オイルの正体と価値
「最近身体の様子がおかしいんだが……何か知らないか?」
シャーリーのテントにジョンがやってきたと思えば、すぐに上記の質問をシャーリーにぶつけた。
「それは良い意味で?それとも悪い意味?」
「悪くはねぇな。
寧ろ調子が良すぎて怖いって話なんだが」
「それなら心当たりはある。
原因はこれ」
そう言ってシャーリーが取り出したのは最近村で流行っているオイルであった。
「それは俺の家でもお袋が使ってるけど只の調味料じゃなかったのか?」
「材料はこれ。
貴方達が取ってきた木の実から出来ている」
「ああ……あの木の実か。
結局あれは何だったんだ?」
「世の中には食べるだけで自分の能力を上げてくれる不思議な木の実がある」
「そいつは聞いた事があるが……まさか、俺たちが持ってきた木の実って」
「そう……この辺りの魔物は死んだ後にこの木の実を産み出す事がある。
それを集めてい栽培し、その能力を上げる力を抽出して効果をあげたのがこのオイル」
「そんな効果がこのオイルに……」
シャーリーの言葉を聞いたジョンは恐ろしいものを見るような目で手元にあったオイルを見つめた。
それはそうであろう。
このオイルの効果とそれを量産できるというこの村の設備を知れば大国から攻められる可能性もある。
そんな大きな存在でなくても、人がこのオイルの価値を知れば何を投げ打ってでも欲しがるものが現れるだろう。
このオイルにはそれだけの価値があった。
「このオイルの存在は完全秘匿としている。
木の実だけ奪っても仕方ないし、育てるには私が用意したプランターが無いと無理。
それにこれから村人達がこのオイルを使い続けるならどこの国がどれだけの軍隊を出してきても負けるようなことはない」
ジョンの考えている事を見抜いたシャーリーが補足を入れる。
「そうか……まぁ、俺も村の皆もあんたに賭けたんだ。
何があっても信頼するよ」
「そうしてくれれば嬉しい」
こうして納得したジョンは帰路に着いた。
ジョンがいなくなったのを確認していたのか、入れ替わりに今度はノアがやってきた。
「お姉ちゃんにしては珍しく沢山話してたみたいだね」
「ノアがいなかったし必要な事だから仕方ない。
今度から来た時はノアが帰るまで待たせるからね。
……喋りすぎて疲れた」
「今日は僕がご飯作るから少し休んできて良いですよ」
「それじゃお願いする」
そう言って寝床に潜っていくシャーリーの姿を確認してからノアは手慣れた様子でご飯の支度をしていく。
「なんで直ぐに出て行って手伝えなかったんですかね。
お姉ちゃんも必要としてくれていたのに」
鍋を煮込みながらポツリと呟く。
ノアはこの時間には誰も訪ねてこないだろうと思い、エムザラと共にメリッサの修行を見ていた。
だが、いつもより早く狩りを切り上げたジョンがやってきたのを感知して慌ててやってきたのだ。
テントの前まで来た彼は珍しくシャーリーが言葉を選んで説明しているところを目撃してしまった。
それを見ていたら何故か分からないが足が動かずに中に入るのが憚れたのだ。
そして気落ちした状態で入り、シャーリーに言葉を投げかけた直後に皮肉を言ってしまったことを後悔してしまった。
だが、彼女は全く気にせずに自分を必要としている旨を伝えてきたのだ。
それを聞いて重かった足は急に軽くなり落ち込んでいた気分も明るくなってしまった。
こうして、彼はご機嫌で晩御飯の支度をすることになったのだった。




