互いに信頼できる関係を
「ただいま〜女将さん、先にご飯ちょうだい」
「マリア、失礼だよ。
すいません……ただ、空腹なので先にご飯を頂けると助かります」
「私も先にご飯が欲しいです」
「俺も頂こうかな」
ダンジョンから帰ってきたカリス達が食堂の席に座ってワイワイと晩御飯を頼み始める。
ダンジョンの難易度は高く、見たこともないような強敵も多かった為に心身共に疲れ果てていた。
「あ、わたしはお手伝いしたいので軽く身体を流してきますね」
そんな中で全く疲れていない様子のユディバは自室に備え付けられているシャワーを浴びに部屋に戻る。
言葉通りにすぐに戻ってきたユディバはそのまま厨房の奥へと消えていった。
「本当に人は見かけによらないもんだね。
あんな見た目でアタイらよりもタフだなんてね」
「魔物を見たら泣き出しそうな雰囲気なのですが……そんな事は全くありませんでしたね」
(ブラックドラゴンである我を一目見ても恐れずに交流を続けた人物であるからな)
マリアとカリンの会話に心の中で答えるデコバ。
彼らが会話している通りにユディバは姫とは思えないほどに神経がタフであり、良くも悪くも図太かった。
それはこの宿屋を建てる前に軽く行った戦闘訓練にも表れていた。
どれだけ身体能力が高くとも、自分に攻撃が来ると分かった時に普通の女性は身体を固くして目を瞑ってしまうだろう。
だが、ユディバは冷静に攻撃を見て回避を行うことができてしまった。
それを楽しそうにする為に練習と実践の区別がついてないのかと思い野生の魔物と戦わせてみたのだが、攻撃するのが可哀想という理由で攻撃はしないものの相手が疲れて帰るまでひたすらに攻撃を回避したり受け止めたりしていた。
この何事にも物怖じせずに冷静に対処をするのでユディバにはシャーリー謹製の大楯を持ってタンクを担当してもらう事になった。
「我が姫を守りたかったのに……」
とデコバが密かに落ち込んでいたとか。
そういう訳で魔物の攻勢が激しいダンジョンにて誰よりも動いてカリス達を守っていたユディバだったので、こうして自分たちがヘタレ込んでいるのにキビキビと動いて宿屋の手伝いをしているのを見たマリア達は本当に信じられないものを見ている気分であった。
だが、それ以上に誰よりも率先して自分たちを守り、宿屋の仕事を手伝う彼女の事は信頼できる人物であると判断していた。
デコバににしても同様に高い実力をもち、ダンジョンでの探索でもカリス達を先導しながら進む姿は非常に頼りになった。
カリスは同年代の男性と共に冒険する機会が今までなく、それが自分よりも遥かに実力が高くて経験が豊富な相手という事が新鮮であった。
デコバにしても今まで交流したのがユディバくらいだったので、同性であるカリスとの交流は非常に楽しく思えた。
そんな2人が共に協力して難関ダンジョンを攻略しているのだ……仲良くならないわけがない。
こうしてシャーリーの当初の予定通りにカリス達はデコバ達は急速に仲を深めていったのだが、この順調さを気に入ってない者がいた。




