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熱望した戦いとその終わり

いつからだろうか?


シャーリーが戦いにおいて噛み合わないと感じ始めたのは?


無人島に流れ着いた頃は必死だった。


周りにいる弱い魔物を倒して食料にし、その肉の余りを餌にしてクラフトした釣竿で魚を釣り上げて命を繋ぐ。


そうやって少しずつ強くなっていったが、それでも島には自分よりも遥かに強い生き物が沢山いた。


特に空を我が物顔で飛ぶドラゴンなどはその最たる例であろう。


そこに並ぶ強さを手にする事が目標で必死に足掻き続けた。


その目標のお陰か、島を巡って様々な魔物を食べ尽くし、試行錯誤でクラフトした装備品を見に纏ったシャーリーは半年とかからずにドラゴンに勝てる様になっていた。


ドラゴンの肉は非常に美味であり、強さを得る効率が最も良かった。


この時点で味を追求する事が最も効率良く強くなる方法だという事に気がついたシャーリーはひたすらに竜の巣に潜ってはドラゴンを狩り尽くす。


最早ドラゴンですら彼女を苦戦させる生き物では無くなっていた。


1年経った時、とても届かないと思っていたノアの力がちっぽけに見えた。


それが傲りでも何でも無いことは一撃で昏倒させて記憶を奪ったことから証明された。


ノアと同じ神だというエムザラが襲いかかってきた。


彼女とは一見するといい勝負が出来ていたように見える。


しかし……どうやっても噛み合わないのだ。


自分の中にはまだまだ力が眠っている。


もっと相手が強かったらそれを引き出せたと思う。


でも、目の前にいる女神では自分の力を引き出すには至らないと結論づけたシャーリーは落胆しながら強化魔法を自身にかけていた。


久しぶりにカリス達を見かけた。


別れた頃から比べても格段に強くなっており、ユディバやデコバの力があったとは言え、人の成長速度ではあり得ないほどに強くなっていた。


それはゴーレムを遠隔操作して直接戦ったことで痛いほどに伝わってきた。


多分あの時点で彼らはメリッサを加えなくても魔王に届くほどに強くなっていたのだろう。


魔王という鏡がいなくても彼は間違いなく勇者だったと思えるほどに。


でも、それだけだった。


魔王を倒せる程度にしか成長出来ないのだ。


こうしていつからか諦めていた全力を出せる……噛み合う敵。


熱望していた相手が目の前に現れたのだ。


シャーリーが初めて噛み合ったと思う敵。


お互いに攻撃を仕掛けては捌いて防いでと何一つとしてまともに当たらない。


だが、その打撃音や踏み込み音、呼吸の音……その全てが噛み合った2人が繰り出す音は完璧な調和を元に作られた譜面から奏でられる音楽のようであった。


「ふふ……最高だね。

貴方には感じられる?

この素晴らしい音が?」


「何を言ってるんだ……少し出来るからと人間風情が調子に乗るで無いわ!」


「そう……貴方は感じることが出来ないんだね。

名残惜しいけど決着をつけようか」


シャーリーは戦いの中で自分のリズムとアートゥルのリズムが噛み合った事を喜んだ。


それ故に相手のリズムを深く理解してより良い音を奏でられる事を意識しながら戦っていた。


そして……彼女はアートゥルのリズムを完璧に理解してしまったのだ。


その後の展開は正に一方的なものである。


邪神が行う攻撃は全て先読みされて防がれる。


初めて繰り出す技も全て予知していたかの様に紙一重で回避される。


そして……シャーリーの攻撃は全て裏をかいて邪神に命中する。


受け流そうとしても、ガードしようとしても、回避しようとしても……全てが予定調和であるように。


周りに人がいてこの戦いを見ていた人達はまるでアートゥルの方からシャーリーの攻撃に当たりに行っているように見えただろう。


「くぅ……勇者でも魔王でも無い……ましてや神ですら無いというのに。

お前は一体何なのだ!?」


「人間だよ。

無人島でサバイバルして野生に目覚めたぐらいの違いはあるけどね」


「そ……そんな相手に我は負けるのか!」


「そうだよ。

神様なんて関係ない。

勇者とか魔王とかも関係ない。

自然界の掟通り……貴方が私よりも弱かった……負ける理由なんてそれだけだよ」


そう言いながらシャーリーの回し蹴りがアートゥルの顔にヒットして吹き飛んでいく。


「そうか……驕っていたのは我の方であったか。

我はシャーリーよりも弱かった。

敗れた理由はそれだけか」


吹き飛ばされながらそう悟ったアートゥルの顔は憑き物が落ちたようにスッキリとした表情をしていた。


そして、彼はそのまま壁に叩きつけられて意識を失うのであった。

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