
「貴方は賢い選択を出来ますよね?」
その言葉にエムザラは目を瞑り拳をギュっと握る。
挫けそうな心を奮い立たせようとするが中々決心が付かない。
恐怖で押し潰されそうな心の中にパッと浮かんだのはシャーリーだった。
エムザラが本気で戦って負けた人間。
彼女はどんな困難も表情を変えずに解決していった。
自分の自由を奪おうとする者には容赦なく力技で解決していった。
そんな彼女が今度は自分の中の恐怖心を一つ残らず叩き潰していく。
エムザラがここまで付き合った理由。
憧れていた。
頼りにしていた。
一緒にいるのが好きだった。
そう気づいた時には心の中に恐怖心は無くなっていた。
彼女の心の中に住むシャーリーがそんな気持ちを全部吹き飛ばしていた。
「アタシも……アタシの自由を奪うものは許さない、
例え創造神が相手でも」
エムザラがそう告げるとやれやれと言った風にため息をつく。
「仕方ありません……可愛い我が子と戦うのは本意ではありませんが、その元凶となる人間を取り除いてからお話し合いをしましょう」




