野生化した村
その日から村人達の生活は変わった。
嘆き悲しむのはやめて自分達で村を守る……その意識を持って魔物を狩り、肉を集めて料理を食し、素材を集めてシャーリーに納品する。
更にシャーリーは料理の効果をあげる草や武器や防具に使える素材のスケッチを渡す。
この村は農業と林業によって成り立っていた。
その為に木を切ることはあるのだが、その木がどのような使われ方をするのか知らなかった。
また、普段雑草としか見ていなかった植物が薬草や武具の素材になると言う事も学んだ。
こうして村人達は戦力を増やしていったのだが、戦えるものばかりではない。
そう言った人達はシャーリーのクラフト技術を学ぼうと彼女のテントを訪れて手伝いをしていた。
シャーリーは歓迎もしないが追い出す事もしない。
言葉は少ないが無視する訳でもなく必要に応じて指導もしてくれた。
こうして防衛力の全く無かったはずの農村は自給自足で戦力を増強して行くというまるで野生の獣のような村へと変わっていった。
魔物の巣も少しずつ攻略していき、最早脅威でも何でもない……ただ刈り取る素材としか見ていなかった。
野生の村と野生の巣……勝ったのはより強い方だけと言う弱肉強食の世界である。
魔物の巣を攻略し意気揚々と村人達が帰ってくる。
彼らは喜びながら帰ってきたのだが、その理由は驚異から身を守れた事ではない。
大量の肉と魔物の巣という洞窟に眠る鉱石を掘り出し、新たな素材を得られた事に喜びを感じていた。
「先生!大量の肉と素材ですよ!!」
「またいっちょお願いしますよ!」
この頃になると名前を答えないシャーリーの事を村人達は先生と呼んで慕っていた。
そしていつも通りに帰ってきたのだが、いつも村の外に建ててあったテントが無くなっていた。
「あれ?先生はどうしたんだ?」
最初に装備をもらった村一番屈強な男が嫁に聞く。
クラフトに従事していた嫁は寂しそうな顔で言った。
「先生達はまた旅に出てしまったよ。
もう自分達で何とかなるだろう……この村はすっかり野生を取り戻して生存本能を高めたからって。
自分達で好きに生きていけって」
帰ってきた村人達は愕然としていた。
旅人である先生と別れる事は分かっていた。
しかし、こんな何の覚悟もしておらず礼も出来ないままだとは思わなかったからだ。
「待ちな!!」
慌てて何処に行ったかも分からない先生の後を追いかけようとする男達を女が止める。
「これが先生が残してくれたメッセージだよ」
「先生の……って、何だこれは?」
そこには様々なクラフトや料理のレシピが書かれていたメモが残されていた。
一部は見た事があるがほとんどの素材は見た事も聞いた事もなかった。
「あたしも最初は先生が何を言っているのか分からなかった。
でも、きっと先生はこう言ってるんだよ。
これらの素材が集まって自分達で作れるくらいにこの村を発展させろ……ってね。
どうだい?
こんな見た事も聞いた事もない素材を集めるのはあんた達には無理かい!?」
挑発するようにメモを持った女が言う。
狩りから帰ってきた男達はその挑発に乗るかのように叫ぶ。
「無理なんて事あるか!
先生は自分達でどうにでもやれる力をくれた!」
「そうだ!
俺たちならやれる!!
無理な事なんてあるもんか」
「うおおおおお!!
宴の準備をしろ!
力をつけたら早速次の目標に向かって動くぞ!!!」
焚き付けられた男達はやる気に満ちた目で叫び……そして、祝宴が開かれた。
この少し後にカリス一行が到着する。