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村にやってきた2人

暫し時を遡った村周辺。


この地を歩く人影が二つあった。


1人は均整の取れた美しい体を持つ、腰まで届く赤い髪を持つ女性。


黒いとんがり帽子に緑のローブ、更に背を覆う黒いマントはザ・魔法使いという格好であるが何故か腰には杖ではなくフライパンが下げてあった。


更にローブやマントの合間から見える鍛え抜かれた身体は、彼女が趣味でその格好をしているだけの武道家だろうと周囲の者に思わせる。



そして、その横を歩くのは黒髪を目が隠れるほどに伸ばした10歳くらいの男の子である。


何処にでもいる普通の少年のように見えるが、自分の身体より少し小さい程度の大きさのリュックを軽々と背負っている事から只者でない事が分かるだろう。


そんな2人が偶々目について立ち寄った村は……一言で言うと悲壮感に溢れていた。


人々はこれから先起こるであろう不幸に嘆き苦しんでいた。


そんな村人の一人に事情を聞いてみると、この近くに魔物の巣が出来始めており、国の討伐隊が間に合わなければ自分たちの明日は無いと嘆いていたのだそうだ。


逃げる事を提案しても生活の基盤があるこの場所を捨てれないという村人達。


「どうする、お姉ちゃん。

助けてあげる?」


少年……ノアが女を見上げて問いかける。


女性……シャーリーは不愉快そうな顔でその問いに答える。


「そんなの決まってる……自分たちの身は自分たちで守ってもらう。

先ずは全員の気力を取り戻させるから準備して」


「りょーかい!」


シャーリーはノアにそう指示して村の外に出て行く。


ノアも村の入り口付近でリュックを下ろし、中から様々なものを取り出し始める。


「よし、出来た!」


そう言ったノアの前には焚き火とテントが置かれていた。


それと同時に肩に何か担いだシャーリーが帰ってくる。


「お待たせ」


「ううん、僕もいま出来たところだから」


「これ、さっき取ってきた獲物」


そう言ってシャーリーが肩に担いでいたものを地面に置ろす。


それは1匹のオークであった。


「中々良い型のオークが取れたね」


「早速始めるよ」


「そう言うと思って準備しておいたよ」


ノアはそう言ってシャーリーにナイフを渡す。


それを受け取ったシャーリーは鼻歌混じりにオークを解体していった。


さして時間もかからないうちにオークは綺麗に解体され、肉、骨、皮とパーツ毎に分類される。


そのオークの肉を腰に下げたフライパンに油を引いて焼いていく。


その途端に辺り一面に美味しそうな匂いが広がる。


その匂いは村の中まで届いていたのだろう。


村の中からシャーリーの様子を見るものが現れ始めた。


「あんた達こんなとこで何やってるんだい?

村の中には宿屋もあるし、広場もあるからそこで休んでもいいんだよ」


そんな中で人の良さそうな恰幅の良いおばさんが2人に話しかける。


シャーリーは焼いている肉から視線を外さずに


「私たちはここで良い。

そんな辛気臭い村にいても気が滅入るだけ」


と答えた。


「あ、口が悪いけど悪い人じゃないんで気にしないでくださいね」


少年がフォローする中で焼いた肉を更に盛りつけたシャーリーがおばさんに手渡す。


「こ、これがどうしたんだい?」


「お腹いっぱいに美味しいものを食べれば暗い気持ちは無くなる」


「皆が落ち込んで元気がないようだから皆さんで食べてくださいって言ってるんですよ」


言葉の足りないシャーリーの通訳をしたノアの話を聞いておばさんはフッと笑って皿を受け取った。


「たしかに誤解されやすいだけで良い子みたいだね。

どれ、頂くとしようか。

……う、うまあああああい!

なんなの?こんな美味しい肉初めて食べるわ。

それに身体の中から力が漲ってくるような……あんた!

この肉は一体何なんだい?」


尋ねるおばさんにシャーリーは解体場の方を指さす。


そこには肉、骨、皮に加えてオークの頭がどんと置いてあった。


「ひ、ひえええええ」


「魔物だからって心配しなくて良いですよ。

食べられるのは僕たちで実証済みですし、お腹も膨れて力も湧いてきたでしょ?」


「はい、次焼けた」


「周りで見ている皆さんもぜひ食べていってください!

美味しさは保証しますから!!」


最初は遠巻きに見ていた村人達だったが、最初にオーク肉を食べたおばさんのリアクションと終始食欲をそそる匂いに我慢できずに一人また一人と皿を受け取っていく。


そして、全員がその美味しさに笑顔になって気力を取り戻していった。


オーク肉を全て調理し終わった後もシャーリーはずっと手を動かしていた。


そして村人の中で一番若く屈強な男に出来た物をポイっと投げ渡した。


「これ使って」


それはオークの骨で作った槍であった。


丸く削った木の先にオークの骨が取り付けてあるだけの簡易的な槍ではあるが、接着面はどういうテクニックを使ったのか全く外れる気配はない。


更にその彼に皮の鎧を渡す。


これはオークの皮と近くの植物を交えて作ってきたものだ。


「あんた……これは一体?」


「貴方達、戦う。

私、作る。

みんなハッピー」


シャーリーは胸を張って答えるが村人達には全く意味が分からない。


一向に話が進みそうにないためノアが前に出てくる。


「ええっと、食べてもらって分かったと思いますが彼女……お姉ちゃんの作る魔物ご飯は食べると力が湧いてきます。

更に彼女に素材を持ってくると、このように武器や防具も作る事が出来ます。

僕たちは暫くここに留まるつもりなので、貴方達で魔物を狩ってきてご飯を食べて力をつけ、素材を集めて装備品を揃えて魔物の巣を殲滅しませんか?

って言いたいんですよ」


「そういうこと」


ノアの説明に満足そうに頷くシャーリー。


村人達はその様子を呆気に取られたように見ることしか出来なかった。

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