邪神への願い
「う……む……」
アートゥルが意識を取り戻すと目の前には先程自分と戦った相手、シャーリーの顔が見えた。
「目が覚めた?」
「我にとどめを刺さぬのか?」
「言ったでしょ
力を削りにきただけだって」
「力を……削りに……」
そう言われて気が付く。
自分の身体に全く力が入らないことに。
「その腕に付けた腕輪。
それは修行の効率を大幅に上げる代わりに自身の能力を下げるという作用がある。
それを改良して効果を大きくしたもの」
「これが我の力を……」
アートゥルは腕輪をなぞるように触る。
「外そうと思えば外せる……けど、出来るなら私のお願いを聞いてから外してほしい」
「お前……いや、シャーリーの望みとは何だ?」
「いまから暫くしたら勇者一行がこの城に現れる。
貴方は邪神ではなく魔王として彼らと戦ってほしい」
「戦うだけでいいのか?
負けてほしいという願いではなく」
「ここまで手を出しておいて何だけど私は別に勇者達に勝ってほしい訳じゃない。
余りにもイレギュラー過ぎて勝負にならないから場を整えたいだけ。
それで負けるようなら勇者たちの努力不足だから知った事じゃない」
アートゥルの目から見てシャーリーは本気でそう言っているのだという事が分かる。
「この腕輪を付けるのが勇者と戦うまでで良いとは?」
「そのままの意味。
勝てば外して自由にすれば良いと思う。
負けても自分の死を偽装できるならやって逃げてから外していい。
力を使って暴れたいなら私がまた相手をする」
「我がいるだけで魔物達は活性化して人類を脅かすぞ?
それでも良いというのか?」
「その程度の魔物にやられるほど人類は弱くない。
アートゥルは見た目は人間にしか見えないから自由になったら各地を旅してみればいい。
魔物に怯えるのではなく、各地で魔物達を嬉々として狩りながら暮らす人々を見る事ができる」
「それは中々面白そうだ……いいだろう。
この腕輪、勇者達と一戦交えるまではしておいてやろう。
……その代わりに我からも願いが一つあるが良いか?」
「私で叶えられる事なら」
「全てが終わったらシャーリーが人間の街を案内してくれ」
「暴れられたときに直ぐに止めれるように暫くは見張るつもりだったから構わない」
「そうか!
それならば勇者との戦いにも楽しみが出るというものだ」
そこで初めてアートゥルは笑顔を見せた。
破壊と暴力を駆使している時以外で初めて笑ったかもしれない。
だが、アートゥルはその時に笑ったどんな時よりも遥かに清々しい気分になっていた。




