変化する身体
シャーリーが怪しげなオイルを配ってから更に2週間が経過していた。
最初に自分たちの身体の変化に気付いたのはこの間も前線で戦い続けたジョン達である。
戦闘を重ねていくうち魔物の攻撃に対する痛みが軽減されている感覚はあった。
これは経験を積んだジョンの能力が底上げされたからなのだが、シャーリーがオイルを配り始めてからは更にそれを実感するようになった。
最早魔物の攻撃に対して痛みを全く感じないのだ。
その為にカンチントンの3人組もサポートをやり終えた後、本来は癒しの杖で回復をするはずだったのだがその機会は無くなり暇を持て余すようになっていた。
その事が彼らの油断を誘ったのだろう。
3人組の中でもお調子者のチンが側にいた虎型の魔物を杖で叩いてしまったのだ。
とは言え、彼らはこれで魔物が起きるなど思っていなかった。
それ程に3人の力はただの村人であり、魔物にとっては正に蚊に刺された程の痛みもない……筈だった。
ゴキン!!
チンの放った一撃は魔物の頭にクリーンヒットして鈍い音を響かせた。
そのような一撃を食らった魔物は目を覚ますし、幾ら隠蔽の衣を着ているからといってもここまでやって気付かれない筈もない。
目を覚ました魔物はチンを爪で引き裂こうと腕を振り下ろす。
必死になりながらその一撃をガードしたチンなのだが、ここでも驚くべき事が起こる。
何とその魔物の一撃を杖で受け止めてしまえたのだ。
眠っている魔物への一撃は偶然で済まされるだろうが、魔物と互角の力比べが出来るのは偶然では済まされない。
ここまでの状況になると流石に呆けていたカンとトンも慌てて杖を持って魔物に殴りかかる。
彼らも大した効果は無いだろうと思ったのだが、魔物は2人の一撃を予想以上に痛がった。
その際に力が抜けた為に押し返したチンは隙をついて魔物の頭にもう一撃入れた。
「ぐおおおおおお!!」
その一撃で魔物は倒れて絶命する。
そう……最初の不意打ちの一撃を含めて僅か4撃で仕留めてしまったのだ。
「これって?」
「一体どういうことだ?」
「分からんがジョンの兄貴を手助けにするには十分だろ!」
この間もジョンは魔物と一対一で戦っていた。
戦闘経験の乏しいジョンは魔物と互いに睨み合い、少しずつ決定打を入れるという戦法をしているおかげでどうしても時間がかかってしまうのだ。
しかし、ジョンが引きつけて魔物の視野が狭くなっている瞬間を狙って3人組が不意打ちで攻撃を入れた。
隠蔽の魔法の効果もあってそれは鮮やかに決まって魔物をグロッキーにさせるには十分だった。
その隙を逃さずにジョンの剣が魔物の眉間を貫いた。
「これは……一体どういうことなんだ?」
悪い効果では無い筈だが自分たちの身体に明らかな異変が起きている。
「今日は引き上げるぞ。
シャーリーに聞かなくちゃいかん事がある」
『へい!』
こうして4人はいつもの時間を大幅に繰り上げて村に戻るのであった。




