世界と勇者の動向
「魔王になるって具体的にどうしたらいい?」
シャーリーが船の中でノアに尋ねる。
「えーっと、まだ情報を整理しているので待ってください」
ノアは本を読みながら答える。
この本はもともと船に備えられていたものに加えて、シャーリーが島を駆け巡って得たクラフトレシピなども軒並み本棚に入れておいた。
本棚の中には私は読めないが神であるノア本人なら解読できる本もあったらしい。
それらを読む事で記憶が戻るかと思ったのだが、今のところは全く戻った様子はない。
それでも自分自身のことを多少は理解したのはなんとなく分かる。
それは彼の喋り方に知性が伴ったことからも明らかであった。
「ちょっと現在の世界情勢を見てみますね」
ノアはそう言って目を閉じて何かを探るように手を動かす。
現在、彼は神の権能を使い世界の情報を集めて回っている。
数分経って情報を集めた時、彼の額に一筋の汗が伝う。
「これは……かなり不味いかもしれませんね。
勇者や魔王どころの話じゃないかもしれません」
「どう言うこと?」
「人間の世界、腐敗しすぎです。
それに加えて魔王が居ないにも関わらず各地で魔物達が活性化している兆候が見られます」
「私と別れてからの勇者パーティの動向」
「先ず、3ヶ月ほど貴女の探索に時間を使ったようですね。
その後に旅を再開するも意気消沈状態。
1人抜けた穴も埋めずに進んでいるので歩みが極端に遅いです。
……このペースで旅を続ければ手遅れになる場所も多そうですね」
ノアの言葉を聞いたシャーリーは目を閉じて考える。
正直な話、一年間離れていたことで人間世界に対しての思い入れは大して無かった。
政治が腐敗してようが関係ない。
国に頼らずに生活をすれば良いだけだ。
魔物の活性化?
大歓迎である。
それだけ彼女が求めるものが手に入るのだから。
しかし、カリス達の旅が遅れていることには一抹の責任を感じていた。
自分があの時に船から落ちなかったらもっと順調に旅が続いていたのではないか?
そうすれば世界はここまで乱れなかったのではないか?
本来の予定通りにカリスが島にたどり着いていたら?
早々に修行を終わらせて今頃は各地の問題が解決していたのでは?
そう考えると何かしなくちゃいけない気がしてきた。
「……決めた!
しばらくは勇者に先行して先にある村や街を全部助ける。
恩はバックれるかカリスに任せる」
拳を握って高らかに宣言する。
「えーっと、つまり……勇者に先行して厄介事を片付けておく。
そのときお礼をされるような事になったら、この逃げるか、少し後に来る勇者に命じられましたとか言って手柄を押し付けるってことですか?」
「そう、それ!
ノア、貴方は私の通訳ね」
「お姉ちゃんじゃ村人との交渉は無理そうですもんね。
仕方ないから代わりに僕がやりますよ」
こうしてシャーリーとノアは勇者に手柄押し付け大作戦をやっていくことを決定した。