メリッサの実力
その日の夜は無事に村を守れた事による祝宴が行われた。
村人達は思い思いに己の武勇伝を語り合い杯を傾けていく。
「これでこの村でやる事も終わりましたね」
「後は勇者が来てメリッサを連れて行けば万事解決」
「あの……本当に私で良いんですかね?
ジョンさんの方が私より遥かに強い気が」
「勇者パーティは現在、魔法を使えるのが勇者のみですからね。
賢者である貴女の力は必ず必要ですよ。
……それに、今の勇者達3人より貴女の方が強いですから問題ないでしょう」
実戦にこそ出していないがノアとエムザラの修行を受けつつ、木の実オイルを使って食事をしていたメリッサの能力は別れる前のカリス達を大きく上回っていた
「え?勇者様達より私の方が強いんですか?」
「私がそうなるようにとしておいたから……あそこには脳筋が2人いるから」
「どういう事ですか?」
「それはですね……」
メリッサの問いに答えるノアを見ながらかつての生活を思い出す。
魔法職であったのに毎日のようにやらされていた辛い筋トレを思い出し、シャーリーは珍しく顔を顰めた。
今となれば必要な事であったと思うが、それであの時の事を思い出した辛さが軽減されるわけではない。
未だに彼女の中ではマリアとカリンにやらされていた特訓は彼女の辛かった事ベスト5に入るのだ。
因みに一番は無人島でサバイバルし始めた頃である。
メリッサという魔法職が入れば彼女達は同じ事をするだろう。
そう考えたシャーリーは彼女達に先んじて辛くない修行を行っておこうという考えもあったのだった。
チラリとノア達の方を見ると、勇者について興味津々なメリッサが色々な質問をノアにしていた。
そこはそこで盛り上がっているんだなと考えたシャーリーがテントから出ると、驚いてビクっと跳ねる人影が見えた。
それは村人のジョンであった。
彼はまさかテントからシャーリーが出てくると思っていなかったのか、驚いて口をパクパクさせていた。
「何か用?」
シャーリーが話しかける事で漸く落ち着きを取り戻したジョンが姿勢を正す。
「今日のお礼を言いに来たんだ。
シャーリーのお陰で俺たちは自分達の身を自分達で守れるくらいに強くなった。
本当にありがとう」
「私は私の目的のためにやったから気にしないでいい」
シャーリーとしてはそこで話を終えるつもりだったのだが、ジョンはまだ立ち去ろうとしない。
「まだ何かあるの?」
「あ……その……シャーリーが良ければこの村にずっと住まないか?」
「この村に来たのは必要な事をしに来ただけ。
住むつもりはない」
「そ……そうか」
がっくりと肩を落として帰っていくジョン。
その背中を見送っていると唐突に真横から声がかかる。
「良かったのかい?
あの男は姉御に気があるみたいだよ」
「私は男女の仲に興味がない。
やるべき事をやるだけ」
「……そう言う気持ちなら安心したよ。
ノアが質問攻めにあって大変そうだから、もうそろそろ戻ってきてくれないかね?」
「分かった」
勇者の話をしていたはずのメリッサの質問はいつの間にかシャーリーの私生活や好みの質問に変わっていた。
「何で私の話になってるの?」
「えっと……お姉さまみたいな素敵な女性になりたいと思いまして」
「何をどう思って姉御が素敵な女性になったか知らんがやめといた方がいいぞ」
「僕もお姉ちゃんを見習うのはやめた方がいいと思いますよ」
「あんた達……覚えときなさいよ」
こうして4人でわいわいと話しながらこの日の夜は更けていくのであった。




