カリス達への試練
「簡単に攻略されすぎてる気がする」
そう言って不満げにしていたのはシャーリー本人であった。
ダンジョンを作ると言っても大した事はしていない。
それっぽく穴を掘って各地から集めた魔物を突っ込み、各地点に宝箱を設置しただけである。
それでも破竹の勢いで進むカリス達に負けた気がして悔しいというのがシャーリーの弁である。
「いや、ダンジョンを攻略させて絆を深める作戦なんだからいいじゃないですか。
何かダメな理由があるんですか?」
「簡単に攻略されたら悔しい」
「それだけなら却下です。
余計な事はしないでください」
「いや、姉御の言うことも一理あるよ」
と呆気なくシャーリーの意見を却下するノアであったが、そこにエムザラが救いの手を差し伸べた。
「どういうことです?」
「今のあいつらの絆ってのは表面的なもんだ。
真の絆というのは困難を経た先に生まれるものだと思うよ」
「エムザラにしては鋭い指摘だと思います……が、何の影響ですか?」
「この間読んだ英雄譚にそんなシーンがあってね。
いや〜あれは中々に感動したよ」
普段の豪快な様子からは想像できないがエムザラは中々の読書家でもある。
こうして旅についてくる傍らで各地の街に寄った時には大量の書物を購入していた。
「という訳で死なない程度に試練を与えようと思うけど丁度良いくらいの魔物いない?」
「勇者達とデコバ、更にユディバで力の差が大きいですからね。
そこに全員が丁度よくピンチに出来る魔物なんて早々いないでしょ。
勇者側に手加減できてデコバとユディバを圧倒できる実力者なんて……」
そこまで言ったところでそれが出来てしまう心当たりが浮かんできてしまった。
「なるほど……それはありだね」
そして、その頭に浮かんでしまった人物のことをちゃっかりシャーリーに嗅ぎ付けられてしまったのであった。
♢ ♢ ♢
「ここが最下層かな?」
順調にダンジョンを攻略していたカリス達は遂にダンジョン最下層に到達していた。
ダンジョンの最奥に眠る宝には必ずそれを守護する番人がいる。
これは英雄譚で語られている常識ではあるが、カリス達は今までにこうした宝のあると言われるダンジョンを攻略したことがなかったので半信半疑であった。
だが、そこには奥の扉を守護するように人の姿をした何かが座っていた。
全身を黒装束で覆い顔に何の素材出てきているのか分からない仮面をつけた人物……それはカリス達が近づくと立ち上がり構えながら挑発するように右手をクイクイと動かした。




